Ⅱ
もんだいです。
ほこうしゃようの しんごうは あおでした。
しょうねんが あるいているところに くろの おおきなくるまが やってきました。
しょうねんと くるまは ぶつかりました。
あたりには おおきなおとが ひびき ひめいも きこえました。
どうろは ちのいろに そまりました。
それから どうなるのでしょうか。
* * *
「あーあ…」
布団でゴロゴロするのが好きだ。特に何もしないで、ただ、いる。
目覚まし時計が、18時を示している。朝しか見てないからって、朝以外もちゃんと仕事してるんだね。偉い。
最近、第二のユウキと話すようになって、違和感でちょっと疲れている。
同じ顔で同じ姿なのに、全く性格が全然違うから。あと、喋り方が変わると声も別みたいに聞こえる。まぁ、違くて当然なんだけどね。
今日は学校が休みだけれど、ユウキに会った。
風が吹いて髪の隙間から覗いた瞳が、困惑の色をしていた。多分、道に迷ったんだろうなぁって思って。声をかけないわけにはいかなかった。
ユウキは、私の友達。
家が近くて、小学校の登下校が同じ班だった。班で登校するのは珍しいかもしれないけれど、そのおかげでユウキと仲良くなれたから感謝している。
クラスも何度か同じになって、きっといちばん気さくに話せる仲だった。
中学に上がっても、それほどメンツは変わらない。変わったのは校舎と、制服になったくらいだ。
でも中学になったら班で登校じゃないし、たった3年だからクラスも一緒になれなくて。偶にすれ違ったら挨拶をするくらいで、話す機会は減った。
多分もう小学校みたいに話せはしないだろうなって思ったけど、でも。
高校も、一緒。
嬉しさはあるけど、漫画みたいにずっと一緒でいちばんの仲、みたいな関係ではない。互いに同性の友達もいる。よくある、付き合ってるんじゃ、とかの噂を立てられることも一切なかった。
そんなこんなで、幼馴染なんて。いえるかな?
「内緒にしようかな」
私も、友達が欲しかった。ユウキと仲を深めたいという思いももちろんあったけれど、今またユウキに偏ってしまえば、交友の輪が狭まってしまうかもしれない。
それは私だけじゃなくて、ユウキもだ。ユウキに友達がいなかったら、ユウキが困る。
「内緒にしよう」
まわりだけじゃなくて、自分自身にも。
高校生活が別だって、ユウキはユウキだから。
入学式は、もうすでに桜が散り始めていた。
紺を基調とした制服に袖を通して、新品のローファーを履いた。昇降口に貼りだされた名簿から自分の名前を見つけだし、ユウキのも見つける。
「……おんなじ?」
私の名前の数行上に、見慣れた彼も書かれていた。
あ…、どうしよう、どうしようか? クラスが同じじゃ、話す機会があるかもしれない。いやでも逆に、避けられたらどうしよう? ユウキが私を覚えていなかったら? しばらくぶりだし、忘れてるかもしれない。
……色々思うことがある。でも、嬉しい気持ちがいちばん、大きい。多分。
もたもた悩んでもしかたないし、とりあえず案内に従って教室へ向かう。
自分のクラスも席もみつけて、周り近所を見渡すと——
「なんでアイカが隣なんだ」
ユウキがいた。
「なんでっていわれても……名前の順だからだよ」
ユウキは、なぜか今にも笑い転げそうだった。何がそんなに面白いのか分からないけど。
でも、つられて私も大声で笑ってしまいそうだ。
疎遠になるつもりで学校来て、ユウキと同じクラスだどうしようって、考えた途端に、これか。時間も思考もぜんぶ、最初から必要なかった。
話さないで過ごすのなんて無理だ。隣の席でコミュニケーションを全く取らないなんて。それがユウキなら、尚更。
もう、ぜんぶ、なるようになればいい。
藍色だと思っていた色鉛筆が、実は黒色だった、みたいな。それだけのことのように思えて、予想とは反するけれど、これもこれで、よかった。
入学式も担任のお話も終えて、そろそろ正午に近づいていた。
「ユウキ、一緒に帰ろう」
まだ固まっている教室の雰囲気に、ちょっとヒビをいれるようユウキへ話しかけた。
「ああ、良いよ」
あ、あっさりOKしてくれた。女子と帰るとかありえない的な感じで拒否るかとも覚悟してたけど。
「チャリ?」
「ううん、歩き」
「一緒だ」
真新しいカバンに真新しい教科書を詰めて、まだ慣れてない校舎内で、昇降口を探して歩く。楽しい。
小学生ぶりに、一緒に帰った。
「久しぶりだな」
うん。
久しぶりだ。ユウキの顔を間近で見るのも、ユウキの息を傍で感じるのも。
大人っぽい顔立ちになっていた。
小さい頃はあんなにやんちゃで。一緒に泥遊びとか鬼ごっことかしたけど、ユウキのほうが子供っぽくて、私はずっとお姉さんだったのに。
中学の頃、ユウキがイケメンだと周りに噂されたことがあった。その頃は、ご近所同士だってことを知っている友達も多くて、ちょっと問い詰められたりもした。
んー、イケメンの基準ははっきり断言できないけれど、身長も高くなってて、ずっとお兄さんみたいだ。
「アイカは何部入るの?」
「また美術部かな」
「絵、好きだもんね」
「好きなだけね」
「好きならいいと思うよ、俺は」
なんて。
はにかんだところは、昔みたいにちょっと幼稚なんだ。
「ユウキは?」
「帰宅部」
「中学もそうだっけ?」
「そう、いいかなって」
部活のないユウキはいつも早く帰るし、部活のある私はいつも施錠ギリギリまで学校にいた。帰宅時間が合ったことは多分ほぼない。
「じゃあ、もう一緒に帰れないか」
中学から積み重ねてきた美術部をやめたくはない。でもこれがユウキと一緒に帰る最初で最後だとは、思いたくなくて。
「は? 俺がアイカを待てば良いんだろ」
「え?」
ま、待つって。部活って2時間くらいあるんだけど…勘違いしてる? 部活って知ってる?
「申し訳ないよそれ」
「なにが。俺がアイカと一緒に帰りたいだけ」
一緒に帰りたい、なんて。
ユウキと疎遠になりかけたときに、私が言いたくても言えなかった言葉。それを、こんなにさらっと言うから……きみは、ずるいと思う。
いつか、仕返しをしよう。今日のことをきみが忘れても、私は一生、覚えてる。
「久しぶりにアイカと話せて嬉しかった」
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