第123話 おっぱいがキーワード
寝れない! さすがにこの時間だとミネルバでさえベッドに来ていないくらい寝るには早い。
リビングに戻ろうかと思ったけど、何か悔しい気分になるから意地を張ってまだ寝室にいるわけだ。
暇を持て余した時に遊ぶ娯楽が全く無いんだよなあ。
仕方ない。銀のサイコロか板を見るか……
エルラインから銀のサイコロの起動方法を聞いているが、こっちは音が出るからやめておこう。
というわけで、銀の板を手に持ちベッドに腰掛ける。
俺は人差し指で銀の板を上から下へなぞると画面が起動し、本のタイトルが出てくる。
――おっぱい派と脚派の対決
うわあ。予想通り酷い! どっちでもいいよそんなもん! こんなものを超技術を使って残すなよ。
俺は思わず銀の板を投げ捨てようとしたが、これはエルラインから借りてる物だからとなんとか思いとどまり、投げたくてプルプル震える腕を鎮まらせる。
「なんで、おっぱいばっかりなんだよ!」
思わず銀の板へ独り突っ込みしてしまいと銀の板に違う文字が浮かぶ。
<キーワードを認識しました>
キーワードだと?ひょっとして……おっぱいがキーワードなのかよ!
本気で萎えるんだが……
<モードを切り替えますか? はい/いいえ>
モード切り替えか。試しに「はい」をタップしてみると板に妖精? が現れる。
長い緑の髪に背中に生えた四枚のトンボのような羽。服は緑色のノースリーブで裾がギザギザになった貫頭衣を革の腰ひもで結んでいる。水玉模様の白いタイツに茶色の足首までの長さがあるレザーブーツを履いている。
顔は幼く十二歳くらいで、大きな目も緑色をしていて人間ばなれしている。
ん、これと似たような姿を俺は見たことがあるぞ。そうだこれは。ピーターパンに出て来る妖精に似た姿だ。
「はあい。呼んだ?」
うお。画面の中の妖精がしゃべったぞ。声は日本語でなんというかアニメで出て来るような可愛らしい声だ。
これ、会話形式で進めるのか?
「一体この装置は何の装置なんだ?」
俺の問に画面の妖精は首を傾げると……
――とても邪悪な笑みを浮かべる。
「人物認証……該当者無しねえ。ふふ。面白いわ」
「一体どういうことだ?」
「あなたのデータが面白いってことよ」
「俺のデータだって? 話が見えないな」
「少し待ってね。リンクするから」
「リンク?」
「ええ。これは端末でしょ。私がどこにいるのかまず調べるの」
話が見えねえ。何言ってんだこの妖精。しかし、この嫌らしい笑みはエルラインを彷彿させる。知識に寄った人物はみんなこうなるのか?
画面の中の妖精は、両手を胸の前に置き目を瞑っている。これだけ見るとまるで天使のようなんだけどなあ。
「うん。だいたい分かったわ。あなたは私に何の用があるの?」
妖精は一人納得した様子でうんうんと頷くが、俺には何がなんだか。
用があるの? と聞かれてもなあ。たまたまこうなっただけに過ぎないんだけど。
「特に用はなかったんだけど。たまたまキーワード? がヒットしたみたいでね」
「私達のことは知らないかあ。まあそうよねえ。あいつだってこんなに長く生きられないし」
妖精はため息をつき、肩を竦める。
「長くって、その端末? でいいのか? はいつごろ作られたものなんだ?」
「そうね。およそ二千万年は昔かしら」
「二千万だって! 何だよそれ。そんな昔から英雄召喚をやってたのか? 君を作った人もその時代の人?」
「ちょっと違うんだけど、まあいいわ。まあ用もないならおいとましようかしらね」
「ま、待ってくれ。俺は英雄召喚の儀式でここへ連れて来られたんだけど地球に戻る術はあるのか?」
つい地球という言葉が出てしまったが、この板を作成した人はきっと英雄召喚の儀式で呼ばれた人に違いない。だとすると、この妖精も地球のことを知っているんじゃないかと思ったわけだ。
いや、英雄召喚で呼ばれる者は地球に限定されたと決まったわけじゃあないけど。
「地球? あなた地球から来たの?」
「地球を知っているのか!」
妖精が地球を知っている雰囲気なので、俺は希望に満ちた声で彼女に問いかける。
「まあ、知ってるけど。戻る手段は考えてあげる。ただし一つ条件があるわ」
「何だろう?」
「ここに書いてある言葉……日本語を読める人以外に私の事を知らせない事。守れる?」
銀の板はエルラインから借りた物なんだよなあ。エルラインに秘密にするってのは考え物だ。彼は銀の板を俺が見るかわりに協力してくれてるわけだし。
俺が考え込む様子にクスリと微笑んだ妖精が俺へ手を振る。
「私の事を伝えたい人がいるのね? 大事な人?」
「んー。この銀の板――端末を俺に貸してくれた人なんだけど。彼は長年この板を調べていたんだよ」
「日本語を読める人とお話しをするのが私のルール。でもあなたの事情もあるんでしょう?」
「彼は魔術とこの世界の成り立ちに興味があるみたいなんだよ。言語の魔術で分かるかな?」
「あはは。そのことが知りたいの? いいわよ。あなたに教えてあげる。それで満足かな?」
「と、とりあえずは……」
しかし、何でこうも笑い転げているんだ。おかしいことを言ったつもりはないんだけどなあ。
「でも、あなたからその人に伝える事。分かった?」
――その時、急に扉が開く。
扉を開けたのはエルラインだった。よりによってエルラインかよ。
「どうしたんだい。ピウス? さっきから一人でうめいていて」
うめいていたわけじゃない……会話していたんだが。まあいいそれは。
「エル。銀の板に妖精がいた!」
思わず情報を漏らす俺だったが、俺はエルラインには妖精から「言語の魔術」について聞いた後、彼に伝える予定だった。
「妖精だって? 君、あたま大丈夫かい?」
「失礼な……」
俺は銀の板をエルラインに見せるが、いつのまにか画面は真っ暗に変わっていた。
「何もないようだけど? 本当に大丈夫かい?」
「い、いや。確かにさっきまでここに妖精がいたんだって」
俺は銀の板を指でなぞり、本のタイトルを出す。
「おっぱい」
と呟き、画面の様子を確認する。しかし、画面は本のタイトルのままで、先ほどのように「モード切り替え」の画面は浮かんでこなかった。
「寝たほうがいいよ。ピウス」
エルラインは俺の肩をポンと叩いた後、憐れむような目を俺に向けて再び部屋を出て行った。これ、完全に勘違いされてるだろ……
もうなんかどうでもよくなってきた! 俺は手に持った銀の板をベッドに放り投げると、そのまま寝転ぶ。
「ちょっと、投げるなんてひどいじゃない」
銀の板から先ほどのアニメ声が聞こえて来るぞ。今度はモード切り替えさえしていないのに。実は自力でモードチェンジできるのか?
「恥かいたじゃないかよ!」
「私に何も言わずに情報を漏らそうとするなんていい根性してるわね」
「さっき部屋に来た人物……エルラインというんだけど、彼が銀の板をずっと研究してた人なんだよ」
「ふんふん。ちゃんと保管してくれていたことには感謝してるけど……あなたから彼に伝えるのなら構わないって言ったじゃない」
今晩は妖精との会話で遅くなりそうだな……
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