第122話 重婚は良くないよ
辺境伯領の兵力は順調に各個撃破されていっている。ローマと辺境伯では情報力に雲泥の差があるからな。
俺とハーピー達で索敵。発見したらすぐにベリサリウスとエリスへ俺と共にいるエルラインから通達。
連絡を受けたベリサリウス率いる飛竜隊は敵兵力が開けた場所まで出るのを待ってから襲撃。
無線と航空機を持つ俺たちと、早馬程度しかない辺境伯では勝負する土台が違い過ぎる。予想はしていたが、敵兵力はなすすべもなく壊滅していく。
エルラインがベリサリウスへ声の大きくなるオパールを渡したもんだから、彼は毎回ノリノリで演説をかましているらしい。「解散し、戻れ」という高圧的な彼の下知を聞く敵兵力もチラホラいたようだ。そういった部隊は総じて小規模だったみたいだけど。
哨戒を続けているが、フランケルへ向かう敵兵力は見なくなった。
入った情報によると辺境伯から指示が出ていて、各地に集められた兵たちはザテトラークの方へ集合しフランケルへ向かうようだ。
魔の森からフランケルを挟み、ザテトラークまでとなるとハーピーでさえ日帰りでは魔の森まで戻ってこれない。
ザテトラークを直接叩くのなら、フランケルとザテトラーク間のどこかで野営する必要がある。
まあ、飛竜で積荷を運べばすぐに野営陣地が作れるけどな……
現代日本と違って辺境伯領には、人が全くいない草原も森もあるから、彼らに見つかる事もないだろうし。
そんなわけで、俺とエルラインはミネルバに乗って一度ローマへと帰還する。先にベリサリウスはローマに戻っており、ベリサリウス邸にて報告会を行う予定になっている。
「ベリサリウス様。お待たせしました」
ベリサリウス邸のいつもの彼の居室に来た俺は一礼し、着席する。
「プロコピウス。辺境伯はようやく手を打ってきたわけだが、お前なら如何に動く?」
そうだなあ。俺ならザテトラークへ集まろうとする兵を各個撃破する。ハーピーと飛龍の為に簡易的な拠点を築き、そこから監視を続ける。補給が面倒だけど、飛龍の輸送能力を考えるとさほど問題にはならないだろう。
「私ならザテトラークからそう遠くない場所へ拠点を築き、そこから集合する兵を叩きます」
「うむ。それが確実な手段だな。野営は出来る程度に物資の準備を行うよう頼む」
「了解しました」
「プロコピウス。ザテトラークを襲撃するぞ」
え? 各個撃破じゃなかったの? ザテトラークを直接叩くといっても目的は何だ? 街そのものを焼き尽くすことはそう難しくはないが、憎しみを必要以上に植え付けると今後がめんどうになる。
「何を叩くのでしょうか?」
「なあに。示威行為だ。これで折れるなら良し。兵が出て来るのなら叩こう」
良かった。街を消毒するわけではないらしい。ザテトラークの兵といえば、この前出て来たハゲのリーダーが街の防衛に動くのだろうか? 辺境伯直属の兵がどれほどザテトラークに詰めているかで戦況も変わって来るだろうけど、今までのように相手が無策であれば多少の数が居ても問題ないだろう。
辺境伯直属の兵が敗れることで彼らが魔の森のことを諦めてくれるのなら、そこで試合終了だ。なるほど。各個撃破を続けるより早く終わるし効率がいいな。
失敗しても、各個撃破ができる体制を作り上げ、今までのように叩くだけだ。
「了解しました。出る兵は飛龍隊でよろしいですか?」
「そうだな。お前も観戦に来るがいい」
ベリサリウスは今までの礼だと言わんばかりの顔で、俺も誘う。いや、俺は別に行きたくも無いんだけど……彼なりの感謝の印なんだろうけど、本気でありがた迷惑だぞ……
「了解しました。ミネルバと共にご一緒します」
俺は足取り重く、自宅へと帰還するのだった……
◇◇◇◇◇
自宅に戻った俺は、リビングで談笑していたエルラインとミネルバに本日のお手伝いさんであるカチュアと……あれ、ティンまで来ているのか。彼らに帰ったことを告げる。
「戻ったよ」
俺の疲れ切った顔を
「何かおもしろそうなことがあったみたいだねえ」
面白くねえよ! ザテトラークまで楽しくないお散歩に誘われたんだよ! とそのまま言ってやりたいがそうもいかない。
「ザテトラークを強襲するそうだ。ミネルバに乗って俺も行くことになったよ」
「ふうん。面白そうだね。僕も行くよ」
まあ、来ると思ったよ。エルラインが来てくれると、いざというとき頼りになるから、俺としては大歓迎だよ。
「来てくれると助かるよ」
「また君はそんな言い方を……」
やれやれといった様子でエルラインは肩を竦め、ティンとカチュアに目くばせすると彼女達も大きく頷いている。何故こうなる……俺が善意でエルラインがついてこれるよう取り計らってるとでも思っているのか?
それは大いなる誤解だ! 俺は行きたくねえ! ベリサリウスも褒美だと言わんばかりの顔をしていたが、誰が好き好んで戦場に行くんだよ。できれば誰も行ってほしくないってのが俺の気持ちだよ。
来たいと言うなら止めないけど、俺からは誘いたくないよ。
「ピウス様」
ティンが意を決した様子で、俺へ声をかける。
ん。何だろう。そんな改まって。
「ティン。何かあったのか?」
「いえ……ピウス様はご結婚されないんですか?」
「え?」
突然どうしたんだ……ティン。結婚といえば、最近マッスルブが結婚したよな。幸せそうな顔が印象的だった。あいつ、最初会った時ものすごくウザかったんだけど、今ではすっかりいい奴って印象だよ。
「ピウスは誰を選ぶんだろうねってティンとカチュアがさっきまで盛り上がっていたよ」
固まる俺にエルラインが助け舟を出してくれる。要らねえ船だよお!
「そ、そうか……」
「ここに集まった中にピウス様の意中のお相手はいますか? 二人でも三人でも構いませんよ! もう私、独り占めはあきらめたんです」
ティンが拳を握り力説するが、重婚反対ー! 俺は一対一がいいよ。重婚が男の夢? んなわけねえだろ。落ち着かねえよ。毎日、人間関係の難しさに苛まれるのは明らかだ。
「い、今のところ結婚は考えていないから。まだ戦争もあるだろうし……きょ、今日はもう寝るよ! おやすみ」
困った俺は、くるりと回れ右をすると自室へとダッシュで引きこもる。もう出ねえぞ。何があってもなあ。
ベッドに座りながら、俺は机の上に散乱している銀色のサイコロを手で弄びため息をつく。
余りに早く自室に来たので、眠くない。風呂にも入ってないし……しかし、今風呂に行くと確実に襲われるう。エルラインもミネルバも居るのに、無駄に悶々とするだけだろ。
しっかし、この銀のサイコロ……板もそうだけど、何の為に残したんだろうな。銀のサイコロとタブレットPCのような板は俺の住んでいた現代日本より未来の技術で作られていることは確実だ。
こんな重みもない薄い板みたいなスマートフォンは見たことがないし、銀のサイコロにしたってこれほど小さい媒体に半永久的ともいえる動力源を組み込み、映像を出すことができる。
記録されている内容は最悪だけどなあ。ここまでの技術を使って残したいことが、おっぱいなわけないだろう! きっと他に情報があると俺は確信しているんだけど。どうしたもんかなこれ。
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