第60話 聖教騎士団迫る

 ガイア達の元へ向かうメンバーは俺とベリサリウスにティンだ。ハーピーの案内でガイア達の前に俺達が降り立つと、ガイアは手を振って俺達を迎えてくれた。


「どうした? ガイア?」


「すまねえな。約束の日じゃないのに邪魔してよお」


 謝罪してくれるガイアだったが、こうして来てくれたのだから何か事態が発生していることが容易に想像できる。


「いや、いいんだ。何か緊急事態が起こったのか?」


「ああ。聖教騎士団を追いかえしたんだってな」


「おかげ様で死者も無く、撃退できたよ」


「うおお。それはすげえな。その逃げ帰った聖教騎士団の生き残りが、待機している部隊と合流してるんだよ」


「ああ。それは想定どおりだな。一部を無傷で帰したからな」


 本隊がいるんじゃないかってことは予想の範囲内だ。ただ、部隊規模がどのくらいかが気になるところなんだが。


「そいつらが既にこっちへ向かっているって話を聞いたから、あわててここへ来たってわけだよ」


「ほう。もう帰りついたのか奴らは」


「ああ。魔の森の外へ馬を見る者を数人待機させていたみたいでな」


 なるほど。奴らを帰してから今日まで三日か。魔の森の外までに一日。そこから二日以内を馬で移動。本隊へ連絡し、至急取って返すって感じか。


「なるほど。となると魔の森まで来るにはおよそ四日か五日ってところか?」


「その洞察力には恐れ入る。ずばり五日後くらいと街の噂だぜ」


「ありがとう。ならば、魔の森入口まで五日。中で一日野営した場合は六日後に決戦かな」


「やめておいた方がいい! 聖教騎士団の第一部隊が全員来る! 規模は千人を超える! 悪い事は言わねえ。逃げろ」


 ガイアは親切心からそう言ってくれているのは俺でもすぐに分かったが、逃げるわけにはいかない。ローマは防衛せねば今まで積み上げたものが全て崩れ落ちてしまうじゃないか!

 大丈夫。俺達にはベリサリウスがいる。


「ベリサリウス様。いかがなさいますか? 私が街へ行くことを中止いたしましょうか?」


 俺はベリサリウスへ向き直り、指示を仰ぐ。


「うむ。そうだな。すでに出発しているのならば、飛龍を使い上空から偵察してもらえるか?」


「エリスさんを連れ逐次ベリサリウス様へご報告すればよろしいですか?」


「それで問題ない。私は防衛陣地の最終調整を行おう。飛龍の休息は魔の森で行うように」


「心得ております。聖教騎士団の位置を確認し、ベリサリウス様へ逐次報告。飛龍の疲労を考慮し森で休ませます。日が暮れる前にはそちらへ戻ります」


「完璧だ。さすがプロコピウス」


「ベリサリウス様あってこそです」


 俺はベリサリウスへ礼を行い、ガイア達へ再び向きなおる。


「ガイア。来てくれてありがとう」


「戦うのか?」


「ああ。戦争後にでもまた来てくれよ」


 俺が不適な笑みを見せると、ガイアは頭を抱えるが最後は笑って俺達を送り出してくれた。たまたまとは言え、出会った冒険者が彼らみたいな人物で良かったよ。本当に幸運だ。

 契約はもちろんあるだろうけど、今回の訪問は完全に俺達を心配し、親切心でここへ来てくれたんだ。それくらい俺にだって分かる。彼らのような人たちとの関係を大切にしていかないとな。


「ありがとうな。ガイア」


 俺は誰にも聞こえないくらい小さな声で、彼らに感謝の言葉を述べたのだった……



◇◇◇◇◇



 昼からになってしまったが、俺とエリスとティンは飛龍に乗り込み魔の森の外を偵察することにする。今回エルラインはお留守番だ。移動魔法の準備を途中までやったから最後までやってしまうと言っていた。

 後は座ってるだけとは言っていたけど、離れたらまずいのだろう。魔術のことは良くわからないから、推測でしか語れないけどね。


 一度魔の森の切れ目辺りで飛龍を休息させて、再び空へと舞い上がる。ガイア達から街の方角は聞いていたから、聞いていたとおり南東へ飛龍に飛んでもらう。

 一時間ほど飛ぶと遠目に街が見えて来たけど、時間に余裕を持って飛龍を休ませるためここで引き返すことにする。

 あの距離だと、徒歩ならば街から魔の森まで二日ってところかなあ。ガイア曰く魔の森への到着は五日後って言っていたから、明後日には姿を確認できそうだ。



――二日後

 ようやく聖教騎士団を確認できた。ティンとエリスにも協力してもらい敵影のおおよその数を計測したところ聖教騎士団の数はおよそ千と少し。千百くらいだろうか。

 明日になればさらに詳細な観察ができると思うが、騎兵も居れば歩兵もいる。装備はまだここからだと確認できない。


 翌日さらに詳細を確認することで、彼らの装備もおおよそ分かった。森での戦いを想定し、革鎧と短槍をほぼ全員が装備している。腰には片手剣も備えているようだ。

 騎兵も百ほどいたが、森での戦闘はどうだろうか? 魔の森の手前で置いていくのかもしれない。


 そして、いよいよ彼らが魔の森前で野営を行うところまで観測すると、ベリサリウスらと旧小鬼村に築いた陣地で会議をすることになった。

 ちょうど本日、外縁部の堀まで造成しオークと犬耳族はローマへ撤退して行った。それと入れ替わるようにリザードマンと猫耳族が既に到着している。

 彼らは武器も持ってきているので、こちらの防衛体制は完全に整っていたのだ。


「ベリサリウス様。陣地は完成しております。外縁部の堀も含めて終了しております」


 俺がベリサリウスへ発言すると、彼は抑揚に頷き周囲の戦士たちを見渡す。工事をしてくれたオークらはもういないけど、入れ替わりにやって来たリザードマンも猫耳族も彼らの働きは良く分かっているから、俺の言葉を聞くとリザードマン達は彼らを称え称賛の声をあげる。


「いよいよ。早ければ明日戦争となる。明日ならば夕刻前。明後日ならば昼前に戦闘となるだろう。方針としてはここで待ちかまえ奴らを蹴散らす予定だが、数を見て撤退も視野に入れている」


 ベリサリウスの言葉を皆神妙に聞いている。何しろ千百名の炎弾が使える兵士だ。一斉に来られたら犠牲者の数が目も当てられないものになるかもしれない。そうなる前にとっとと陣地を捨てるとベリサリウスは言っているのだ。

 ここまで数日かけ構築した陣地をあっさり捨てることに戸惑いはあるが、人命には代えられないし、ベリサリウスには何か作戦もあるようだから彼の指示通り動けることだけ考えよう。


「ベリサリウス様。撤退の場合の脱出ルートを再度確認しておきます」


「うむ。よろしく頼む。明日、奴らが出る前に一つ手を打つぞ。お前も飛龍に乗り私の後をついて来い」


「分かりました」


 一体何するんだろう……嫌な予感しかしない。


「エリスとティンも連れて来るがいい」


「了解しました! エルラインはいかがいたしますか?」


「どちらでも構わぬ。彼には彼の好きなように動いていいと言っているからな。まあ、自分の身は自分で守れるようだ。心配あるまい」


「分かりました。エルにはそのように伝えます」


 そうだね。飛行も出来るし、彼はきっとベリサリウスにも引けを取らない強さを持っていると思うよ。


「皆さん。聞いてのとおり、これから脱出ルートの確認を行います。一度全員で練習しましょう。その後は防衛の再確認です」


 先に脱出ルートの確認を行う。敵の合計数は一応皆にも既に伝えてあるが、どれだけの数がここに来るかはまだ不明だ。明日になれば分かるだろう。

 防衛については、主に盾で聖教騎士団の飛び道具を防御する動きの再確認を行った。とにかく炎弾が厄介だからなあ。弾切れになりさえすれば、陣地構築している俺達は優位に戦えるはずだから。

 さて、どうなることやら……しかし、翌日のベリサリウスの行動によって俺の胃が激しく痛くなることになってしまったのだ……

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