第50話 魔法とは?
ベリサリウスへリッチのエルラインが来たことを伝えてもらうよう街民へ告げ、俺は自宅へ彼を案内する。
俺の自宅も他の家と同じでレンガ造りの長方形の家だ。屋根は赤色のレンガ。壁は白っぽい色のレンガになっている。レンガはモルタルで接着され、頑丈で熱にも強い。
床は木の板で張り合わせて作られている。ここは亜熱帯と予想される気候だけに、暖炉の設備は発想自体なかった。
「エル。ここが俺の家だ。入ってくれ」
「ふむ。これはレンガとモルタルかい。君が持ち込んだのかな。興味深い」
「エルはレンガとモルタルを知っているのか?」
「そうだね。古くは共和国で発明されたモルタル、レンガ、それに漆喰も知っているよ」
「漆喰かあ。もう少しローマが安定してくれば見た目に拘る人も出てくるだろうから、漆喰もいずれは欲しいな」
「君は街のことか人のことばかりだね。ああ、そうだ。あの黒い舗装は何だい?」
「ああ。あれは黒い水と呼ばれていたアスファルトに砂を混ぜて固めたものだ」
「ふうん。おもしろいね」
「舗装するのが楽だからね。アスファルトは」
「ふうん」
「まあ立ち話も何だし入ってくれよ」
俺は扉を開け、エルラインを中へ招き入れる。家に入るとティンが俺たちを迎え入れてくれた。いや、ティンと同棲しているわけではないんだ。
「ピウス様! おかえりなさい! あ」
「ただいまティン。こちらはこの前会ったと思うけどエルラインだ」
「改めてよろしくティン。僕はエルライン」
エルラインはティンに朗らかに挨拶をする。
家に何故ティンが居るのか? 俺の家が出来ると、ティンとカチュアが入れ替わりで世話を焼きに来てくれる。お陰で業務で家の家事がなかなかできない俺には助かっているんだけど、彼女達から家事について教えてもらうことも今まで何度もあったから本当に助かっている。
俺は家電製品なら分かるけど、火を起こしたりなんてできないからなあ。落ち着いて来たら欲も出てきて、今一番やりたいことは風呂にゆっくりつかることなんだよ。ここには風呂がないからなあ。
公衆浴場――バルネアを建築したい! ただしローマ式ではなく日本式の湯を張るタイプの風呂だ。風呂に入りたい―。
「ティン、あとで飲み物を頼む」
「分かりました! ピウス様!」
ティンは礼をすると奥に引っ込んでいった。
俺はエルラインと客間に入る。普段はここで会議なども行うから、部屋は大きなテーブルと四つの椅子が置かれている。
「エル。かけてくれ」
「うん。ありがとう」
エルラインが椅子に腰かけるのを待ってから、俺も椅子へ座る。
「よく短期間でここまで作ったね」
「ああ。俺も本当に驚いているんだ。彼らの頑張りのお陰だよ」
「よく魔法も精霊術も無しでここまでやれたね。さすがは英雄ってところなのかな?」
「ん? 英雄? ベリサリウス様は確かに英雄だけど」
「何を言ってるんだいって君は知らないのか。確かにここで街を造っているくらいだものね」
「何の事なんだ? 順を追って説明してくれないか?」
「んー。まず確認だよ。君はこの世界で生まれたわけじゃあないよね?」
「何故それを? 誰かから聞いたのか?」
「うん。まあ。見れば分かるというか。それはいいんだけど、間違いないかな?」
「ああ。俺は別世界からここへ突然やって来た」
「英雄召喚の儀式ってのがあるんだよ」
「それで俺は呼ばれたのか! 呼んだのは誰だ!」
「まあ、落ち着きなよ。英雄召喚の儀式は非常に複雑で一人でやれるものじゃあない。儀式が出来るのはパルミラ聖教だけだよ」
「パルミラ聖王国の宗教だったか? パルミラ聖教って」
「うん。そうだね。まあ、それで君は召喚されたと。しかし彼ら、位置の調整の仕方を間違ったのかな」
俺とベリサリウスを呼び出したのは、パルミラ聖教の奴らか。しかし不可解だな。せっかく呼びつけたのに自分達の目の前に何故呼ばないんだ? エルラインは位置調整がどうこう言っているけど。
「本来は決まった位置へ召喚できるものなのか?」
「うーん。非常に繊細な調整が必要だからね。よっぽど儀式に成熟しないと難しいんじゃないかな」
「しかし、召喚位置がおかしかったお陰で俺は、ベリサリウス様に出会うことが出来た。召喚は最低だけど、それだけは幸運だったな」
「まあ、君とベリサリウスの関係は後で聞くよ。英雄召喚の儀式で君はこの世界へ呼び出された。ここまではいいかい?」
「ああ」
「英雄召喚で呼ばれたから、君は英雄かい? と聞いたわけだ」
「亜人達は異界からの迷い人って言ってたな」
「その言い方も間違っていないね。召喚者の目の前にいないわけで。君からすると英雄より迷い人のほうが言いえて妙だね」
まあどっちにしろ、パルミラ聖王国の奴らといずれ接触して真偽は確かめたいところだな。
「エル。英雄召喚で呼び出された者は元の世界へ帰ることが出来るのか?」
「送ることは出来るけど、元へとなると難しいと思うよ」
「時空を超えた正確な位置・時間を指定したりしないといけないってことなのか?」
「うん。君は理解が速くていいね。学問を修める素質があるよ」
カラカラとエルラインは朗らかに笑い、俺を褒めるが、俺と言えば元に戻ることが非常に困難だと聞かされ、暗い気持ちになっていた......しかし送る技術はあるから希望は捨てずにやっていくしかないな。
エルラインの言うことを全て信じるわけではないが、彼が嘘を言う理由が見当たらない。彼の認識が違う可能性もあるけど、戻る為の道筋にはなる。
俺はエルラインに会ったら聞いてみたいことがある。それは魔法の事だ。今だ人間達が使う魔法が何かも、俺には分かっていないから。
「エル。君は人間が使う魔法に詳しいのかい?」
「君は本当に面白いね! 僕に魔法を問うか」
エルラインは大声で笑い始めた。それほど彼の笑いのツボを刺激する質問だったんだろうか......今の質問。
「俺はこの世界のことを知らないからな。そう言われても困る」
「うんうん。そうだったね。リッチに成れる者は魔術を極めし者なんだよ」
「魔術? 魔法じゃなくて?」
「うん。まあ君にとっては同じだろう。で、何が聞きたいんだい?」
「人間の使う魔法ってどんなものなのか。何が出来るのかを知りたいんだ」
「んー。それは多岐に渡り過ぎるね。今日は魔法の仕組みだけでも話をしようか」
「ああ、頼むよ」
エルラインは俺の頼みへ微笑みながら、子供に教えるように嚙み砕いて魔法のことを教えてくれた。
魔法は体内にある魔力を利用して発動する現象で、頭の中で複雑なパズルのようなものを組み立てて発動する。パズルの形次第で発動する魔法が変わってくるらしい。
このパズルをどのように構築するかが大変なようであるが、聖王国では予めパズルの形を準備し、決まった形のパズルを脳内で組み立てることで魔法を発動する。だから訓練次第で魔法を使える者が多数とのことだ。
パズルのノウハウがない他国は、魔法を使える者が非常に稀だそうだから、聖王国の持つ「決まったパズルの形」が彼らの国を強大にした原動力らしい。
魔法の発動速度はパズルを組む速さで決まり、熟練した者ほど魔法を早く発射できるようになる。「決まったパズルの形」を覚え、使うのが得意な者は幾つもの魔法を扱うことができるが、リベールのようにパズルを作るのが苦手な者は、一種類がせいぜいみたいだ。
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