第48話 戦いの理由

「リベールよ。手合わせなかなか楽しかったぞ。後はプロコピウスと話してもらえるか?」


「ベリサリウス殿。あなたに感謝を。無理を聞いていただいた対価にはならないとは思いますが、答えられることは答えます」


 ベリサリウスとリベールはお互いの健闘とたたえ合い、手合わせを終えたようだ。二人の勝負を見ている限り、ベリサリウスのほうが上だった。

 しかし、しかしだな。

 人間ってこんな強いのか? こんなぺったん少女でここまでとなると、ベリサリウス以外は人間の相手出来ねえよ!


「プロコピウス殿、何なりと聞いてください」


 リベールは俺へ一礼し、俺の言葉を待つ。


「最初に君が何故ここへ来たのかを聞かせてもらおうと思ったが、まずは人間の強さのことを聞きたい」


「了解しました」


「さっき君は、兵士に成れないと言っていたが、パルミラ聖王国の兵士はそこまで強いのか?」


「いえ。兵士になる条件が炎弾の魔法を使えなければ成れません」


「強さはそうでもないのか? モンスターと比べてどれほどなんだ?」


「そうですね。魔の森に居るモンスターで例えますと、オーガと一対一で勝てる程度には腕があります」


「なるほど。君のような実力は無いということか」


「褒められるほどの実力は備えていません......」


「いやいや。俺が見た中で君は二番目に強いよ」


もちろん一番はそこにいる御仁だよ!


「ありがとうございます......」


 彼女はどうも自分の強さにコンプレックスがあるみたいだな。てっきり胸にコンプレックスがあると思っていたが。まあ彼女の事情は後だ。

 パルミラ聖王国の兵士はオーガに一対一で勝てるほどに強いのか。リザードマン達はオーガに苦戦していたから、確かに人間は強いな。リベールが特別で良かったよ......

 彼女が兵士に成れないほど弱いってなると、ローマが攻められたらいくらベリサリウスでも無理だよ......

 炎弾の魔法ってのは、ガイア達に初めて会った時にオルテガが俺達を攻撃した魔法のことだろう。あれを全兵士が使えるとなると脅威だな。遠距離火力の集中運用ができるじゃないか。

 これは人間の軍隊とやり合うとなったらタフだぞ。


「一般的な兵士の強さは分かったけど、兵士長や、いるか分からないけど騎士団長や近衛などの精鋭はやはり強いんだろう?」


「はい。近衛の兵士は精強と聞きます。その中でも近衛団長は一騎当千とか」


「なるほど。君ほどの実力じゃないことを祈るよ。ガイアから聞いたけど、君は冒険者の中でも一番のランクなんだろう?」


「はい。お恥ずかしながら、トリプルクラウンの称号をいただいてます」


「冒険者の実力も相当なものだな。トリプルクラウンだったか? どれくらいの数がいるんだ?」


「トリプルクラウンの冒険者は、現時点で私を含め四名と聞いてます」


 四人か、話を聞く限りリベールほどの実力を持つものは人間達でも一握りか。一度に全員相手にするわけでもないから、敵に実力者が居ないかだけ確かめておけば大丈夫そうだ。


「ありがとう。リベール」


「いえ。貴殿らはパルミラ聖王国についてあまりご存知でないのですか?」


「言うべきではないが、今更君に隠しても無駄だろうから言うが、正直その通りだよ。全く分からない」


 リベールはティンに目をやると、暗い影を落とす。ティンに何か思うところがあるんだろうか?

 意を決したように彼女は口を開く。


「でしたら、パルミラ聖教についてもご存知ない?」


「ああ」


 思いつめた顔のまま、彼女は言いずらそうに言葉を続ける。


「パルミラ聖教は魔族を非常に敵視しています。貴殿らの活躍が耳に入れば恐らく......」


「狂信者......失礼。宗教騎士団的な何かがここへ来るかもしれないってことか」


「はい。異端者を狩る組織があります。聖教騎士団という組織です」


 辛そうに語るリベール。これは異端絡みで何かあったな。


「リベール。深くは聞かない。君が強くあらんとするのは、異端絡みか?」


「はい。私の友が関わっています。私は彼を守る為、誰よりも強くありたいのです」


「なるほど。それ以上は聞かない。君から私たちのことを吹聴するこは無いと分かったから」


 俺達が人間の言う邪悪な魔族と連れ立っているとリベールから漏れることは無いと俺は考えている。彼女の友人はきっと魔族だ。彼女は友人である魔族を守る為強くなろうとしているのだろう。

 その魔族は人間社会に紛れているのか? ならば人間に見た目がそっくりか、それとも魔法で化けているのか。まあ、彼女の事情は俺達が関わることではない。彼女は彼女なりの戦いを行えばいい。


「ありがとうございます」


 リベールは絞り出すような声で答える。友人との辛い記憶でも思い出しているんだろうか?


「リベールよ。もし行き場が無なった時にはローマへ来るがよい」


 突如ベリサリウスがとんでもないことを言い始めた。そういえばさっきもローマのベリサリウスと名乗っていたよな。人間達の前で軽はずみにローマとか名前出したら......そのうち亜人の街ローマのベリサリウスとか人間の前で言い出しそうだよ!

 何で自分から危険を呼び込むんだこの人はー!


 しかし、リベールと恐らく魔族――俺達からすれば亜人の友人がローマに来ても、彼女ら自身は問題にならないだろう。成るとすれば、トリプルクラウンまで登りつめたリベールの足跡を追う者だろう。

 突然居なくなったトップ冒険者。一体何処へ? とさぐる者は必ず出る。そこからローマの実態が人間達に伝わる可能性はある。

 しかし、ベリサリウスが言った以上、腹をくくろうじゃないか。そうしてこそ、彼の部下だ。


 カッコいい事言ったけど、彼の向こう見ずな行為は自身の絶対的な軍事能力があってこそなんだ。人間達に攻められることを考慮して尚、問題無いと判断したんだろう。

 ならば問題無い。彼の軍事的才能は比類なきものなのだから。


「かたじけない。ベリサリウス殿。頼ることが無いよう、私はもっと強くなります」


 リベールはベリサリウスへ感謝を伝え、決意を新たに目に光を宿していた。彼女は強いな。俺も見習わないと。

 次はガイア達に話を聞かないとだな。


「ガイア。リベールのお陰でパルミラ聖王国の事を少し聞けた。最初は驚いたけど良い結果になったから、まあ問題無いよ」


「すまなかったな。プロコピウスさん」


「渡しそびれていたから、先に剣を受け取ってくれ」


 俺はローマから持ってきた長剣をガイアに手渡す。彼は一応鞘から剣を抜き、状態を確かめて感嘆の声をあげる。


「これは、いい出来だ。この質なら貰い過ぎだな」


「そう言ってもらえると、作成者も喜ぶだろう」


「ありがとうと伝えておいてくれ」


 ガイアは長剣をバックパックに大事そうにしまい込む。その様子を眺めながら、俺はガイアに問いかける。


「街の様子はどんな感じだったんだ?」


「ああ。冒険者の間で少し話題になった程度だな。しかし冒険者から商人へ、商人から街民へと広がっていくかもしれねえ」


「いずれそうなるだろうな。広がったなら、こちらも取る手を変える。その時はまた別の依頼をするよ」


「分かったぜ」


「当面は今回のような依頼を行いたいが、どうだ?」


「ああ。俺達も願ったりだ。これほどの長剣をいただけるならな」


 俺とガイアは握手を交わし、お互いの今後の契約成立の代わりとした。

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