第21話 猫耳族
次はローマ北側の調査だと思い、リザードマンの集落を飛び立った後に気が付いたことがあった......
草食竜もデイノニクスも見学せずに、リザードマンの集落を出てしまった! ま、まあいい近いうちにまた此処へ来るだろうから気にしない、気にしない。あああ。見たかった......
気分を切り替えよう。確かローマから北は、森の向こうに薄っすらと山脈が見えたんだったか。
「ローマより北に住んでいる人たちっているのか?」
俺はティンとロロロにまず聞いてみることにした。
「はい! 北の山脈には私たちハーピーがいます! ローマと山脈の間には猫耳族の集落がありますよ!」
「ティンは物知りだな。助かるよ」
「えへへ」
上から声が聞こえるが、ティンがどのような表情をしているのか、俺の位置からでは確認できないのが残念だ。相変わらず俺は彼女を肩車しているから、見えないんだ。
「他にも知っている種族があれば教えてくれないか。できるだけローマに取り込みたい」
「そうですね。オークの村を抜けると湖があります。ここにダークエルフが住んでいますよ! リザードマンの村よりむこう側の川のほとりには、犬耳族が住んでます」
「おお。そこにも行ってみないとだな。他には知ってるか?」
「いえ、私は湖や川を越えて行ったことがないんです。他のハーピーに聞けばわかるかも!」
「川や湖、そして山脈も通過するのが困難だと思うから、今教えてくれた三種族に会ってみよう」
「はい! でもダークエルフに会うのでしたら、エリスさんに相談してみてください!」
「わかった。ありがとう。ティン」
ローマの北側に住む猫耳族と、東のリザードマン集落の先に住む犬耳族はローマから比較的近い。山脈と湖は多少距離があるので、行くとしたら途中で休憩を入れる必要があるな。
まず、猫耳族のところに行ってみるか。
進路を北へ取り、俺たちは猫耳族の村へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇
猫耳族と俺たちはこれまで接点が無かったので、村へ行くには不安だった。まあ、いきなり攻撃してくることは無いだろうと、楽観的に彼らの村へ降り立つ俺たち。
一旦戻ってローマに居る猫耳族を連れてくれば、よりスムーズに交渉できたかもしれないが、そうなると飛龍の定員オーバーだ。短時間なら四人でも乗せれるとロロロは言っていた。
だから、四人で乗れなくは無いが......飛龍に負担をかけることはしたくない。何しろ一匹しかいないからね。
なるべくなら、ティンを肩車せずに飛龍に乗りたくない俺のわがままを通してしまったため、ローマの猫耳族を連れてこなかったんだ。
しかし俺が人間だというのに、意外にも猫耳族は俺たちを歓迎してくれた。猫耳族の村は小鬼村と同じように中央に広場があり、広場を出ると原生林がそのまま残っている。
猫耳族はティンと同じように樹上に家を造り、そこで生活をしているようだ。広場は集会や俺たちのような客人の為に用意しているのかな?
迎えてくれたのは猫耳族の男女一組。男性は黒猫の顔に黒い毛が全身に生えた人型。女性は日本人に近い黒目黒髪で頭に白い猫耳。肩口で切りそろえた黒髪に黒色の毛皮でつくったビキニ、毛皮のブーツを身に着けていた。
「ようこそ、おいでくださいました。オーガ討伐の英雄よ」
黒猫が思ったより低い声で俺たちを歓迎してくれた。
「急に訪問してしまい。申し訳ありません。俺はプロコピウスです」
「歓迎します。プロコピウスさん。僕はミャアと言います」
黒猫――ミャアは綺麗なお辞儀をした後、芝居かかった仕草で俺たちを奥へと導いた。
黒猫についていくと、木の幹に梯子が設置された巨木の前で彼が立ち止まる。
「この先に族長がお待ちです」
「ありがとうございます。ミャアさん」
ミャアに礼を言った後、ティンとロロロを外で待たせ、俺は梯子を登る。
木造のツリーハウスは俺の体重でギシギシ軋む。中にいたのは、髭の長い白い猫。猫はゴザに胡坐をかいていた。
「オーガ討伐の英雄よ。何用かの?」
しゃがれた声で白猫は俺に問いかける。
「突然の訪問にも関わらず、話を聞いてくださりありがとうございます。俺はプロコピウスと言います」
「ふむ。プロコピウスさん。儂はミュウじゃ」
「ミュウ様、オーガの居住区――開けた土地に新しい街ローマを建設しようと私たちは計画しております」
「ほう」
「そこで、幾人か手伝ってくれる者を出していただきたいのです」
「ふむ。オーガを討伐してくれたお主たちに協力しよう」
「ありがとうございます!」
あっさりと行き過ぎて怖いくらいだ。猫耳族たちは俺たちがオーガ討伐を行ったことを知っていた。小鬼族の村に居る猫耳族から話が伝わったのだろうか。
元オーガ居住区のローマと隣接する集落にとって、オーガにどれほど彼らは頭を悩ませてきたのだろうか。彼らの協力を見ていると俺にも多少推測することができる。
族長宅がある巨木にかかった梯子を降りて来た俺に待っていた三人の目線が集中する。
三人とはティン、ロロロ、ミャア。梯子を登った時に居た猫耳族の女性はもうこの場から立ち去っているようだ。
「村長のミュウ様はローマ建設に協力してくれると約束をもらったよ」
「よかったです!」
俺の言葉にティンは喜びを露わにしている。ロロロと黒猫のミュウは無言で頷きを返してくれた。
「ミャアさん。猫耳族の得意なことを教えてもらえますか?」
猫耳族は何ができるのだろう。樹上に家があるくらいだから、木登りは得意なのかな?
「猫耳族は体の柔軟性、瞬発力が優れています。木登りも得意ですね」
「なるほど。それなら狩りが得意そうだ」
俺の誉め言葉に、ミャアは照れたように頭をかく。
「狩りは待ち伏せで行うことが多いです。樹上で待ち伏せして獲物が通ったら一息に狩るのです」
「おお。それは得難い能力ですね!」
「プロコピウスさん、あなたは人を持ち上げるのがお上手ですね」
ミャアはますます照れた様子で、尻尾を横にパタパタと振っているではないか。あの尻尾に触りたい。俺、犬猫は好きなんだ。ワシャワシャしたい衝動に駆られる。
女は人間に近いのに、男は猫に近いっておもしろい種族だよな。さっきの猫耳族の女性はいい胸をしていた。見事なちっぱいだった......でも俺はモフモフしたほうにも惹かれる!
猫耳族、侮りがたいな。
「いえいえ、猫耳族が来てくれるとなると心強いです。よろしくお願いします」
「はい。族長の指示を待ちます」
ミャアは芝居がかった礼を行う。こうして猫耳族の協力が得ることになった。
猫耳族はネコ科の動物のように、しなやかで柔軟。樹上もいけるとなると、ヒョウのイメージに近い。瞬発力を活かした狩りを行うのだろう。
遊撃部隊や伏兵に向いているのかなあ。悪路にも強そうだから場所によっては斥候もいいかもしれない。
ローマでも狩猟を彼らには頼みたい。ハンターとしての能力はこれまでの種族では群を抜いて優秀だからだ。
猫耳族の村を出る頃には日が暮れ始めていたので、俺たちはローマへ帰還することにした。
今日一日で、オーク、リザードマン、猫耳族と三種族もの協力を取り付けることができた。彼らが来ればローマ建設も捗ることだろう。
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