第20話 オークとリザードマン

 人員を確保せねばローマは成り立たないだろうから、何とかしないと。オーク村とリザードマンの集落へ行き募ってみるか。ついでにローマ建設予定地北側も調査を行ことにしよう。

 オーク村は先日行った時に比べ、かなりオーク達が増えてきていた。倒れていた藁の竪穴式住居もいくつかは修復されていて、復興が進んでいる様子が見て取れる。

 俺を見つけたマッスルブが寄って来たので蹴り飛ばしたい衝動にかられたが、せっかくの知り合いだから、こいつに話をすることにしたんだ。


「オーガの居た開けた土地に新しい街を建てる予定なんだけど、移住までとは言わないから手伝ってくれる人いないかな?」


「ブー達も村の復興があるからブー。んー」


「食事はきちんと振る舞おう」


「行くブー!」


「仲間にも声かけておいてくれ」


 ちょろい奴らだ。食事? まあなんとかなるだろ。ブー達はどんな仕事を割り当てようかと思案するも、目の前にいるから何が得意なのか聞いてみるか。


「オークは何が得意なんだ?」


「ブー達は力自慢が多いブー。でも足が遅くてスタミナも余りない者が多いブー」


「なるほど。力仕事が出来るのか。オーク達が来るのを楽しみにしているよ」


「食事は必ず出すブー」


「わかった。わかった」


 力が強いがスタミナが無く、足も遅いか。使い勝手は悪そうに見えるが、そうでもない。力自慢の種族は今求めてやまないんだ。

 兵種としてなら工兵が向いている。土を掘り返したり、資材を運んだりするのに重宝するだろう。


 村での作業なら、まず木の伐採と運搬に活躍してもらうか。家を建てる際にも小鬼族を手伝わせよう。どれだけの人数が来てくれるか不明だけど、ローマに役立つことは確かだ。



◇◇◇◇◇



 飛龍に乗り込み、俺たちはオーク村を発つ。次はリザードマンの集落へ向かう予定だからリザードマンのロロロに彼らの集落について聞いてみよう。


「ロロロ、リザードマン達は戦士だけで百人も連れてくるほど集落に数は多いのか?」


「ああ。二百は超える」


 相変わらずロロロの言葉は簡素だけど、俺は無骨な彼が嫌いではない。逆に不器用でカッコいいとさえ思ってしまう。


「二百か。小鬼の倍は人がいそうだな。集落も大きいのか?」


「ああ。牧場があるからな」


「何だって! それはぜひローマにも取り入れたいな」


 俺はこれまで小鬼とオークの二つの村を見て来たが、正直生活するだけで精一杯と思った。人口も百ちょっとだが、これ以上の人口を支えることは難しいと感じていたんだ。

 ティンが言うに魔の森は、食料資源が豊富らしい。しかし、狩猟は安定して食料が獲得できるとは限らない。冬になれば食料が減るだろうし、蓄えが必要になってくるだろう。さらに凶暴なモンスターに脅かされるんだ。

 しかしリザードマンは違う。牧場で何を育てているか分からないけど、狩猟だけに比べれば、はるかに安定した食料供給ができるだろう。

 だからこそ、二百を超える人口を支えることができるんだ。

 できればローマでは農業を始めたい。都合よく畑を持っている亜人が居ればいいんだけどなあ。


「ベリサリウス様の貢献は計り知れない。きっと族長も手を貸してくれるだろう」


「それなら助かる。ぜひ牧場をローマに取り入れたい」


 期待に胸を膨らませながら、俺たちはリザードマンの集落に向かうのだった。


◇◇◇◇◇



 リザードマンの集落は、小鬼やオークと比べて格段に大きかった。リザードマンの集落は空中からだと一しきり見渡せた。中心には地球で言うとゲルのような形をした住居が立ち並ぶ。この住居はゲルのように布で覆うのではなく、外部が藁で覆われている。

 住居を囲むように、柵で囲われた広い土地が三か所ある。あれが牧場だろうか?


「大きいのが、草食竜の牧場。残りは飛龍とデイノニクスの厩舎になる」


 ロロロが指を指しながら、牧場について教授してくれた。


「飛龍は分かるけど、草食竜とデイノニクスについて教えてくれないか?」


「草食竜は草や木の実などを食べる大人しい竜。俺たちは草食竜の肉を食べる。デイノニクスは馬みたいなものだ」


「なるほど。素晴らしいな! リザードマン達は!」


 俺が褒めると、ロロロの尻尾がバタンバタンと上下に動く。


「リザードマンはすごいですよね! 牧場でしたか? 大きくて素敵です!」


 ティンも眼下に広がる牧場と厩舎を眺め、リザードマンを褒め称える。ますます激しく動くロロロの尻尾。ティンのコロコロ変わる表情。

 和むなあ。この二人。



 飛龍の厩舎だと言う広場に俺たちは着陸する。広場は木の柵で囲ってあり、公園でよく見るバーゴラのような木造の建物が四つ見て取れた。

 バーゴラと違い、屋根は藁で雨が落ちないように工夫されており、ここが飛龍の住む場所なんだろう。

 しかし、今は飛龍が一匹も見当たらなかった。確か全部で飛龍は四匹いてベリサリウスが三匹撃ち殺したんだった。残りの一匹は俺たちが今使っている。

 バーゴラ風厩舎に飛龍を預け、リザードマン族長のいるゲルへ向かう途中、俺はふと疑問に思ったのでロロロに質問をする。


「ロロロ、飛龍ってどうやって捕まえるんだ?」


「飛龍を見つけ、餌を渡す。気に入れば来てくれる」


「なるほど。リザードマンは飛龍と心が通じるのか?」


「ああ。だいたい何を言っているのかお互いに分かる」


「それは得難い能力だなあ。すごいよリザードマン!」


 俺の言葉にロロロはまた尻尾をパタパタと振るのだった。


「ロロロ、折を見て飛龍を捜索しに行こう。飛龍が必要だ」


「ああ」


 リザードマン達は飛龍の強さに注目しているようだが、俺は飛龍の戦闘能力に必要性は感じていない。飛龍の優れているところは、三人まで人を乗せて飛べることなんだ。空からの調査や伝令だけならハーピーでもこなせるだろうけど、飛龍は輸送ができる。

 今は借り受けたままになっているが、いずれ飛龍はリザードマンへ返却しないとダメだろう。なんとかして飛龍をローマへ持っていきたい。



 族長宅前では、族長が家の外へ出て俺たちを出迎えてくれる。


「よくぞ参った。オーガどもの殲滅見事だったぞ」


「族長の働きがあってこそですよ」


 族長自身も戦いに参加していたんだ。今回の作戦は小鬼とリザードマンどちらが欠けても勝てなかった。

 族長はそうは思ってないようだけど。


「いや、ベリサリウス殿があってこそだ。我らはこれまで協力しオーガへ当たったことがある。しかし、防衛が精一杯だったのだ」


「そう言っていただけるとベリサリウス様もお喜びになります」


「プロコピウス殿、そなたの指揮も見事だった。犬耳族と猫耳族をあれほど見事に動かすのは、そうそう出来ることではない」


「ありがとうございます」


 犬耳族というにはワーウルフのことだろう。男は犬の頭をもった人型の亜人で、女は犬耳がある人間女性そっくりの亜人だ。猫耳族はワーキャットのことで、同様で男が猫の顔で女が猫耳となる。

 俺が勝手にワーウルフ、ワーキャットと呼んでいたが、今後犬耳族、猫耳族と呼ぶことにしよう。


 二つの種族は仲が良くないと聞いていたが、彼らは俺の指示に仲良く協力してくれた。何故上手くいったのか推測すると、ベリサリウスの手前従順に従ってくれたのか、それとも軍事行動中だからのどちらかだと思う。


「族長、今回はお願いがありまして」


「ふむ。聞いている。開けた土地にローマという街を造るのだったな」


「ええ。そのために人出をお借りしたいのです、よければそのまま住んでいただいても構いません」


「ほうほう。若い者をそちらへ送ろう。移住の話はまたいずれ。他には何かあるか?」


「ございます。草食竜の牧場をローマにも建設したいのです」


「それは面白い。そちらも了解した」


 ロロロが言っていた通りリザードマンの族長は、ローマの牧場建設に協力してくれると申し出てくれた。続いて飛龍を新たに連れて来るまでの間、今使わせてもらってる飛龍を貸してくれないかという申し出も族長は受け入れてくれたのだった。

 こうして、オークとリザードマンはローマへ来てくれることになったんだ。

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