第91話 俺のライフが削られるメンバー

 清々しい朝だ。数日前にも同じことを思った気がするが、とにかく朝日が眩しい。

 おや、俺の隣には人型になっているミネルバが寝ている。反対側にはティンが。どうしてこうなった?


 それはだな、ミネルバがティンを誘ったからなのだよ。龍はみんな一箇所で寝るらしい。もはや龍の習慣に突っ込む気はさらさらないんだけど、ミネルバは当然のように俺の寝床で寝ると主張した。

 彼女の習慣では、ひとかたまりになって寝る。だから、ティンも当然同じ寝床で寝ると思っていたと言うわけだ。

 ティンにはもちろん彼女の家がある。ここに下宿している訳では無いから、家事をやってくれる時には夕ご飯を片付けた後は彼女は彼女の家に帰宅する。

 当然だ。自分の家が一番落ち着く。


 ミネルバは自宅に帰ろうとするティンの腕を掴み、俺の寝床に誘ったことで俺の悶々とした夜が始まったと言う訳なのだよ。二人とも寝ていたらとても可愛い。寝ていたらな……

 俺は間違い無く人間なのだが、ハーピーのティンにも龍のミネルバにも反応してしまう。何処がとは言わないけど。


 そんなわけで、朝を迎えた俺はカエサルの元へ旅立つべく準備をしている。

 現地まではミネルバの背に乗せてもらって行くつもりなんだけど、飛行すれば朝に出て休憩を挟みながらになるが、日が暮れる前には着くみたいだ。

 歩いて行けばどんだけかかるのか不明だけど、龍は飛竜より飛行速度が速い。それはともかく、道中は安全確実空の旅ってのは素晴らしい!



◇◇◇◇◇



 えーそんなわけでミネルバの背に乗り空の旅へと繰り出したわけなんだけど、メンバーが……エリスとエルラインというドエスコンビなんだけど……ダークエルフのエリスを連れて行くにはエルラインの変身魔術が不可欠だ。

 俺としてはティモタを連れて行きたかったんだけどなあ。ミネルバの背は広く、俺とエリスは横並びで背に乗り、前にエルラインが座っているが俺達の方を向いている。要は三人で輪になって座っているというわけだ。

 ベリサリウスに報告を行った際、エリスは彼の後ろに控えていたから、俺がカエサルに会いに行くってのはもちろん知っている。

 カエサルが居る場所はミネルバの話から想像するに共和国内になる。共和国は魔法を使える人間がほとんどいないが、その分、技術力が発展している国と聞いている。

 

 俺も忘れていたが、ダークエルフの村へエリスと行った時に彼女はベリサリウスの故郷――ローマの都市を見たいと言っていた。共和国は技術力が発達しているから、ひょっとしたらローマにあったような風景が見れるかもしれないってことでついて来たというわけだ。

 ベリサリウス脳だけど、こういうところは少し可愛いと思ってしまう俺であった。つい笑みが出てしまいエリスに目をやると、いつものおっぱいを主張した胸の前で腕を組むポーズをしつつも彼女は不満そうな顔で、俺を見返す。


「なあに? プロなんとかさん」


「いえ、いじらしいというか可愛いところがあるんだなあと思っただけで……」


 言ってからしまったと思うがもう遅い。


「何よ! 私はベリサリウス様にしか興味がないのよ。あなたには興味がなんてないんだから……美形なのは認めるけど」


「俺の容姿の事はどうでもいいんですよ! エリスさんのベリサリウス様と同じ風景が見たいっていうところにそう思っただけなんですって」


「あなた。無意識だろうけど、そうやって次々に女の子を毒牙にかけていったのね……」


 ヤレヤレと言った風に肩を竦めるエリス。どちらかというとさっきの言葉は、思ってることがつい口から出てしまっただけで、毒牙とかそんな意味は……あ、それが無意識ってことか。


「全く……ティンにカチュアに今度は龍の娘……既にハーレムね」


「そんな気はさらさらないんですけど……」


「ふうん。君のお気に入りは誰かな? やはりティンなのかい?」


 エルラインが割り込んで来た! だから嫌なんだよ。このメンバーは。俺が袋叩きに会うだけじゃねえか。


「へえ。気になるわね。プロなんとかさん。誰よ。ティンがいいの?」


「ティン……彼女はいつも元気いっぱいで俺に元気を分けてくれるかな……」


 キャアとエリスは嬉しそうな悲鳴をあげる。エルラインもニヤニヤしたままだ。ちくしょう。

 

「ふうん。じゃあじゃあ。カチュアはどうなの?」


 エリスが更に畳みかけてくるうう。もうやめて。俺の精神力は限界だ。


「ほ、ほら。犬耳族の村が見えて来た。一度ここで休憩しよう」


 俺は眼下に見える犬耳族の村を指さす。明らかな誤魔化しに二人は爆笑していたが構うものか。

 ミネルバはローマから北東へ進み、リザードマンの村を越えそのまま直進。暫く行くと大河が見えてきて、そのほとりに犬耳族の村を発見した。カエサルのいる共和国は、大河に沿って下流へ進み、海へ出る。

 海に出たら東へ進むと共和国領の港街が見えて来るそうだ。ミネルバの情報によると、ローマ・犬耳族村間の距離は全体の四分の一くらいになるらしい。

 できれば半分くらいの距離で休憩を挟みたいところだけど、知らない土地で休むよりは犬耳族の村で休憩を挟んだほうが安全だろうということでここで休憩しようと思ったわけだ。

 

 犬耳族は少しミネルバに驚いていたが、俺の顔が見えると落ち着いた様子で歓待してくれた。俺たちは持ってきた携帯食料に水を飲み一息つく。その間俺はいじられ続けていたわけだけど……

 もうやだ。このメンバー!

 

 休憩を挟み、また空へ。さあ快適な空の旅へ出発だ! せっかく気持ちを切り替えたのにこいつらと来たら……

 も、もういい加減ほっといてくれよおおお。


「プロなんとかさん、ひょっとして女の子に興味が無いんじゃないの?」


「確かに……それはあるかもしれないね」


「まさか! プロなんとかさん! ベリサリウス様は渡さないわよ!」


「そういえばいつもベリサリウス様! って言ってるね」


 二人は勝手に盛り上がって、エリスに至っては俺を睨みつけてる。

 

「俺は男色じゃありませんですって! 例えそうだとしても、ベリサリウス様にその気はありませんよ」


「そういえばそうだったわね。ベリサリウス様は同性愛者じゃなかったわ」


 その情報をエリスに与えたのは俺なんだけどな……最初に会った時に疑いの目を俺に向けただろ。


「例えそうだったらどうなんだろうねえ」


 エルラインがニヤニヤとエリスと目を合わせる。何やらまた話始めた……俺は貝になるのだ。

 

「そうねえ。エル、あなたとなら絵になりそうだわ。うふふ」


「残念だけど、僕はもう生物として君たちと別の存在だからねえ」


「ふうん。そうなの。せっかくいい絵が見れそうだったのに」


「僕の見た目は確かに少年だけど、年齢となると……君のところの族長よりはるかに上だよ」


「えええ! そんなに生きてるの?」


「生きてると言うのは少し違うけど。まあ、気にすることでもないね」


 盛り上がっているところ悪いけど、街が見えて来たぞ。街の様子は十六世紀くらいの南欧の港街に近い風景に思える。リスボンとかセビリアっていった感じの。

 街は逆三日月型の湾のまわりに作られており、それに沿って家が立ち並んでいた。港も整備されており、大きな船や小舟が接岸していた。

 俺はこれまで人間の街はフランケルしか見たことが無いけど、フランケルはせいぜい十世紀くらいの中世都市って雰囲気だった。目の前に広がる港街に接岸している船の中にはなんと帆船まである。

 帆船は三枚帆の縦と横帆の組み合わさったもので速度が出そうだ。噂に聞いていた以上に技術格差がありそうだな。パルミラ聖王国と共和国は。

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