第44話 飛龍の捕獲
ティンとロロロのコンビに俺は癒されるのだが、今回は役目が役目だけにピクニック気分を味わえんぞ。
飛竜はもちろん道中で会うかもしれないモンスターも、俺にとっては脅威に尽きる。イノシシがいるか分からないけど、俺ならイノシシどころか狼でも余裕で死ねる。
ハア......どうしよう。
先ほど俺にと小鬼族から貰い受けた片手剣を鞘から出し眺めて見るが、剣の振り方もわからん!
剣は片刃で刀身が厚めにつくられている。剣は先ほどチラリと見た通り、切れ味より頑丈さを重視したつくりになっていた。
じゃあ少し振ってみるか、俺が剣を握りしめた時――
「プロコピウス様!剣を手に入れられたのですね!」
おおっと。ティンが呼びに来てしまった。彼女に剣を振るところを見られなくてよかった......
俺は無言で剣を腰に吊った鞘にしまい込み、彼女に片手をあげて応じた。
「小鬼族からさっきついでにと貰ったんだよ。ほら、あの時の冒険者への報酬」
「なるほど! 一緒につくって貰ったんですね! これでピウス様も戦えますね」
「あ、ああ」
あっても無くても同じだよ。って言えたらどんだけ良いか。今更言えぬ、言えぬのだ。
ティンの笑顔が俺には眩し過ぎる。きっと俺の剣さばきを想像してるんだろうなあ。か、帰りたい。
「ピウス様! 剣を振らないんですか?」
キラキラした目で俺を見つめてくるティンに俺の表情は固まってしまった。さっき剣を構えていたのを見られていたんだなあ......
「いや、今はロロロと飛龍のところへ向かおう。呼びに来てくれてありがとうな」
俺はティンの頭を撫でて彼女の気を剣から逸らし、飛龍の元へ向かうのだった。ティンは「えへへ」とか言ってたから剣の事なんて忘れているだろう。そうだ。そのまま忘れてくれ。
◇◇◇◇◇
ロロロに御者をティンは俺が肩車をしたいつもの体制で、俺達は飛龍に乗り空を飛んでいた。ロロロに聞いたところ飛龍は山岳部に住んでいるそうだ。
「ロロロ、飛龍は山に居ると聞いたけどハーピー達がいる山脈なのか?」
「ああ。あの山は広い。飛龍の巣もあれば、離れて暮らす飛龍もいる」
「なるべく安全に行くなら、どっちがいいんだ?」
「確実なのは飛龍の巣。だが喰われることもある。単独で動いている飛龍は行動が極端」
「友好的か敵対的かがハッキリしてるってことか」
「ああ」
ううむ、飛龍と戦闘して俺単独で生き残れる可能性はゼロだ。どう考えても勝てない。それどころか逃げ切るのも無理に違いない!
ティンやロロロを盾にして逃げることはありえないし、彼らが飛龍と戦って無事で済むとは思えないよ。飛龍の鱗は硬く、剣を振り下ろしても簡単に弾かれてしまう。ベリサリウスがやったように超人的な技術で目から脳天を貫くか、ベリサリウス流斬鉄剣で切り裂くかできれば対抗できるが、できるわけないだろ!
その前に飛龍の爪か炎でお陀仏終了だ。
ロロロもティンも俺に判断をゆだねてくれるが、飛龍と戦闘しても大丈夫とか思ってないだろうな? あ、思ってるよな。飛龍と戦闘する危険性を分かっていて彼らを連れて来てるんだから、当然何かあればプロコピウスが何とかすると。
選択肢はただ一つ。これしかない。
「単独で動いている飛龍を捜そう。友好的かどうかは遠目でも分かるのか?」
「遠くから笛を吹く。それで分かる」
「なるほど。敵対的であれば逃げるか」
「倒さないのか?」
「飛龍はなるべく殺したくないんだ。飛龍の数が減れば、番いとなって子供の生まれる数も減るだろ?」
「なるほど。ピウスは考えが深い。感心する」
ロロロは俺の考えに感服したようで、尻尾をビタンビタンしている。最もらしい言い訳をしたが、もちろん戦闘回避の為に他ならない。これが後にリザードマンの間で有名な話になってしまい、彼らから飛龍に対する考えの深さを称えられ、俺の羞恥心がガンガン刺激されてしまうことになるのだが......ただの自己保身だったんだよ!
俺はまた一つ勘違いを作ってしまったらしい......永遠に俺の心の中にしまう案件だが。
「しかし山脈はリッチといい、先日のサイクロプスといい災害級モンスターが多いな」
「山脈以外にもたくさんいますよ! ベリサリウス様が多数討伐されてますけど!」
ティンがベリサリウスの功績を称える。俺が来る前にも災害級モンスターを彼は討伐していたのかもしれない。
山脈は旧小鬼村からだと離れているから、ベリサリウスの足跡が及んでないだけだったりして......となるとダークエルフや犬耳族の村も小鬼の村から離れているからまだまだ災害級のモンスターが居そうだな......
魔の森はヘルモード過ぎるぜ。
「確かに。この前のヒュドラとかもそうだよな」
「はい! あの時はピウス様もカッコよかったです!」
ヒュドラの時は漏らしそうだったよ......突然スカイダイビングだったものなあ。ティンは嬉しそうに語っているが、あの時のことは俺、思い出したくないよ。
「じゃあ、ロロロ。頼んだぞ。休憩を入れながらゆっくり捜そう」
「ああ」
こうして俺達は山脈を空から眺めながら、飛龍を捜すことにしたのだった。
◇◇◇◇◇
俺達が訪れたのは山脈西方の中腹付近になる。ハーピーの村は東側の下腹部付近だから、徒歩でハーピー村に行くとすれば丸一日近くかかる距離だ。この辺りはまばらに木が生えており支配的な植物は背の高い雑草だった。
木が少ない為、上空からの観察も容易でロロロに全て任せて飛龍の捜索を開始する。
――飛龍を一匹発見した。
どうやら食事中らしく、仕留めた大型の鹿に口をつけている。飛龍のサイズは十五メートルあるので、大型の鹿が非常に小さく見えてしまう。俺はロロロに目くばせすると、彼は懐から細長いプールサイドでライフセーバーが持っているような小さな笛を取り出すと口にくわえ、大きく息を吸い込み音を鳴らす。
音自体俺には聞こえないが、飛龍やロロロには聞こえているようで、飛龍が笛の音に反応したようだ!
「どうだ。ロロロ?」
「ダメだ。逃げる」
って、飛龍が息を吸い込んでるぞ。
――火の玉が飛んでくる!
ロロロが飛龍を旋回させなんとか火の玉をやり過ごすと、俺達は一目散にこの場を立ち去った。怖い! 心臓が止まるかと思ったぜ。
その後数度試してみるものの、全て失敗。どうやら本日の飛龍はご機嫌斜めな奴が多いらしい。
「すまん」
ロロロが俺に謝罪して来たけど、彼に非は無い。
「いや、俺が頼んだことなんだ。悪いのは俺のほうだよ」
「次行こう」
「ああ。じっくり行こう。ロロロ」
ロロロは気を取り直し、飛龍の手綱を握る。その時だ。
<騒がしい奴らだね>
俺の頭に声が響く。慌てて周囲を見渡すも誰も見当たらない。声の主はどこから声をかけているんだ? 少なくとも今いる空の上ではない。
「誰だ?」
<全く、もう少し上手く捕まえないものかね?>
「俺の声が聞こえてるのか?」
<聞こえているとも。だからこうやって会話が成立しているだろう?>
「俺達に何か用なのか?」
<あまりにへたくそだったものだから、つい声をかけてしまっただけだよ。敵意はない>
「俺達は見ての通り飛龍を捕まえに来ただけだ。特に君に迷惑をかけてないと思うんだけど」
<ああ。そうだね。さっきも言ったが、君らの下手さ加減が面白くてね。それで興味が出たってわけだ>
「一体、君は何者なんだ?」
<僕かい? 僕はエルラインという者だよ。そうだね。君たちはリッチと呼んでいるのかな?>
何と声の主はリッチだった!
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