第75話 お約束の風呂展開!
ついに風呂に入れる! 俺は脱衣所で服を脱ぎ、並々とお湯が入った湯船を眺め悦に浸る。
かけ湯をしてから軽く体を拭く……麻の布だし、石鹸が無いからスッキリしないけど、今はそんな事は気にならない。
いよいよ、足を湯船の中に……そのまま湯船に入り、座る。
お湯加減はいかがですか?
はい、最高です。
自分の心の中で受け答えするほど俺は浮かれていた。
いやあ気持ちいい。異世界に来て初めて入る風呂は至福のひとときだった。
だったのだ……
――ガラリと脱衣所から誰かが入ってくる。
それは前をタオルで隠し顔が赤くなってるティンとすっぽんぽんのカチュアだった……
普通ならこれはサービスシーンのはずだが、違う、違うんだ!
俺は一人で悦に浸りたいんだ!
し、しかし、カチュアの全身が目に入る。け、けしからんが、もう少しおっぱいが小さい方が俺好みだ。
そう、隣で恥ずかしそうにしているティンのような。
何を考えてる! 俺!
「二人とも……俺があがってからゆっくり入ってくれていいから」
俺の言葉にカチュアがあっけらかんと恥ずかし気も無く俺に言い放つ。
「エルさんが一緒に入るとピウスさんが喜ぶって!」
カチュアは両手を万歳し体いっぱいで表現してくるが……だから隠せ。隠してくれー! 変な気分になったらどうするんだ。
「い、嫌ではないけど……初風呂だからゆっくり入りたいというか……雑念を払いたいというか」
俺がしどろもどろになっていると、ティンが真っ赤な顔のままボソリと呟く。
「ピウス様……私たちと一緒じゃやっぱり……」
「い、いや。そういうわけじゃあない! これは、いやあの」
俺が言いよどんでいるうちに、カチュアは湯船まで歩いてきて中に入ろうとしているじゃないか! かけ湯もせずに入るとは何という奴だ。まあ、風呂の習慣さえない彼女にそんなこと分かるわけもないか。
俺が「うんうん」と納得している間にもカチュアは湯船に入ってきてしまう。
「カチュア……」
「ん?」
ん? じゃねえよ! 近い! 近いんだって。
「カチュア、ち、近い」
「ん? んん」
何か納得したカチュアは、俺の肩へピタリと張り付き俺の手を両手で握って来る。う、腕におっぱいが当たってる。カチュアは胸のある方ではないけど、多少膨らみがある。
だから感触もダイレクトに俺の腕に伝わって来る……もはや初風呂を楽しんでいる余裕が無くなって来る俺だが、ふとティンの方に目をやると、何やらモジモジしたまま彼女は固まっている。
「ティン、入らないの?」
カチュアが不思議そうにティンに問うものの、彼女は硬直を解かない。
「ピ、ピウス様! 私……その……」
そんなに恥ずかしかったら来なきゃいいのに! でもそんなこと言えないぞ。
「ティン、無理しなくてもいいんだぞ……」
俺の言葉にティンはかぶりを振る。
「違うんです! 私……」
ティンは一度うつむいた後、意を決したように俺の目を見る。
「私、その……私、胸がこんなですし。ピウス様を不快にさせないかと不安で」
ティンはタオル越しに自分の胸に手をやり眉をひそめる。ん、いや。俺はぺったんのほうが好きだ! 何言ってんだ俺は。
ティンは恥ずかしいのではなく、胸にコンプレックスを持っていてそれを見た俺が嫌な気分になるかもと不安に思っていたらしい。なんという斜め上の思考!
恥ずかしくないのかよ! 仮にも男の前で裸だぞ。あ、ひょっとして……俺、そういう対象に見られてない? それはそれでショックだけど。
「大丈夫だよー。男の人は女の子の裸が好きだって。パオラが言ってたよ」
カチュアが思いっきり俺の腕にしがみつき笑顔でティンに声をかける。ティンの目が一瞬ものすごく悲しそうな顔になっていたのを、俺は見逃さなかった。
しかし、カチュアの柔らかい感触が俺に伝わってきて思考が余り働かなくなって来た。
「そうなんですか? ピウス様?」
待て。俺を「男の人」の代表に聞くみたいに問わないでくれるか。
「あ。うん。そうだね。男で女の子の裸を見て嫌な気分になる奴はいないさ」
「私でも?」
「もちろんだとも!」
やべえ、変な口調になってしまった。相当てんぱってるな俺。
ティンは俺の言葉で安心したのか、タオルを床に落とし湯船に入って来る。
「ピウス様。もう少し寄ってもらえますか?」
ティンはカチュアが張り付いている反対側に座ろうとしたが、入るに少しスペースが足りない。俺は彼女の希望どおり少しだけ位置をずらす。
「ピウス様。失礼します!」
ティンは勢いよく俺の腕を取るとそのまま抱え込む。うああ。両手に花だー。すげえなあ俺ー。
あー。もうこのまま逝けたらどんだけ幸せかー。
「ピウス様! 大丈夫ですか?」
ティンの心配そうな声で俺はこっちの世界に戻って来た! ダメだ。余りの刺激にトリップしていたらしい。
だって考えてみろよ。俺はここに来てから数か月。こういった刺激は皆無だったんだぞ。来る前も両手に花とか経験は無いし……
ティンとカチュアの二人だから逆に抑えられているけど、これが一人でこのシチュエーションなら襲い掛かっていたかもしれない……
「ピウスさま、ハニートラップにご乱心」って、別に誰にも攻められることもないか。あ、いいのかな。襲い掛かっても。
「ねえねえ。ピウスさん。エルさんがさ、二人いればおもしろくなるって言ってたんだけど何の事かわかる?」
カチュアが頬を俺の肩にスリスリしながら問いかけて来る。ちくしょう! エルラインの奴! 俺の性格をお見通しって奴かよ!
「何となく分かるけど、カチュアに言うようなことじゃないな……」
「えー。気になるなー。ティンは分かる?」
「え? わ、私はこうしてピウス様の体温で幸せです」
質問に答えてないって! ティン。まあ、この調子なら二人とも俺が襲い掛かるとか考えてないようだから、まあいいか。
しばらく湯を楽しんでいると事態が一変する。
――カチュアがのぼせて、風呂から出て行った……
取り残される俺とティン。
「ピウス様……」
ティンものぼせて来たのか、俺へ寄りかかって来る……ま、まずいって。
「ティンものぼせたのか? そろそろ出る?」
「ピウス様ー」
ティンがギュっと俺に抱きついて来る! いつも抱きつこうとする仕草は見せるんだけど、我慢している節があった彼女が大胆にも俺を抱きしめて来た!
や、やばいって! 今の俺は理性ギリギリっすよ。
「ティン?」
「ピウス様。私はピウス様に仕えることができて幸せです!」
「俺もいつもティンが頑張ってくれて助かってるよ。ありがとう」
「えへへ。ピウス様、暖かい」
か、可愛いじゃないか。ちょっと待ってくれ。このまま押し倒してしまいそうなんだけど。
「ティン」
俺は至近距離にある彼女の顔をじっと見つめると、彼女は恥ずかしいのか目をつぶる。俺は彼女の顔にさらに顔を近づけようと……
あれ、ティンの身体から完全に力が抜けてるじゃないか! あ、これ。のぼせたな……
俺は彼女をお姫様抱っこして浴室を出たのだった……
一つだけ気になることを彼女は気絶中に呟いていた。それは「あなたとの卵が欲しいです」ってことだ……卵って何? 怖くて聞けないって。
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