第103話 ひどいタイトルだよ!

――十日後

 フランケルの街に行ったものの、大した情報を得ることができなかった。

 最前線になるかもしれないラヴェンナには数度訪れたが、いつもと変わらぬ様子で賑わいを見せている。


 ラヴェンナに来ている行商人や冒険者とも会話してみたが、俺の前という事があるだろうけど、彼らはラヴェンナの方に好意的で辺境伯の傲慢さに眉をひそめていた。

 特に行商人達は辺境伯がラヴェンナを支配してしまうと、自分達のビジネスに影響が出ることを懸念し、俺たちにとても協力的な態度を取ってくれたのだ。

 彼らは食料や武器をラヴェンナに持ってこようかと提案してくれたので、俺は不足するかもしれない弓と矢を頼む事にした。食料はラヴェンナから行商人達へ売るほど余っているので問題はない。


 ヴァルナの街でも俺たちを応援してくれる声は多い。こっちは聖王国への怨嗟えんさの声も多いんだけどね。

 彼らからはツルハシやスコップなどの建築用具を大量に仕入れた。既に数はあるけど、共和国産は質が良いので、今までのものを予備にして、作業用は共和国産のものに入れ替えようと思ったんだよ。

 ベリサリウスは野戦築城を考えてるようだから、建築用具や建築資材は十分な量を揃えておきたいからね。


 カエサルにもすぐに会う事が出来て、辺境伯の情報を定期的に流してくれている。さすがカエサルだよ。彼の情報網は遠く離れた辺境伯領にまで及んでいるだなんて……やはり敵対すべき相手ではないな……

 幸い、今回は辺境伯の独走で聖王国自体は関わっていない為、共和国もノータッチになる。だから、今回の戦は辺境伯と魔の森のみの戦いになるのだ。

 

 ようやくジャムカと連絡が取れて、先ほど彼と会談を行ってエルラインの転移魔法で自宅へ戻ってきたところなんだが……エルラインが例の銀のサイコロと板を十数個、ダイニングルームの机に置いて満足そうな顔をしている。

 

「エル……それ見るの?」


「ん。何か有力な情報があるかもしれないじゃないか」


「ジャムカの事を検討したら……また見るよ……」


「ふうん」


 ジャムカの事を検討するとエルラインに言ったんだけど、大して検討する余地はない。ジャムカはこの一年で騎馬民族の糾合きゅうごうに成功し、いよいよ草原を占領している聖王国に牙を向こうというところまで来ているようだ。

 予定だと俺達と辺境伯の戦争よりジャムカ達の方が若干早く戦闘開始となる運びになる。ジャムカの勝利によって、聖王国が復讐戦を挑む場合、ひょっとしたら辺境伯も兵を拠出するかもしれない。

 そうなれば、辺境伯はこちらに攻めて来ないだろう。もしそうなれば、聖王国による復讐戦への迎撃には協力したいと思っている。とはいえ、草原とここは距離がかなりあるから、飛龍で少数を派遣するに留まるんだけど……

 

 あ、もう検討が終わってしまった。あの銀色のサイコロと板はエルラインから預かった分は全て閲覧した……本当にロクでもない内容ばかりだっんだよ!

 思い出したくないが、板にあったタイトルをいくつか……

 

――金髪美女と大和撫子について

――一番そそるレッグウェアとシチュエーション

――男は何故たまーに足で踏まれたくなるのか


 まだまだあるが、本当にくだらないんだよ! たぶんこの板とかサイコロは貴重なんだろうけど、この内容は無いだろ。酷すぎる。こんなものを後世に残そうと思ったとか正気を疑うレベルなんだけど……

 

「どうしたの? そんな考えこんじゃって」


「いや、その銀の板に書いていたタイトルを思い出してさ……」


「中身は読んだのかい?」


「タイトルを見て諦めたんだけど、読むべきなのかなこれ……」


「大量にあるから、タイトルで目を引くものから先に読んでくれたら助かるよ」


 それは暗に目を引かないモノも後で目を通せって言ってないか。俺はエルラインと違って悠久の時を生きているわけじゃないんだぞ!


「ま、まあ。預かるよ。時間が出来たら読むさ」


「助かるよ。僕に頼みたい事があれば言ってね」


「ありがとう。俺も自分の出身国の言葉を読むのは楽しいんだけど、このタイトルじゃあなあ」


「銀のサイコロの彼みたいな欲望が君には無いのかい? ベリサリウスもそうみたいだけど……」


「普通の青年男子並みにはあるよ! 全く」


「その割には……誰にも手をつけていないみたいだけど?」


「ほっといてくれ! 俺も何かとデリケートなんだってば」


 それにこのサイコロの映像の男はきっと、全くモテてないぞ。自身の欲望ダダ漏れなのは、ぼっち故の叫びだと俺は確信している。何となくだが分かるんだよな。


「お、ピウス。帰っていたのか」


 俺とエルラインの話声を聞きつけたミネルバがこちらへ向かってくる。カエサルと連絡をいつでも取れるように彼女には無理を言ってこちらに来てもらっているのだ。

 ミネルバが来ると、いつも風呂にも寝床にも入って来るから困る……俺の精神力的に。

 だから、なるべく泊めたくないんだけど状況がそれを許さないから仕方がない……家をつくってるって言ってもここに泊まると主張するんだよなあ……

 

「ミネルバ。もうしばらくの間、頼む。悪いな」


「いや我はずっと此処にいてもいいのだ。気にしなくていい」


「そ、そうか……助かるよ」


「カエサルの元にいる龍より連絡があれば、すぐお前に伝えるから安心してくれ」


「ミネルバとは離れていても会話できるんだよな……あれ? ここに居なくても大丈夫なんじゃ?」


「……気づいてしまったか。まあよい」


「……帰ってもいいよ?」


「いや、戦争が終わるまでいるから安心してくれ」


 何でこんな簡単なことに気が付かなかったんだ俺……俺が頭を抱えているとエルラインにポンと肩を叩かれた。ハッして振り返ると、彼はニヤニヤとした表情を浮かべ肩を竦めているではないか。

 ちくしょう。俺だけかよ。気が付いてなかったのは……


 ただミネルバとの会話は一方通行なんだよ。俺からミネルバへ話かけることは出来ない。俺に魔術の心得があれば可能らしいけど、生憎、欠片ほどの素養もないんだよ!

 一方通行の会話でも、龍の巣から伝えてくれればそれで事は済む。先日エルラインにミネルバへ連絡を取ってもらったけど、俺はエルラインに銀のサイコロの件で協力しているから、彼も俺に移動魔術と通話で協力してくれている。

 

 結論、ミネルバを呼ぶ必要はなかった! さらに言うと、ミネルバ自体必要無かったかもしれない! エルラインに龍と会話してもらうように頼めばいいんだよな……

 しかし、遠隔会話の仕組みが分かっていないから、エルラインが誰と会話できるのかも分からないし、双方向に会話できるのかも分からない。

 俺とエルラインだと、彼の声が一方的に聞こえるから、魔術の素養が無い者とは一方通行の会話になるのかもしれない。

 龍同士は双方向に会話できるみたいだけど……

 

 まあ、自分が分からない精霊術や魔術の事は条件など不明だし、ミネルバがここに居ても不都合は俺の精神力だけだから、問題はないんだけどね……

 裸だけはやめて欲しい……ほら、アレがアレするからさ。

 

 何で襲い掛かるのを我慢しているのかと自分でも思うけど、今更どうこうするのもアレだろうという変なプライドのせいだよ……俺はため息をつき椅子に座りなおすのだった。

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