第74話 オパールに魔術を込める
ローマに戻ってから気が付いたことだけど、街の名前を聞いていなかった! つ、次行った時にでも聞くとしようじゃないか。俺はローマに到着してすぐベリサリウスの元を訪れ、街の様子を報告してから、ラヴェンナの展望を彼に提案する。
彼はローマへ人間を入れることは慎重を期したほうがよいという俺の意見に同意してくれたうえに、ラヴェンナの街計画についても全面的に賛成してくれた。
何とお褒めの言葉まで頂戴したのだった。
この先のことを考えると街計画を指導出来る人材がやはり必要だろう。現状ライチとティモタに任せているけど、彼らには研究という大好きなことをしてもらいたい。
やってみたい人をローマで募ると人は見つかるだろうから、ライチにつけて学んでもらうか。
ナルセスの事ももちろんベリサリウスには伝えたが、彼は会う事が会えばそれも運命だろうと意味深な事を言ったきり、ナルセスについては口をつぐんでしまった。
ローマ時代に何か思うことがあったんだろうか……
俺はラヴェンナとローマを行き来しつつ全体の監督を行っているけど、比較的自由な時間がある。
そんなわけで、持ち帰ったオパールを自宅の机に並べエルラインと魔力の蓄積と魔術の発動について会話を交わしている。
「エル。オパールは魔力を勝手にため込むんだよな?」
「まあ、そう思ってもらっても問題ないよ」
エルラインは肩を竦め、乳白色のオパールを手に取る。このオパールの大きさは五百円玉くらいのサイズだ。彼はオパールを握りしめると俺へと振り向く。
「何か行ってるのか?」
「ああ。試しに魔術を込めてみるよ」
「おお。すぐにできるものなのか?」
「んー。簡単なものを発動できるようにしようか」
エルラインが手を開くと、握りしめていたオパールがぼんやりと光を放っているではないか! 彼は机の上に件のオパールを置くとそっと手を離す。
俺はぼんやりと光るオパールに近寄り凝視する……当たり前だが見たまんま、やはり光っている! こんな短時間で魔術を込めれるのか?
「エル。光ってるよ!」
「見ればわかるじゃない……」
俺のはしゃぎように苦笑するエルラインだったが、悪い気はしないのかもう一つ乳白色のオパールを手に取る。
「エル? これ触ってもいいのかな?」
「特に害はないよ。それは光の魔術を発動するようにしたんだ。オパールにたまった魔力が動力源だね」
「おもしろいな。魔力って! 魔力が何に変換できるか次第だけどこれは劇的に技術が進歩するかもしれないぞ」
魔力を電気に置き換えて考えてみると分かりやすい。魔力は動力になるはず。俺に技術力はないから、ティモタなりに開発してもらったら、魔力を使ってタービンを回転させ電気を作ることだってできるんじゃないか?
いや……コイルを使って電気を作れたとしても活用できる科学力はもちろんないから無用の長物だ……もっとも……単純なものならライチと協力し開発できるかもしれない。それでも大きな進歩だぞ!
「エル。オパールに魔術を組み込むことって誰でも出来るの?」
「やり方次第では誰でもできるよ。ただ……」
「ただ?」
「君はそのままでは無理だね。体に魔力が無いから魔術が発動しない」
「……残念だよ……」
「まあ、約束どおりちゃんと考えてあげるからさ」
「おお! ありがとう」
次にエルラインが机に置いたオパールはほんのりと暖かかった。これは肩に当てていると疲れが取れそうなオパールだなあ。これを敷き詰めて寝転んだら気持ち良さそう……
俺が物思いにふけっていると、エルラインはさらにオパールを置く。
「ん? エル? このオパールは見た感じ何が起こってるかわからないな」
「うん。それはね。浄化の魔術が発動してるんだよ」
「ほうほう。温めるオパールと浄化のオパールはこの前言っていた奴だよな。他に簡単なのって何があるんだろう」
「何がって言ってもねえ。君は魔術も魔法も分からないだろう。どんなものが欲しいんだい?」
そう言われると考えてしまうな。ローマで解決できていない問題はいくつかある。精霊術を使えば解決するのだけど、精霊術は人に依存するから街の設備としては不適切だ。一方、オパールは置いておくだけで勝手にオパールが魔力を集め魔術が発動する。
エルライン曰く、魔術を込めたオパールは魔力を持つ人なら作ることができるらしい。どうやるのかはだいたい想像がつく。魔術は脳内で三次元パズルを組み立てて発動するもので、三次元パズルの形を固定してしまえば、魔術がなんたるかを分かっていなくても発動することができる。
つまり、オパールに魔術を発動する――例えばオパールを光らせる魔術を固定化し、魔法にしてしまえば誰でも使えるものになるんだ。
今懸念となっているのは、汚物の浄化、風車が失敗したから……もう一つは上下水道を作る為ポンプのようなものがあれば便利だな。
あとは風呂だ! 風呂は外せないだろ。風呂に必要なのは浄化と熱源。技術力があれば、熱源のみで全て代用できるんだが……例えばお湯さえ沸かせれば、蒸気機関を作り、それを動力にして水を動かすこともできる。水が回転させれるのなら、当初の汚物処理案を試すことだってできる。
技術力が無いからこそ、単純に「浄化」「ポンプ」「お風呂用の熱源」の三点を準備できれば目的が達成できそうだ。これなら置いておくだけで解決するからな。
「エル。俺が欲しいのは三つあるんだけど」
俺はエルラインに「浄化」「ポンプ」「お風呂用の熱源」について説明する。エルラインが言うに作成することは全く問題ないし、単純な魔術だから魔法化したとしても使える人は多く出るだろうと見積もってくれた。
魔法化する場合、性能は固定になり調整は効かない。試作用にいくつか作ってもらって、実際に試しながら威力の調整をエルラインにしてもらうか。
便利過ぎるオパールだが、デメリットはもちろんある。ずっと魔術が発動し続けることと、オパールに蓄積した魔力が切れれば魔術発動が止まるってことだ。
エルラインの情報ではオパールによって魔力蓄積量が違うらしいから、こればっかりは地道な調査が必要だ。
さしあたり、浄化のオパールは汚物蓄積所に突っ込もう。
「浄化」「ポンプ」「お風呂用の熱源」はまず小さいものから試し……大きなものへと検証していけばいいか。
つまりだな。
――俺の風呂を先につくる!
い、いや。あくまで実験の初期段階としてつくるんだぞ。決して俺の快楽の為ではない。そこのところ忘れないでくれ。
「エル。とりあえず威力の違うものをいくつか作ってくれないか?」
「いいよ。お風呂用の熱源ってのだけは温度はだいたい分かるんじゃあない?」
「だな。桶に水を入れて来るからそれで温度を伝えるよ」
「じゃあここで待ってようか?」
「ああ。そうしてくれ」
俺は鼻歌を歌いながら水を汲みにいくのだった……
◇◇◇◇◇
実験を繰り返すこと二週間……ついに。風呂が出来た!
風呂は木製で、二メートル四方ある正方形。湯の深さは座って肩が少しでる程度。いいぞ。理想的な湯舟だ。
俺は感動に打ち震えてると、エルラインが冷めた声で俺に告げる。
「風呂の調整はこれでいいのかな?」
「ああ。エル。完璧だ。風呂だ。風呂だよ!」
「ピウス……上下水道をとか言ってなかったっけ?」
「……優先度はそっちのほうが高いことは認める。しかし! ここに風呂がある!」
「分かった……もういいから入りなよ……」
エルラインはあきれてその場を去っていく。
お風呂の為に、俺は一部屋作ったのだ。この部屋は風呂用の部屋! つまり浴室だー!
浴室の隣にはちゃんと脱衣所まで作っている。脱衣所は別に必要無いと言えば必要無いが、こういうのは雰囲気が大事なんだぜ。
さあ、いざ行かん桃源郷へ。
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