第116話 ベリサリウスからの命令
こ、この状況……どうやって突破するべきか。ムフフなビデオじゃあるまいし、二人同時とか俺には無理だ。一人ならいいのかって言われると、一人なら良い。
しかし、複数の女子とってのも無理なんだよなあ。我ながら潔癖体質だと思うけど、俺のような男はたくさんいるはずだ……日本になら。
ここでは強い奴ほど、複数の女子が求愛してくる。そして、英雄と呼ばれるほどの種族全体から尊敬を受ける人物の血を残したいと考える。人間はどうか知らないけど、ローマにいる亜人はそういった考えを持つらしい。
まあ、一夫多妻も特に問題は無いのだろう。現にカチュアとティンが同時に俺に迫って来ているうう。
冷静に考えることで気持ちを落ち着けよう……そんなことを考えて身動きしないでいると、状況が更に進んでいる。どこのムフフビデオなんだよって風に!
前からはカチュアが俺の口にキスを。後ろにはティンが覆いかぶさって俺の耳をハムハムしている。み、耳は弱いんだよ。ち、力が抜ける。
耳の刺激から頭を少しさげた俺へティンが何か気が付いたようだ。
「ピウス様。耳がお好きなんですね」
待て! 俺のヘナっとなるシーンなんて誰得なんだよ! 何とかしなければ。いや、いつものパターンならばここでミネルバかエルラインが邪魔してくるはずだ。
しかし、俺が嫌がる必要ってあるのか? 二人同時なんて男冥利に尽きるんじゃないか? 何で俺は嫌がっていたんだっけ? 何か良く分からなくなってきた。
前と後ろから柔らかい感触が。んー。女の子の体って柔らかいよね。これだけでクラクラくるよ。
俺は腕を伸ばしカチュアを抱き寄せると、ギュッと抱きしめる。彼女は「んん」と気持ち良さそうな声をあげ、俺の胸に顔をすりつけて来る。
「ピウスさんー」
カチュアは俺にギュッと抱きしめられたまま、俺へ顔をよせ、俺の口へ唇を重ねる。
「ピウス様……」
ティンが切なそうな声をあげた後、俺の左右の耳を手と口を使って撫でて来る。ち、力が抜けるって。俺が思わずカチュアを抱きしめる手を緩めると、その隙にティンがカチュアの横に滑り込んでくる。
<プロなんとかさん。ベリサリウス様がお呼びよ。直ぐに来なさい! はやく!>
ここで、エリスから風の精霊術を使った遠距離会話が……さすがエリス。ベリサリウス様からの依頼だと気合が違う!
やはり邪魔が入ったじゃないかよ!
「ごめん。二人とも。エリスさんから伝言が入った」
俺はティンとカチュアのおでこに口づけをしてから、立ち上がる。
◇◇◇◇◇
エリスからまだなのという催促が二分間隔で頭に響きながら、ようやく俺はベリサリウスの邸宅までたどり着く。エリスはどんだけ必死なんだよ……
ベリサリウスの邸宅の前で、「ピウスが来ました」と声を張り上げると、待ち構えていたエリスが即扉を開く。
出てきたエリスの恰好が目に毒なんだが……胸に薄い布を軽く巻き、下は白い布で腰巻をしているが、しゃがんだら全部見えそうな程短い。ローマの下着はふんどしみたいなものだけど、下着はつけていない。
彼女が動くたびに半分見えたおっぱいが揺れる……
「エリスさん、その恰好は……」
「夜だから仕方ないじゃない!」
「俺、一応男なんですけど……」
「いいのよ。減るものでもないし。ま、まさかプロなんとかさん発情?」
汚いものを見るような目でエリスは手を払う仕草をする。微妙にイラっとくるんだが……
「おお。すまないな。プロコピウス」
奥からベリサリウスの声がすると、エリスの表情が突然切り替わり、乙女モードになる。
「ピウスさん、ベリサリウス様がお待ちよ」
もう何も言うまい。俺はいつものエリスの姿を見て逆に落ち着いたぜ。
エリスに奥の部屋へ通されるとガウン姿のベリサリウスがワイン片手に椅子に腰かけていた。机にはワインの入った素焼きのコップが二つ置かれている。
「ベリサリウス様。お待たせしました」
「遅くにすまなかったな。プロコピウス。よければ飲んでくれ」
俺はベリサリウスに促され椅子に腰かけると、一礼し彼の言葉を待つ。
「飲みながら聞いてくれ。軽い相談だ」
「ベリサリウス様。いただきます」
俺は軽く彼の準備してくれたワインに口をつける。いつのまにかベリサリウスの隣に座ったエリスもワインに口をつけていた。
唐突な呼び出しだと言うのに緊急の話題ではないらしい。こういったところは実にベリサリウスらしいと言える。俺に相談したい軽い話を思いついたから俺を呼んだのだろう。
事前の根回しとか、たいした用事ではないから明日の朝にしようと彼は考えない。俺はこういったところは実直でむしろ好感を持つのだが、人によっては嫌うだろう。
組織の調和とか身分とかは考えない人なのだ。ベリサリウスは。だから宮中でつまはじきにされたんだろうなあ。
「ザテトラークへ揺さぶりをかけてみようかと思ったのだ」
ザテトラークとは辺境伯領の中心地で、辺境伯の城もこの街にある。揺さぶりをかけるってことは、辺境伯に対し何か行動を起こすってことかな。
「ザテトラークへ使者を送るのですか?」
「うむ。攻めて来るなら急ぎ攻めて来いとな。来ぬのなら来ぬでいいと」
「挑発するのですか?」
「これで来ぬのなら、辺境伯は動きはしないだろう。我々とていつまでも座して待っているのは窮屈だからな」
「なるほど。ずっと兵を訓練に出していると、彼らも日々の暮らしが出来ませんしね」
兵となるのはリザードマンや猫耳族が主な種族になる。彼らを兵として抽出し訓練を施している間は、彼ら本来の仕事ができないのだ。こちらの準備が整った現状、待っていれば待っているだけこちらの労働力を食いつぶす。
「ザテトラークへは私が直接出向こうと思っているのだ」
「ま、待ってください。ベリサリウス様! さすがにベリサリウス様が直接行かれるのには反対です」
何を言ってるんだよ。この人は! ボスが自ら敵の拠点に単独で行こうなんて正気の沙汰じゃないよ。
「私以外となると、お前しかいないがいつもお前に動いてもらっているからな。たまには私が行こうと思ったわけだ」
「ベ、ベリサリウス様。でしたら私が向かいます。ベリサリウス様はここで待っていてください!」
うわあ。言いたくないが、俺が行くっていうしかないじゃないかこの状況。
「そ、そうか……私じゃ不適格か……」
がっくりと項垂れるベリサリウスへ俺は慌てて口を開く。
「いえ、ベリサリウス様がローマにいらっしゃらないと、皆困ります。お一人で敵地に行かせたとあっては私の顔が立ちません。どうか」
何で行きたくない俺がこんなフォローしないといけないんだよ。と俺は心の中で叫ぶ……
「うむ……お前がいつも言う立場ってものなのか……窮屈なものだな。お前には昔から良くそうたしなめられたものだ」
「ではさっそく、明朝、ザテトラークに向かいます」
「伝令役を一人連れていけ。人選は任せる」
「了解いたしました。謹んでお受けいたします」
ハア……どうしようかな……この後、ザテトラークでどのように挑発行為を行うのか聞いた俺は、行った振りだけする手段を一晩中考えることになる。
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