第49話 ローマ発展中

 戦闘や戦争ではちょっとやそっとのことではベリサリウスは負けないだろう。敵が極端な数字になるとローマが壊滅しそうだけど、最終的にベリサリウスなら勝ってしまうかもしれない。

 パルミラ聖王国の動きは気になるが、数に任せた飽和攻撃をされてしまうと一たまりも無いだろう。いずれベリサリウスに意見し、政略でなんとかする場面は必ず来る......が政略ができる人材がいないんだよ......


 俺か、俺が何とかするしかないのか! 上手くやれる自信は全くないけど他に人材はいない......ローマ建築が落ち着いたら情報収集に人間の国へ出て情報を集めることも検討しないといけないな。


 そうなると問題は俺自身の戦闘能力。ものすごく治安の悪い紛争地域に拳銃一つ持たずに行くようなものだから、護衛役に誰かつけるにしても俺自身が少しは身を守れないとまずいな。

 俺がローマから出た場合、その間俺がやっていることを誰かに任せないといけないけど、こちらは何とかなるだろう。

 半年後か一年後か分からないけど、今からその辺を想定しておいたほうがいいな。


 ローマに向かう空の上で、俺は前で飛龍の手綱を握るベリサリウスに一つ聞いてみることにした。


「ベリサリウス様。パルミラ聖王国自体との戦争は無いと思いますが、狂信者集団――聖教騎士団との戦闘は考慮致しますか?」


「そうだな。さすがの慧眼(けいがん)だな。私はこれまで人間にかかって来るなら構わないと態度を取っていた」


「ベリサリウス様ならば問題無いと私は思っていました」


「理由はいくつかあるが、多少の数が攻めてこようが問題無いと考えていたのだ」


「ローマの位置が彼らにとっては不明ですしね。魔の森は天然の要塞になってくれるでしょう」


「然り。ただなプロコピウス。私は政治や街のことは分からない。しかし人間とのやり取りはいずれ必要になるだろう?」


「ローマの繁栄を願うならば、街が大きくなれば人間にも知れましょう。いずれそうなるなら人間と交易を行うことも想定しております。彼らの持つ品物は魅力的です」


「然り。いずれ当たるなら、へりくだったり機密にする必要もあるまい」


「彼らもいきなり大人数で攻めて来る事もないでしょう。ローマがある程度落ち着けば、私は外へ情報収集へ赴こうと思いますがいかがでしょうか?」


「ふむ。風の精霊術もある。お前が行くなら他の誰よりも心強い。機を見て行くがいい」


「ありがとうございます」


 本当は安全なローマから出たくは無いんだよ! パルミラ聖王国が全軍で十万を超えるとかになれば、全軍で攻めて来ることは無いだろうが、まともに当たれば勝つことが不可能に近い。

 パルミラ聖王国の国力を調べ、他の国との関係性も探りたいな。もちろん、ガイア達には今後も情報収集をしてもらう。



◇◇◇◇◇



――三十日後

 ローマの発展はこの一か月で思った以上に順調に進んでいる。


 アスファルトで舗装されたローマを十字に横断する通路は完成し、古代ローマ式アパート――インスラも住人全員が入れるほど完成している。今は個人宅の建築を少しずつ進めているところだ。

 十字路が交差する辺りには大きな集会所が出来、ここで会議をすることが出来るようになった。集会所近くには小鬼の村長宅とベリサリウスの家が建築されている。ありがたいことに俺の家まで建ててもらったんだけど、一人で住むには妙に広い......

 そのため、客室や仕事用の部屋も作ってもらったから俺の家である程度の業務をこなすことが出来るようになっている。


 鍛冶屋や革細工など小鬼を中心とした加工用の建物も完成していて、今は草食竜の牧場の建設とキャッサバ畑の拡大のためローマ周囲の木を切り倒している最中だ。

 カチュアによる蚕の生育も上手くいっているようで昨晩、蚕が蛹になったと聞いた。

 

 しかし、もちろん全てが上手くいっているわけでは無い.......一番の失敗は風車だろう。いや、ティモタとライチは風車を完成させてくれた。それは見事な出来でちゃんと風を受けて回転したんだけど......だが、俺の想定が甘かったんだよ!

 牧場や畑の為、木を切り倒しローマを拡大したから、ビル風のようにローマに吹き込んでいた風がパタリと止まってしまったんだよ! ローマは元「開けた土地」と言われ、例外的に背の高い木が無い地域だった。

 そのため、風が集まっていたんだけど、木を切り倒し拡大してしまったものだから......想定してなかった。


 そんなわけで、汚物処理施設完成の目途が立っていない。今のところティモタらの精霊術で燃やすなり、土の精霊術で分解するなりで処理している。

 いずれ上下水道を必ず造る......いつになるやら。


 食料については試しに畑を作って育てたキャッサバは順調に生育しているし、ローマ外からの狩猟も順調だ。いくつかハーピーや猫耳族が発見してきたウリ、果物も育てれるか試している。

 しかし、ローマ街民の一番の楽しみはキャッサバから作った芋酒だろう。キャッサバは豊富にあるから、キャッサバの糖を利用し芋酒を小鬼が作っていた。これが好評で今ではローマ街民には無くてはならない飲み物になっている。


 今後、十字路から碁盤状に通路を広げていくことも必要だが、まず鉱山やリザードマンの村と道を繋げようと思っている。ティモタとパオラの手腕に期待したいところだ。

 家建築はそろそろ作業が落ち着いて来るから、リザードマン達には農作業と牧場に注力してもらおうと思う。正直街の建築については多少の失敗があったものの、これからも順調に進んでいくと思う。


 問題はガイア達からもたらされたパルミラ聖王国の動向だよ。例の狂信者集団――聖教騎士団の動きがきな臭くなって来た。彼らは魔族がまとまって脅威となっていると認識している様子。

 その中心となっているのが人間であるということまで把握しているとガイア達から聞いた。これは近く何らかの動きがあるだろう。


 とまあ、いろいろあったわけだけどやっと少し落ち着いて来たので、ベリサリウスにもしもの時をお願いして了承を取った後、例の約束――リッチのエルラインを家に招待することにしたのだ。

 えっと、彼との連絡方法は何て言ってたかな。


<やあ。ピウス。ちゃんと約束を覚えていてくれていたようだね>


 突然頭の中に声が! そういえば「僕の方から君に連絡するよ」って言ってたな。タイミングが良すぎる......どこかで見られてたか。


<エルラインか? 俺の名前を知っていたっけ?>


<あの時いたリザードマンが君の名を呼んでいたじゃないか。ああ、僕の事はエルと呼んでくれていいよ>


<エル。君は一体どこにいるんだ?>


<ああ。僕かい。今は自分の家にいるよ>


<ちょうど君を誘う準備が整ってきたんだよ。飛龍で山まで迎えに行くけどどうだ?>


 実は俺、飛龍の手綱を握る練習したんだ。一応一人で操作できる。ただ、パラシュートのティンが居ないと怖くて無理だけど。


<それには及ばないよ。今からそっちへ行っていいかい?>


<あ、ああ。構わないけど。場所は分かるのか?>


<君が居るなら問題ないさ>


 エルラインの言葉が終わると同時に俺の目前に白い煙が上がる。煙が晴れると、


――紫色の顔まで隠れるローブを纏った小柄な男――エルラインが出現したのだ......


「やあ。ピウス。久しぶりだね」


「あ、ああ。し、心臓に悪い」


「あはは。君は相変わらず面白い反応をするね。転移魔術を見た感想がそれだものね」


 エルラインは少年のような顔にふさわしく、カラカラと朗らかに笑い声を上げた。

 転移魔術って特殊な魔法なんだろうか。実のところエルラインには聞きたいことが山ほどある。特に人間の魔法については知っておきたい。彼なら詳しそうだしね。

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