第59話 魔術とは?

 翌日も引き続き陣地作成に精を出す。エルラインは転移魔術? の準備をしているのか朝からずっと座禅を組み瞑想状態になっている。何しているのか聞いてみたいけど、邪魔したら悪いからなあ。

 俺はと言えば、マッスルブへ作業指示の引継ぎを行ったから実はやることが無い。マッスルブは最初の草抜きから犬耳族へ指示を出してくれていたから、俺の作業指示もすぐ理解してくれて適格に犬耳族を動かせているようだ。

 ローマでの彼らの信頼関係が成せる技だろう。


「どうしたんだい? ウロウロして」


 瞑想中のエルラインに話かけられてしまった。いや特にやることが無かったから、みんなのところへ順に様子を見に行っていただけなんだけど......


「いや。特には」


「全く。君は堂々と構えていればいいんじゃないのかな。ソワソワしてると他の人もソワソワするよ」


「といってもなあ。今下手に手伝うと邪魔になっちゃうし」


「ふうん。君らしいね」


 エルラインはいつものクスクスとした子供っぽい笑い声をあげる。最初この笑い声は嘲笑かと思ったりもしたんだけど、この笑い声は彼が楽しい時にあげる声だと分かって来た。

 彼が楽しそうなクスクス笑いをする時って、知的好奇心が刺激された時だと俺は予想している。何に興味を持ったのかなあ。


「エルは俺としゃべっているけど、魔術に集中しなくていいのか?」


「うーん。後はここに座っているだけだよ。もう施術は施したからね。安定するのを待ってるだけさ」


「ふうん。そんなものなのか」


「そんなもんなんだよ」


 座っているだけか。なら、話することはできるんだよな? ちょうど話す時間が出来たから、魔法の事を少し詳しく聞きたいな。


「エル。話すことは問題無いなら、魔法の事を少し教えてくれないか?」


「うん。いいよ」


 エルはカラカラと笑顔で興味深そうな顔をしている。


「魔法は頭の中でパズルみたいなものを組み立てて、魔力を使って発動するんだっけ?」


「まあ、その認識で問題ないよ。パズルと言っても、何ていうか積み木に近いのかなあ」


「図形を組み立てる感じかな?」


「そうだね。積み木と違って、二次元の正三角形を組み立てて形を作っていくんだよ」


 んー。正三角形のパネルを組み合わせて立体にする感じかな。コンピューターがあれば、どれだけ複雑でも組めそうだけど。脳内でやるとなると、パネルから立体的に組み立てるのって結構タフだと思うぞ。


「じゃあさ、脳内のイメージじゃなく、木を使って魔法発動のパズルを作ったらどうなるんだろ?」


「実際そういうものはあるよ。魔法の練習用だね。正三角形の木のパズルを手で組み立ててイメージを作るんだよ」


「なるほど。そうやって手でパズルを作って、頭の中でイメージを作れるようにするのか」


「うん。そうだね。イメージさえ頭の中で作れれば魔法は発動するよ」


「俺の場合は魔力が無いからダメなんだっけ?」


「うん。そうだね。僕は君に考えておくっていったのは、魔力を溜めるオパールという宝石を使おうと思っていたんだよ」


「おお。オパールにそんな効果があるのか?」


「うん。オパールの結晶構造は空気中の魔力を吸収する効果があるんだよ」


 んー。オパールって三角形のパネルで作れる構造だっけ? 詳しくないから全く分からない! ま、まあオパールがあれば魔力を使えるってことなのかな?


「じゃあ、オパールを俺が持てば魔法を撃てるのか?」


「んー。話はそう単純じゃないんだけど、オパールに少し加工して君に魔力が流れるようにする。魔力が流れた時に君が魔法を発動するって寸法さ」


「なるほどなあ。いずれにしろオパールが無いとダメか」


「うん。人間の街にある宝石店に行けば安く手に入るよ」


「え? 魔力を溜めれるのにそんな安いの?」


「普通の人間にとってオパールは、ただの宝石に過ぎないからね」


 宝石扱いってことなら、オパールはそれほど高価な宝石ではない。地球基準だけど。ここでも良く似たものなんだろうか?


「溜めれる魔力が微々たるものなのか? だからただの宝石と同じってこと?」


「んー。物によっては平均的な人間一人分の魔力くらい溜まるよ。でもね。魔力を引き出す加工が彼らには出来ないんだよ」


 そういうことか! やっと話が繋がった。魔法では実現不可能で、エルラインなら出来るとなると魔術か。


「やっと分かったよ。魔術を使うんだな。でもさ、魔術と魔法ってそもそも何が違うんだ?」


「魔術の中で、簡易的にやれることを決めたのが魔法と言えばいいのかな」


 はてなマークの俺にエルラインは親切に魔術について説明をしてくれた。彼が言うには魔術は魔法と違い組み立てる元となる形も決まってなければ、組み上げる立体図形も決まってないそうだ。

 正三角形と違った図形で組み立ててもいいし、魔法と違って完成する立体図形は無限大になる。

 魔法は魔術の中でも正三角形を使い、効果を単純化し一定にすることで、完成する立体図形も簡素な物としている。だからこそ、パルミラ聖王国では魔法を使えるものがほとんどとなっているんだそうだ。

 本来魔術というものは、炎弾一つにしても、込める魔力の量によって威力を調整したり、飛距離や大きさまで変えることが出来るらしい。ただ魔術の本質を極めなければ、どこをどういじればいいのかが分からないようだ。


 パルミラ聖王国は過去に魔術から誰しもが覚えることができる魔法を体系化し、魔法の力で大国にのし上がったというわけだ。


「なるほど。分かってないけど、魔術なら思いつくことを何でも出来るって思っておけばいいのかな」


「うーん。少し違うけど。まあ、君の認識だったらそれくらいでいいんじゃないかな。ただ、魔力量が大きすぎる内容だと難しいよ」


「山を持ち上げるとかなら、いくら魔術でも魔力が足りないってことだよな?」


「例えがすごく悪いけど。間違ってはいないね」


 ヤレヤレとエルラインは肩を竦める。

 魔法と魔術のことばかり聞いていたけど、エルラインは精霊術についてはどうなんだろう。彼の説明は非常に分かりやすいから、この機会に聞いておきたいな。


「エル。精霊術については分かるか?」


「僕はエルフじゃないからねえ。精霊は見ることが出来ないよ」


「そうかあ。俺には精霊の加護がついてるらしいんだけど、精霊を見ることが出来ないんだよ」


「人間で精霊の加護つきかい。それは面白いね。精霊を見るってのに興味が沸いて来たよ!」


「え? エルは精霊が見えないんだよな?」


「うん。そうだよ。でもね。魔術で何とか出来ないか、エルフかダークエルフの目を見させてもらうよ」


「それは面白そうだ。成功したら俺にも精霊が見える魔術をかけてくれないか?」


「成功したらね」


 エルラインは子供っぽく微笑むと、俺にそう約束してくれた。もし精霊を見ることが出来るのなら、精霊術が使えるかもしれないぞ! テンション上がって来たー!


 エルラインと話をしていると日が少し傾く時間にまでなっていたが、ここへハーピーが舞い降りたことで事態は動き出す。

 彼女はなんとガイア達を森で発見したというのだ。今日はまだガイア達との約束の日ではないし、先日聖教騎士団が攻めて来たところだから、しばらく来ないと思っていた。

 何か彼らにあったのだろうか?


 幸い、昼前には飛龍がこちらに到着している。飛龍を使えばそう時間がかからずガイア達に会う事ができるだろう。

 俺はベリサリウスと共にガイア達の元へ向かう。本当は連絡係のエリスも連れていきたいけど、ダークエルフはまだガイア達に見せたことが無いから、今回は連れて行かなかった。

 ひょっとしたら彼らは緊急事態に陥ってるかもしれないから、要らぬ不安要素を増やしたくないのがその理由だ。

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