第18話 戦勝
今回の戦いぶりを見ている限り、ベリサリウスがいなくてもオーガを殲滅することができたんじゃないかと俺は少し思ったが、彼らだけでは無理だったとすぐに気が付く。
亜人たちをここまで一つにまとめあげたベリサリウスが居てこそ、こうして勝利を掴むことができたのだと。
小鬼の技術、リザードマンの戦士、ワーキャットやワーウルフの誘引、飛龍による空からの情報伝達。これらを有機的につなぎ合わせ、全て上手く機能させることができて初めて、オーガに立ち向かえたのだ。
これを実現したベリサリウスの手腕はやはり非凡だと言えよう。
オーガを見える範囲で殲滅した俺たちは、「開けた土地」に集合していた。
「諸君達の協力で、オーガどもを殲滅することが出来た! 働きに感謝する!」
ベリサリウスの勝利宣言に、集合した戦士達はかちどきを挙げる。
「ベリサリウス!」
「ベリサリウス!」
彼の名をあらん限り叫び、今日の偉業を讃える。
「我らが一丸となれば出来ぬことなどない!」
そう締めくくり、ベリサリウスを中心とした戦士達は、オーガどもの死体を集め始める。死体を焼くためだ。
そのまま放置していると、血肉を嗅ぎつけたモンスターが集まって来ないとも限らない。危険なモンスターが多数ひしめいている魔の森にあって、死体処理は必須の行いと言えよう。
「ベリサリウス様、先に小鬼村へ報告へあがりましょうか?」
一緒に死体を集めているベリサリウスに、俺が声をかけると彼は
「さすがプロコピウス! 行動が迅速だな。村長らへの報告任せたぞ」
「はい!」
空中からでは分からなかったが、今吐き出しそうで仕方ないんだよ。
はじめて嗅ぐ死肉の匂い、まだ腐りはじめていないからマシなんだろうが、俺には刺激が強過ぎた。正直立っているのも辛いほどなんだ。
情け無い話だけど、一刻も早くここから立ち去る為にベリサリウスを呼び止めたんだ。
急いでティンとロロロを呼び止め、飛竜へ乗り込む。
「まさかこんな一方的に勝てるなんて、ベリサリウス様凄いです!」
村へ向かう途中、ティンは興奮した様子で俺へ声を掛けてきた。
「確かに、ベリサリウス様の戦術で完勝だったな」
ビタンビタンと尻尾を縦に振り、ロロロもこれに同意している様子だった。
俺たちは和やかなに会話を交わし村へ向かう。この時まで、俺たちは勝利の余韻に浸っていたんだ。しかし、事態は急展開する。
村が見えてくると、俺たちは異変に気がついた......
――小鬼の村が炎上していたのだ!
日が暮れ始めているというのに、小鬼の村からは赤々とした炎が立ち昇っている。
何だこれは!
何なんだこれは!
余りの光景に呆然とする俺だったが事態は急を要する。
焦燥感に駆られながらも、俺はどう行動すべきか頭を巡らせる。
「ティン、ロロロ。急いでベリサリウス様の元へ戻るぞ」
俺の出した答えは、一刻も早くベリサリウスに報告することだった。
ティンとロロロに報告を任せて、俺が降りて様子を見ることがベストだろう。
しかし、村を燃やした者――モンスターなのか亜人なのかは分からないが――がいるとなると俺では対応出来ない。
悔しいが俺自身が残ったところで役にはたたないんだ。もちろん、命が惜しい気持ちも無いと言えば嘘になるけど。
◇◇◇◇◇
情けなくも報告に戻った俺を、ベリサリウスは労ってくれた。
「なるほど。事態は急を要するな。プロコピウス、よくぞ猪突せず戻った」
「滅相も無いです」
「お前は兵力分散の愚を犯さぬよう戻ったのだろう? 私も同意見だ。最高戦力を飛竜に乗せ、村へ向かう」
ベリサリウスは俺とエリスを飛竜に乗るメンバーに選び、ティンには空を飛びついてくるように命じた。
精霊術を使えるエリスはやはり戦闘能力が高いのか。しかしよりによって兵力分散を避ける為に苦渋の決断をしたと思われるとは......
ティンとロロロが俺を見る目がさっきから怖い。そんな憧憬の目で俺を見ないでくれえ。
俺が行って大丈夫か? 今更だけど、今回は空中からの報告係で、武器の数もあまり余裕がなかったから俺は武器を携帯していない。
「ベリサリウス様、恐れながら今私は武器を携帯しておりません」
俺の言葉にロロロは、無言で腰の剣を俺に手渡してくる。よ、余計なことを。
いい目をしたロロロは行ってこいとばかりに俺の背を軽く叩いてきた。
ベリサリウスもこれには満足そうな笑顔で、「さすがプロコピウス」とか言ってる。
「ロロロ、ありがとう。必ず剣は返すよ」
鉄製に限らず、金属で出来た武器は数えるほどしか村には無かった。きっとこの片手剣は、ロロロにとって何より大切な物のはずだ。
ここまでされて奮い立たないわけにはいかないだろう!
武器を振ったことも無いけど。
◇◇◇◇◇
小鬼の村へ到着した俺たちに、未だ燃え盛る家屋が眼に映る。村長は? 村へ残った村民達はどうなったんだ?
飛竜が目に入ったのだろうか? 広場へ続々と村民たちが集まってくる。幸い広場は周囲に燃える物が無く、安全地帯となっていたんだ。
村長も無事な様子で、事の些細を俺たちに説明してくれた。
「ベリサリウス殿、よくぞお戻りになられました。オーガ達はどうなりましたか?」
「村長殿、無事殲滅いたしましたぞ。それより村に何があったのか教えていただけませぬか?」
「昼過ぎでしょうか、人間が四人、この村を見つけるといきなり火を放ったのです。ひとしきり家屋に火を放ち終えると、奴らは去って行きました」
「人間か。今から追うことは出来そうですか?」
「もう近くには居ないでしょう。せっかくのベリサリウス様がもたらしてくれた戦勝をこんな形で......」
悲痛な顔で村長は塞いでしまう。
「村長殿、村民の方々は無事なのですかな?」
「幸い、命に別状のある者は居りませぬ」
「それは幸いです。命さえあれば再起は可能です。村長! 失ったものはまた作ればいいのです!」
「ベリサリウス殿が言うと簡単なことに聞こえますな! また作ればいいですか。蓄えも、全て燃えてしまいました」
「村長殿、建てよう村を! 我々ならばやれます!」
「そうですな。ベリサリウス殿。あなたが居れば」
「私だけではありませぬ。村長殿も村民も、オーガを殲滅した戦士達もいます」
「そうですな。そうですな」
村長の顔に明るさが戻ってくる。
「エリス! 消火を頼む。ティン! 村の周辺を調べよ。プロコピウス! お前は私と戦士達の元へ戻るぞ」
テキパキと指示を出すベリサリウスに俺たちは付き従い、エリスとティンとはここで一旦別れることになった。
エリスは普段と違い、真剣な表情で水を集めるよう村民たちに指示を出し始めていた。ティンはすぐ空へ飛びあがる。
「村長殿。エリスと協力し、ここをお任せします」
「火の消化さえなれば後は問題ありませぬ」
村長とベリサリウスは硬い握手を交わし、また後程とお互いに目くばせを行ったのだった。
今日寝る場所も失ってしまった俺たち、正直俺自身は心が折れそうだったが、ベリサリウスの「命さえあれば再起は可能」という言葉に奮い立たされた。
小鬼の村は全てを失ってしまったが、幸い命だけは無事だった。小鬼の職人たちが無事ならばきっと村は再建できる。今ならオーガも殲滅したし、強力なモンスターが出たとしてもベリサリウスが居るならば問題はない。
これから冬になるまでに狩猟と採集で食料を蓄えつつ、家の再建をすればきっとこの冬を超えることができるはずだ。冬が過ぎれば森の恵みは戻って来る。
ベリサリウスが言うように、村民や戦士たちが無事ならばきっと大丈夫。俺はグッと拳を握りしめたのだった。
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