第43話 周辺モンスター殲滅、一方俺は

――翌朝

 俺は風の精霊術についてベリサリウスへ報告するため、彼の簡易住宅を訪れていた。

 ベリサリウスの簡易住宅にはちゃっかりエリスも居ついていて、彼の世話をやっているようだ。そんなわけで、簡易住宅に行くとベリサリウスとエリスが迎えてくれた。


「......というわけで風の精霊術で索敵できるんです」


「なるほど。それは試してみる価値はあるな」


「エリスさんも風の精霊術が使えるんですよ」


「そうだったな! 以前の伝言の精霊術といい、素晴らしいぞエリス!」


「まあ、ベリサリウス様ったら」


 ベリサリウスの誉め言葉にエリスは浅黒い肌を真っ赤に染めて頬に手をやる。このぶりっ子があ!


「それでですね。エリスさんにはベリサリウス様の傍についてもらって、風の精霊術で索敵しつつ、同じく風の精霊術を使えるパオラをローマの備えと出来ます」


「ふむ。ローマに危急があればパオラから報告ができる。エリスが居ればその場で会話を交わすことも可能か......」


 俺はエリスをチラリと見ると、彼女は親指を突き出して「ナイス」とジェスチャーしてくれた。俺の涙ながらの配慮に気が付いてくれたらしい。

 もしベリサリウスが風の精霊術で索敵できることを知っていたとしても、エリスを外に出すことはしなかっただろう。ベリサリウスが外に出ておりローマに何かあった場合、エリスの風の精霊術でベリサリウスへ緊急速報を行うことで備えとしていたんだ。


「いかがされますか? 現状モンスターの討伐はベリサリウス様が行っておられますが、この機に一掃作戦を実施いたしますか?」


「ふむ。周辺地域の安全性確保は急務だ。この際一息にやってしまうか。作戦は追ってお前に伝えよう」


「了解しました。魔の森は広く、一掃後も出て来るとは思いますが、定期的に一掃作戦を実施されると良いかもしれませんね」


「そうだな。今後も検討しよう」


「了解しました。今回の作戦案をお待ちしています」


「昼までには伝えよう。一つお前を驚かせる事案もあるしな」


 ガハハとベリサリウスは豪快に笑うと、「また後程」と言葉を残し足早に簡易住宅を出て行ってしまった。彼の様子を見ているとなんだか上機嫌に見えるな。何かいいことがあったんだろうか?

 俺を驚かせることに関係があるに違いない。どんなサプライズが待ってるのやら、戦いじゃなければ歓迎だよ!


「プロなんとかさん、ナイスだわ」


 ベリサリウスが去りいつもの表情に戻ったエリスが、早速俺に礼を言ってくる。


「エリスさんにはお世話になっていますので......でもエリスさん、ご自身の精霊術についてベリサリウス様に話してないんですね」


 エリスよ。戻ったはいいが、顔はにやけたままだ。ベリサリウスと共に狩りに出かけることがよっぽど嬉しいんだろうなあ。いつもローマで一人待機だしね。

 そのうち興奮で鼻血が出ないか心配だよ。そうなったら美女が台無しだよ!


 しかし、何でエリスはベリサリウスへ自身の有能さを伝えないんだろう。能力より私を見て―って考えてるのか、いや、違う。ベリサリウスを見ると考え無くトリップするんだ。

 そう、今のように。


「ベリサリウス様と一緒に狩り......ウフフ」


 俺はトリップしてしまったエリスを放置して、工事の様子を見に行くことにした。



◇◇◇◇◇



 アスファルト、モルタルの実験はうまくいったので、今日からは家の建築と道路の舗装が始まっているはずだ。道路は石灰岩を集めながら、家はレンガを作成しながらと同時作業はもちろんしている。

 俺が到着するとちょうどこれから村長家が建築されようとしていた。陣頭指揮には村長が居たので様子を伺ってみよう。


「村長殿、いよいよですね」


「そうですな。リザードマン達もいますので一気に造っていきますよ」


「同時作業になると思いますが、村長殿、ベリサリウス殿、そして街の中央広場に面した位置に集会所を先に建築していただけますか?」


「そのつもりじゃよ。プロコピウス殿の家も同時作業で建築する」


「私の家もですか! それは楽しみです。後ですね、いつまでも簡易住宅ではあれですので、他の方々用にインスラという集合住宅を考えてますがいかがでしょう?」


「集合住宅とはどのようなもので?」


「はい。平屋で長方形の建物を造り、中を四つか五つ程度仕切りを造り、入口と窓をそれぞれに取り付けます」


「家がくっついたイメージですな。なるほど。それなら早そうだ」


「まずは集合住宅を建築してから、個別に家を建てればよろしいかと。空いた集合住宅には新規移住者の住まいにもできますし」


「そうですな。今後人が増えてくるでしょう。作業人員はそれなりに居ますから、建築を進めますぞ」


「ありがとうございます」


 インスラとは古代ローマのアパートみたいな住宅で、都市部で積極的に建築された。古代ローマでは土地の価格が高騰してしまい、広い庭付きの家を購入するのが困難になった。

 そこで考え出されたのが、インスラという集合住宅になる。これだと建築もはやいし、将来人口が増えてきた際にも使えるから初期の建築に適していると思ったから提案してみたんだ。


「プロコピウス殿、依頼の長剣出来てますぞ。ついでですから、あなたの剣もつくっておきましたぞ、風車はまた後程......」


「ありがとうございます」


 ガイア達に渡す報酬の剣が完成したらしい。何と俺の剣もつくってくれたのか。俺に造ってくれた剣は片手用の刀身が分厚いものだった。剣はまだまだ貴重な物だから、壊れないように刀身を厚くしてるんだろう。これは斬るより叩くことを重視した造りと思う。


 俺用の剣をその場で村長から受け取ると、腰ひもに鞘をぶら下げて二度ほど軽くジャンプしてみる。うん。ズレてこないから大丈夫。

 後で一度振り回してみるか......人がいないところで。素人の剣術を見られたくないからね......

 風車のミニチュアも楽しみだ。



◇◇◇◇◇



 ベリサリウスに呼ばれたので彼の元に行ってみると、何やらダチョウ型の爬虫類に騎乗している。爬虫類とはいえ鱗ではなく緑の羽毛で覆われているが、首はダチョウより太く、トカゲのような顔で口から牙が生えている。足はダチョウより太く足の指は三本でこれも太い。


 図鑑でこれに近い爬虫類を見たことがあるな。確か......羽毛恐竜って名前だったかな。鳥は恐竜から進化していて、鳥に近い恐竜は鱗の代わりに羽毛が生えていたそうだ。

 恐らくこれがリザードマンの言っていた騎乗竜――デイノニクスなのだろう。


 俺に気が付いたベリサリウスが騎乗竜で俺の元へやって来ると、騎乗竜から降りる。


「プロコピウス、どうだこの騎乗竜は」


「ベリサリウス様、それはどこで?」


「昨晩リザードマンからもらい受けてな。朝から試し乗りしてみたくウズウズしていたのだ」


「なるほど。確かにこれは驚きですね。馬と比べてどうですか?」


「馬より乗りやすいな。ただ速度は馬ほど出ない。その分悪路に強そうだぞ」


「力はいかがですか?」


「馬ほどではないな。馬車を引かせるなら二頭は必要だと思う」


 ベリサリウスはものの数時間で見事に乗りこなしている。やはり化け物だよこの人。二頭必要だが馬車も引けるとなると、戦闘以外にも確保したいな。リザードマンに飼育で数が増やせないか聞いてみることにしよう。


「プロコピウス。騎乗竜は問題ないと分かった。昼からエリスを伴い狩りに出てみよう。パオラに話を通してくれ」


「了解しました」


「今回お前には我慢してもらおう」


 やったぜ! 俺は街で内政ですよね。これぞ適材適所。


「了解です!」


 ちょっと言葉に力が入り過ぎてしまった。お留守番最高。


「騎乗竜があれば、街の危機があろうとも迅速に救援に向かえる。お前には飛龍を捜しに行ってもらいたい」


「......飛龍ですか」


「ああ。戦略上飛龍は必須だ。街の事もあるだろうが、リザードマンから借り受けた状況だ。いざという時に飛龍が使えなくなると困る」


「分かりました」


「ティンとロロロを連れて行け。頼んだぞ」


 うああ。それってモンスター討伐より危険なんじゃないですか? とんだ落とし穴だ。確かに飛龍はローマを守る上で必須の存在だろう。

 現状リザードマンから借り受けているので、彼らにはいずれ返却しなければならない。その前に飛龍を確保しておくことは必要なことだ。ベリサリウスが騎乗竜に乗る今、俺が少し街を離れても問題ないと判断したんだろう。

 一応ベリサリウスが駆けつけるまで俺が何とかローマを防衛するよう仰せつかっていたが、俺がいたところでまるで役には立たない。ただベリサリウスの脳内の俺は血の気が多い奴で剣の腕が立つらしいので.....

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