第6話 こんにちは赤ちゃん 3

 エルフを退治して、さらわれた赤子を奪い返した二人のドワーフは街への山道を急いだ。

 ドワーフが蛮族、野人と呼ぶエルフとは、我々普通の人と大して変わらないらしい。例えば、犬とキツネくらいの違いだろう。

 背が高く、体格は痩せっぽちで、男女の見分けが比較的つきにくいし、性別による差があまりないらしい。普通の人に近い容姿だが、顔が薄く耳がとがっている。

 森の中に住んでおり、狩猟や採集を基本に畑を持つこともあるという。生活範囲がドワーフと被る事が多いため、お互い厄介者と思っていて衝突がしばしば起こる。野性味のある生活をしている割に長寿であり、稀に百歳を超えるまで生きる事もあった。

 ドワーフの炭鉱都市カザドスタンは重なる山々にひっそりと栄えていた。それは普通の人には見当もつかない深い山の谷間にあって、とても酔狂で出かけられるような場所ではなかった。ただし、稀に迷い込む者もいて、もし無事に帰れたとしても、人間以上の文明の体験談は神隠しの様な怪談にされ、夢物語と解釈されるだけだ。

 居住区は日当たりのよい山腹であり、それぞれの技巧を凝らした住居が段々畑の形できれいに立ち並んでいた。広大な居住区は高度が高いほど高級地になり、下になると地下街までが存在する。長のアッサームの城は最も高い場所にあった。


「なに、息子が戻ってきただと?!」

「ダージとセージの手柄でさあ。にっくきエルフの手からさらわれた御子を取り戻したんです」

「どうりで長の様子がおかしかったわけだ。カラ元気なわけだよ、息子がさらわれてちゃな」

「そ、そうだったかな」

「モロバレですよ長。いやー、御子をさらわれたとて宴に水をささない長の男気、さすがですわ!」

「お、おう。気づくのが遅えわ。ちょっと失礼する」

 素早く場を切り抜けたアッサームはファティマの寝室に向かう。

(なにがどうなっているのだ。死んだはずの息子がさらわれた?それが無事戻ってきた?)

 疑問は多すぎたが、アッサームはなんとなく事の筋が推理できた。おそらく、エルフがさらったのはよその赤子だろう。奴らは不作が続くと別種族の赤子をさらい、森の神へのいけにえに捧げるという。きっと、よそでさらわれたドワーフの赤子に違いない。今頃本当の親が必死で探しているのだろう。


「ファティマ、帰ったぞ。なんだか城に変な噂が立っているが、決して真にうけるな…」


 アッサームは目を疑った。そこには死んだはずの息子ヨカナンを抱き、乳を与えている妻の姿があった。

 真っ黒い髪と瞳に、雪の様な白い肌。

 赤子なぞ大体見分けがつきにくいもんだが、特徴がよくにている。まさか奇跡がおこったのかと疑いながら赤子の顔をのぞくが、確かによく似ていた。しかし、別人なのはなんとなくわかった。

「あなた、お帰りなさい。私の分のビールも欲しかったわ」

「ファティマ、ヨカナンの様子はどうだ?」

「とても元気よ。でもね、わたし夢をみたの。あなたがいて、ばあやがいて、でもヨカナンが目を閉じたまま起きないの。とても怖い夢だったわ」

「そうか、、夢をみていたんだな。

よかった…」




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