第11話 ストレスマッハ
エリスのおっぱいの感触で何とか落ち着いてきた。エリス今下着つけてないのか。そのおかげで俺の気持ちが落ち着いたのだから、彼女もたまには俺の役に立つようだ。
さてと豚はやはりオークで、名前がマッスルブというらしい。「ブ」付けないと気が済まないのだかこいつは! また少しイラっと来たが、エリスにガッシリ絞められてるので動けない......
「で、ブー君は腹減って倒れてたと」
「ブーじゃないブヒ。マッスルブだブヒ」
うがあああ! いちいちこいつは。
「ちょっと、プロなんとかさん、落ち着いて」
エリスは俺をたしなめるが、俺は知っているぞエリス。俺がイラっと来るポイントで、君も思いっきり俺を締め付けているのを。そうだこいつはいちいち殴りつけたくなる。
俺は大きく深呼吸をしつつ、意識をエリスのおっぱいに向け、気持ちを再度落ち着ける。
平常心が大切だ。いいか俺。平常心だ。
「マッスルブ君。何であんなところに倒れていたんだ?」
「腹が減ったから動けなくなったブヒ。今更何聞いてんだブヒ?」
「......動けなくなるまで、小鬼村を目指していたんじゃないのか? 何があったんだ?」
「そういうことなら、先にそう言って欲しいブヒ」
「......で? 何があったんだ?」
「せっかちブヒね。実は」
「実は?」
「あーどうしようかなブヒ」
「いいからはやく言えやコラー!」
「ひいいいいブヒ」
ハアハア。こいつわざとじゃないだろうな。いちいちイライラさせる!
そして間が悪いことに、豚の悲鳴を聞きつけた誰かが急ぎ扉を開ける。
「何事だ! ご婦人の悲鳴が聞こえたが?」
ちょうど駆けつけてきたのは、間が悪いことにベリサリウスだった。
「ベリサリウス様。ちょうどこのオークに何があったのか聞いていたのですよ」
「違うブ......」
否定しようとするブヒの口を急いで塞いだ俺は、奴の耳元で囁く「おい、ブヒ。ご飯やらねえぞ」と。
すると豚は急に従順となる。大人しくなった豚は、ベリサリウスに経緯を説明し始める。
「そうブヒ。恐ろしい目に会って気絶してしまったんだブヒ」
豚の言葉にベリサリウスは沈痛な面持ちで豚へ尋ねる。
「そうでしたか。ご婦人。して何が?」
「実はオークの村へヒュドラが出たんだブヒ。ブーは小鬼村へ救援を求めに走っていたんだけど、あそこで力尽きたんだブヒ」
「そういうことでしたか、お痛わしいことです。こんな可憐なご婦人独力で行かせるなんて」
頭を抱えたベリサリウスの声は、これまで聞いたことが無い悲痛なものだった。
「あ、ブーはオークのマッスルブというブヒ」
「申し遅れました。私はベリサリウスです。ヒュドラとは?」
「四つの首を持つドラゴンで、ブー達は逃げることしかできなかったブヒ」
「お仲間はご無事なのですかな?」
「今は避難しているから無事ブヒ。でも長くは......」
「それはいけません! 私がヒュドラなるものを討伐いたしましょう!」
今までにないほど気合の入ったベリサリウスの様子に、豚の表情も明るくなる。
豚や俺が止める声も聞かず、ベリサリウスは家を出て行ってしまった。ちょっと、豚に目がくらみ過ぎじゃないですかね。
「で、マッスルブ。今の話は本当なのか?」
「嘘じゃないブヒ。オークの村にはヒュドラが居座ってるブヒ」
口から出まかせだと思ったが、本当のことらしい。何故なら俺は今豚の鼻先に、干し肉をブラブラさせながら聞いているからだ。
この豚、食べ物の為なら従順になることが分かった。これからはこの手を使おう。
「いいかマッスルブ。ベリサリウス様には余計なことをしゃべるな。俺を通せ。いいな」
「分かったブヒ」
よおしいいぞ。俺は干し肉をブーの口へ投げ入れようとしたら、エリスから待ったがかかる。
その時の豚の表情の変化が面白すぎて、思わず干し肉を落としそうになってしまった。
「マッスルブさん、あなた、メス?」
エリスの問に、
「ん。ブーは男の子ブヒ」
「そう。ならいいの」
エリスはホッっと安堵の息を吐くと、俺に顎で餌をやるように指示を出す。無言で頷いた俺は豚へ餌(干し肉)を与えたのだった。
ちょっとこの状況はどうやって収めればいいんだ? ベリサリウスはどうも豚の美しさに何やら夢見心地だ。豚は男だから、それを知れば夢から覚めるだろう。
エリスもエリスだ。こんな豚をライバルと見るんじゃねえよ。近寄る女全員に嫉妬を向けられてもたまらない。あ、でも。残念ながら豚がメスだったら、エリスのほうが分が悪そうだよ。嘆かわしいことに。
いや、オークの美観で人間をカッコいいとか思わねえだろ。大丈夫だ。ベリサリウスがぞっこんなオークのメスが現れたとしても、オークのメスは彼に振り向かない。きっとそのはずだ。
安心したところで、椅子に腰かけて水を飲もうとするが、何か忘れてる気がする。
「ちょっと、プロなんとかさん。ベリサリウス様をほっといていいの?」
「ああああ。ヒュドラを討伐するとか言ってましたよね」
オーク大好きだからと言って、見ず知らずのオーク村へヒュドラ退治とか、オーガの殲滅準備をするんじゃなかったのかよー。
俺は急ぎベリサリウスを追いかけることにした。彼がどこへ行ったのか当たりはついている。
◇◇◇◇◇
ベリサリウスが行くとすれば村長宅だろう。現状オーガ討伐の準備を村長とリザードマン族長の協力の下実施している。そこへヒュドラ退治だ。
さすがのベリサリウスと言えども、村長には断りを入れるはずだ。
予想通りベリサリウスは村長宅に居た。村長と向かい合って座っているベリサリウスは、俺が来たと分かるとスックと立ち上がり口を開く。
「プロコピウス。ヒュドラなるものを討伐しに行くぞ!」
「えっと、ベリサリウス様。話が全く見えないんですが」
「おお、そうだった。飛龍に私とお前、あと一人はお前が選出しろ」
ちょっと! 俺の言葉が聞こえてねえのか。この人。どうしてヒュドラを倒しに行くことになったのかを、まず教えて欲しいんだよ!
推測するに、飛龍にベリサリウスと俺とあと一人を乗せて、ヒュドラを倒しに行くのだろうけど。俺をメンバーに入れてんじゃねえ! 悪いが全く役に立たないぞ。
「は、はい」
「私は準備をしてくる。後ほど広場で」
有無を言わさず行ってしまった......
茫然としている俺に村長が気の毒そうな顔で俺を見て、ため息をつく。
「ベリサリウス殿の正義感も良し悪しですな」
「ええ、全くです」
俺も村長に同意し、彼と同じようにため息をついた。
しかし、村長の考えは俺とは違っていたのだ。
「ベリサリウス殿は体がお一つなんですぞ。オーガ討伐の準備をしながらヒュドラまで。私は彼の正義感に胸がいっぱいだ」
違う。そうじゃない村長。豚に目がくらんで突発的に動いているだけだ。見間違えるんじゃない!
仕方無いので俺は、ベリサリウスがヒュドラを倒しに行くことになった経緯を聞くことにした。
村長が言うには、突然村長宅を訪れたベリサリウスがヒュドラを討伐すると言い出して驚いたそうだ。
なんとヒュドラなる生物は、小鬼族の村人全員でかかっても倒せるか分からないほどの強力なモンスターだったらしい。
体長は飛龍より二回りほど大きく、胴体部分だけでも横幅十五メートル。体高十メートル。ドラゴンのような灰色の鱗で覆われた体には四本の首が付属している。首は十メートルほどの長さがあり、それぞれの首から火の玉を吐き出すんだそうだ。
尻尾による攻撃も強力で、飛龍でさえまともに当たればただでは済まないそうだ。
村長からすれば、ヒュドラ討伐は現在準備している大量のオーガ討伐に匹敵する難事だったというわけだ。
村長はベリサリウスにヒュドラのことを説明したが、彼は「問題ない。私とプロコピウスに任せてほしい」と。加えて「飛龍を借り受けたい。半日で倒して戻って来ます」とまで言い切ったそうだ。
ベリサリウスは飛龍三匹を単独で討伐した猛者だったので、ひょっとしたらと思った村長は、オーク村の場所をベリサリウスに教えたそうだ。
何てことしてくれてんだよー! ちくしょう。
村長の話を聞いた俺はトボトボと村長宅を後にするのだった。
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