そのに。
七時半に家を出て、僕は学校への道を歩く。先ずは徒歩五分の駅へ向かい、電車に乗って二駅経た先で降りる。そこからは徒歩一〇分だ。総じて三〇分程しか掛からない道程だけど、僕はその間ずっと思慮に耽るつもりでいた。
先ず、
そして二つ目。仮に僕が彼女へ恋愛感情を抱いていたとして、果たしてどうするかの話。今のデブでキモオタな自分が、毒舌的なだけで、他は普通の感性っぽい彼女に受け入れられるだなんて到底思えない。と言うか、まともな身形をした人達だって悩んでいる事に、まともじゃない僕が悩む事すらおこがましい。普通に諦める方向が良さげなんだけど、諦める方法も分からない。
こんな時、僕は自分を呪わざるを得ない。オタクだから普通に過ごしているクラスメイトとは話が合わないし、クラスメイトからオタクっぽい同志を見つけても、僕は強面だから怖がられて避けられる。ネットの友達くらいならいるけど、大抵馬が合う友達は僕と同じキモオタばっか。つまり恋愛相談の相手じゃない。
深月さんどうのより、友達が欲しい今日この頃だ。なんだかすんごく虚しくなってきた。
「おい」
登校の最中、駅のホームで電車を待っていると、不意に声を掛けられた。地下のホームでは少しばかり響く低い声。ハッとして声のした後ろを振り返れば、そこには僕と身長が変わらないイケてるメンズの姿。タイル張りの地面をかつかつと音を立てて踏み鳴らしながら、僕が立っているプラットホームの端に向かってきていた。
「ああ、
「おう。今日はゲームやってねえのな」
「う、うん」
彼は進藤
校則で許されてるからって、真っ白にさえ見える程の金髪をしていて、後ろの髪だけギリギリ肩につかないウルフカットが印象的だ。ハリネズミみたいにツンツンしているのは、毎朝セットしてるからなんだとか。ちらりと見える耳には透明なピアスを着けていて、学ランも第二ボタンまではだけさせている。まるで詰襟として着ていないようなチャラチャラした格好だった。
見ての通り進藤君はヤンキーの一人。当たり前だけど取り立てて仲が良い訳ではない。登校中に同性のクラスメイトと出会したら挨拶ぐらいするよね。それぐらいの関係。
まあでも、彼のことは父さんが何度も補導していて、彼も彼で「昨日お前の親父に補導されてよぉ」なんて言いながら、笑いかけてくる。実に可笑しなヤンキーだったりする。
始めは腹いせでもされるのかとビクビクしてたけど、むしろ父さんに見つかるのが一番楽なんだとか。その父さん曰く、彼は空手の有段者で、無為な暴力はしない筋が通った人物らしい。まあ、僕を気持ち悪いと罵らないだけ、随分奇特な人格をしているのは良く分かるけど。
――って、これ、チャンスじゃない?
ふと僕の頭に妙案が降りてきた。ヤンキーだけどあまり怖くない進藤君なら、もしかしたら僕の悩みをそれとなーく聞ける相手かもしれない。それに彼は色んな女の子に手を出してるって専らの噂だ。聞く相手としては間違ってない……多分。
不意に横目で僕の隣に落ち着いた彼を見てみる。気だるそうに元から細い目を更に細くしていて、小麦色の肌に皺を寄せながらの大きな欠伸の真っ最中だった。
「し、進藤君」
僅かに
「あ、あのさ……」
話し掛けたからには引く事は無い。むしろ進藤君はあまり怖くない。僕の声が震えているのは彼が怖いからじゃなくて、身内以外の人と話すのがそもそも苦手なだけだ。
「なんだよ」
僕は怪訝そうに見返してくる彼に、何処か視線を逸らしがちになりながら溢す。
「す、好きって、ど、どこから恋愛にあたる?」
「はぁ? 知らねえよ。んなもん」
聞けば彼は、間髪入れずにバッサリ切り捨ててくれた。流石深月さんに社会不適合の烙印を捺された人間。コミュ障も顔負けな人間関係放棄っぷりと言える。
そして僕の質問など知ったこっちゃ無い様子で、欠伸に続いて耳を小指でほじりはじめた。汚い。
「学校でなんて噂たってっか知らねえけど、俺、女居たことねえぞ?」
気だるそうな顔付きで、続いてそんな事を言う進藤君。僕は開いた口が塞がらなかった。
いや、うん。僕のコミュ力は皆無だから、噂話に聞き耳を立ててただけだもん。そこに真偽を問うコミュ力があれば、僕はきっと二次元に逃避していない。仕方無い。
そんな風に自分に対する言い訳を並べる僕の前で、しかし進藤君は厳つい見た目に反して、丁寧にも二度口を開く。
「んまあ、なんとなくだろ。知らねえけど」
「う、うん。有り難う」
そのなんとなくを知りたいんだよ!
とは思うものの、それを問い質せる程、以下略。
まあ、キモオタだと噂だってる僕の話に付き合ってくれるだけ、進藤君は見た目に反して良心的だ。とは言え流石にそんな仲良くもない相手からの、「気になる女でもいんの?」と言う深堀りには首を横に振って答えたけど。
その後は珍しく会話が弾んだ。本当に珍しく。こんな事は殆んど毎日顔を合わすのに、月に一度あるか無いか。まあ、話した内容は内容だけどね。
進藤君、昨日の夜にまた補導されたらしくて、その時は相手が僕の父さんじゃ無くてあっさり警察署に連行されたそうだ。自業自得とは言え、次やったら拘置所直行なんだとか……。
何やったんだろ? 大方原付バイクの後ろに乗ってたり、タバコ吸ってたりしたんだろうけど、万引きとかじゃないよね?
別にそんな楽しい会話じゃあない。友達が居ない僕にとっては聞くばかりの話。だけどまあ珍しいものだから、僕はちゃんとその話に相槌を打ち続けたんだ。
電車が来て、それに乗って、二駅過ぎて、降りて、歩いて、学校に着いて――ここで気付いた。
ありきたりな四階建ての白塗りな校舎を見上げながら、僕はポカーンとして、自らの遂行力の無さを呪う。予鈴まではまだ三〇分以上あるけど、立ち止まった僕を振り向いて「おい」と呼びつける進藤君は、むしろ今からが話したい場面なんだと言わんばかりにうずうずしているような気がした。
オワタ。
深月さんの事、なんも思い付かなかった。
案の定、うんと生返事を返して追い付けば、進藤君は「それでよぉ」と昨日書かされたらしい警察の書類の面倒臭さを声を大にして語り始めた。確かな予感があった。この話は教室に着いても終わらない。むしろ僕の予定が終わった。
とはいえこの時、多分僕が冷静なら、ちゃんと気付いたろうね。そう思う。だけど僕は寝不足で、かつ昨日の夕方から引き続き内心慌ただしくて、加えて進藤君が僕の思案を邪魔するものだから、ついぞ気付けなかったんだ。
――別に、恋をしてるかどうか判別するのは、今日じゃなくても良いのにね。
北舎二階にある二年一組。その内窓際の一番後ろの座席が僕の席だ。校舎の玄関で上履きに履き替え、更に教室に着いて尚、進藤君の話は続いた。話は遂に佳境に入って、警察署に進藤君の親父さんが彼を迎えに来た所までいっていた。
僕が自分の席に座れば、対する進藤君は窓際の一番前の自分の席へ向かって鞄をぶん投げる。そして僕の前の滝沢君と言う内気で気弱な文化系男子がまだ登校してきていないのを良い事に、座席へ普通とは反対向きで座る。背凭れを両腕で抱き留め、乗馬するように椅子へ跨がった状態だ。
「親父ったら俺の顔見るなり『亮次! このアホんだらぁ!!』つって顔面に一発くれやがんだぜ? 酷くね?」
「あ、ああ。顔は痛いね」
言われてからよく見てみれば、確かに進藤君の右頬は打たれた痕なのか、青白くなっているようにも見えた。もう半ば深月さんの事は『どうにかなるだろ』なんて楽観視と言う名前の諦め方をし始めていて、まだ彼女が登校してきていない事を良い事に、僕はとりあえず進藤君の話を聞く事にした。
まあ、聞けば聞く程、可哀想にはなった。
昨日の夜半。進藤君の友人であるヤンキーA君が原付バイクを盗もうぜと言い出して、ヤンキーB君が良いねえなんて同調したそうだ。それは進藤君がトイレに行っていて知らない間の話で、戻ってみたら二人は居らず、進藤君はおいてけぼりを食らった。そこで電話をしてみたら、なんとその二人はバイクの物色中だったらしい。
進藤君、こう見えて、実は盗むのは良くねえってちゃんと思うらしい。むしろ盗まれた人が明日の通勤とかに困ったらどうすんだよって事も考えられるんだとか。結果、二人を止めに行き、彼らから大ブーイングを貰ったそうだ。
おいてけぼりと言う腹立たしい扱いに加え、当然の事を言って大ブーイングを貰った進藤君。当たり前なようにぶちギレたらしい。
そして彼は噂通りの腕っぷしで、ヤンキーA君とB君をボコボコにした。そこで騒ぎを聞きつけた警察官に止められ、敢えなく連行。事情を話すも信じて貰えず、単に『空手有段者の男が友人の動向に腹を立ててボコボコにした傷害事件』として処理されたそうだ。警察は学校に連絡しないからさっさと書類を書けと脅しかけて、埒があかないと悟った進藤君は遺憾この上無い書類と反省文に加え、二人へ示談の謝罪したそうな。
うん。僕を通じて父さんに部下の教育しろよって伝えて欲しい気持ちは、何となく伝わった。僕の父さん、一応そこそこ階級あるしね。
「それでよぉ。まあなんつうか、俺脱ヤンキーしようかなって思うわけ。どうやったらオタクになれるんだ?」
そして話はよく分からない方向にいく。
いや、訳が分からないと言うよりは、何故そこで敢えてオタクを選ぶのかと選択肢そのものが疑問だった。ああ、でも、随分前に、ヤンキーとオタクが互いの属性を入れ換えようとするアニメがあったなぁ。とも思った。
まあ、思っていても仕方無いので、随分と分厚いオブラートに包んで、何でオタクなのか聞いてみる。すると彼はさも当然な風に答えた。
「ヤンキーとオタク足して二で割ったら真人間が出来そうじゃね?」
結論、ヤンキーは良く分からない生き物だ。
思考回路が良く分からない。何でヤンキーとオタクを足して二で割ったら真人間になるのか、とてもじゃないがサッパリだ。むしろ最近じゃあヤンキーオタクなんて、新しい属性があったりするんたけど……。
「それよかマジマジ。どうやってオタクなんの?」
僕の懸念なんて知ったこっちゃ無い様子で、進藤君は滝沢君の椅子を前後に揺らして、ガタンガタンと床を打ち鳴らす。木目調の古めかしい床だから、あんまりやりすぎると床が削れるって事は、頭に無い様子だった。
と言うか、ちらりと横目に見てみた教室の入り口付近で、滝沢君が青白い顔をして固まっていた。
ここは教室の床の為にも、入り口で困惑している彼の為にも、是非を問うより進藤君に尤もらしい答えをあげた方が良いかもしれない。僕はそう思った。
と、その前に出来る限り落ち着こう。オタクが自分の領域を口にする時は、ついつい熱が籠っちゃうものなんだ。少なくとも僕は間違いなくそう。ネトゲでオタク談義を交わし始めれば、気が付いたら空が白ばんでいるものなのだ。
僕は某有名キャラクターを想像しながら、机に両肘を立て、その手を組んだ。そしてその手で口元を隠す。
「その為のアニメです」
僕はハッキリと自分のオタク論を断言した。ここに白手とサングラスに黒いスーツがあればバッチリなんだけど、残念ながら僕は司令じゃないからそんなもの用意できない。コスプレも趣味じゃないし。
「二次嫁を見付けろ。話はそれからだ」
「お、おう……」
若干。
ほんの僅かに、だけど。
進藤君が顔を引きつらせた。それと同時に椅子を揺りかごにするのを止めた。
僕は続ける。
「嫁と言うのは偉大です。特に二次元は一夫多妻でも誰に咎められる事は無い」
「お、おう」
「加えて慣れてくれば相手キャラクターの動向や言葉が読めるようになってくる」
「お、おおう?」
「一見すると面白味に欠けるが、自分の嫁キャラが自分の想像通りに動いた時、そのキャラへの理解度にひとしおの達成感を感じる」
「…………」
「それが良いのだよ二次元は。分かるかね? 進藤三佐」
「お前、おもしれーな」
気が付けば目の前の進藤君はクックックッと含み笑いをしていた。ハッとすれば自分でヤラカシタと気付く。オタク談義を熱く語らないように落ち着いた筈なのに、落ち着くどころか彼に自らのオタク論をぶちまけていた。
まあ本気で話し出したら一昼夜過ぎるくらいの論を並べられるのだし、それを僅か数十秒に纏めたのだからまだマシな筈。しかしその『マシ』と言う価値観は、果たして僕の主観的過ぎる楽観視にも思えた。
いや、普通に考えて二次嫁とか言ってる時点で我ながら気持ち悪い。まあ、別に誰に何と思われようと気にしないけど。
「俺にオタクは無理そうだ!」
しかし進藤君は僕の期待を斜め上に裏切って、気持ち悪がる事は無く。それでも無理だと言う見解に至ったらしい。声を上げて笑い始め、「愚痴聞いてくれてありがとよ!」なんて言いながら滝沢君の席を立つ。
うんと頷いて、稀有な反応をしたヤンキーの背中を見送りながら、僕の脳裏には『布教失敗!』と騒ぎ立てるオタクな自分を感じた。
そして不意に視線を少しずらして――。
「あ……」
いつの間にか登校してきていた深月さんと目が合ったのは、そんな折りだった。僕は思わず口をポカンと開けて、彼女の姿に背筋が凍り付く感覚を覚えた。
肩につくぐらいで切り揃えられたセミロングのボブカット。でも真っ黒な髪は一房一房が纏まっているように見えて、切り揃えられているけど流れには統一感がない。僅かばかりの癖っ毛さが窺えた。襟足はほんの少し内巻きで、シルエットを華奢っぽく見せる。
僕を見詰める瞳の色は黒。普段、彼女の目はパッチリとした印象だけど、この時ばかりは怪訝そうに細められていた。そうなると睫毛があまり長く見えない彼女は、とてもパッとしない顔付きだ。鼻筋は小振りで形こそ整っているけど印象的ではないし、唇だって取り立てて目立つ色合いじゃない。
ブレザーで着膨れした体型だってそうだ。首もとで結ばれたリボンは、首筋が華奢なら見栄えするものだけど、彼女の首はそう見せないぐらいの細さ。僅かに膨らんだ胸は貧しいながらも希少価値がある程じゃないし、椅子に腰掛けていて良く分からないけど、確か足だってそんなに細くなくて、美脚とはかけ離れていた気がする。
ここがゲームの世界なら、彼女に与えられる役職は間違いなく『モブA』だろう。あまりにパッとしない見た目だ。美人でも不細工でも無い、そんな感じ。特にさっきの僕が繰り広げた気持ち悪い論弁が祟ったのか、嫌悪感さえ感じるその顔付きと言えば、絶対に主人公の味方ポジじゃない。
絶対に絶対、ヒロインにはなり得ない女の子。
僕は彼女がこの教室に入って来た姿を見逃していたらしい。いつの間にか彼女は僕のふたつ前のひとつ右隣の席に腰掛けていて、僕の方をじっと見詰めていた。その顔付きと言えば、間違いなく今しがた披露した僕の気持ち悪い行いを、正しくそう思っているようで――。
ドクン、ドクン、ドクン。
視線を合わせたまま、僕は焦燥感に似た何かに襲われる。彼女のその唇が開かれれば罵倒されると、虫の報せに似た予感。
「…………」
まるで地獄のような一瞬。一秒が何十秒にも感じて、僕の身体は戦慄するかのように硬直していた。
普段の僕なら誰にオタク談義を見られたとて怖くは無い。恥に思う心はあるし、自分でも気持ち悪いとは思う。だけど、クラスメイトなんて将来の僕に殆んど関係の無い人達だ。どう思われてるのか気にする方がナンセンスだと思っていた。なのに、何故か今は単純に怖くて仕方ない。
――聞かれたくなかった。
そう思った。
いや、別に僕がオタクな事なんて、このクラスでは知れ渡っている事だと思う。隠していないどころか、僕は休み時間に堂々と携帯型のゲーム機をやっているんだし。既に彼女が知っている筈の事だった。
なのに何故か、彼女がとても恐ろしく見えた。そして同時に、彼女の口から出てくると予想される『気持ち悪い』と言う言葉を、何とか回避したいと思う心があった。間違いなく、そう思った。
だけどここで僕に与えられる弁明のチャンスはない。調子づいて可笑しな事をやらかした僕に与えられる手段は、サッと彼女から視線を逸らし、窓の外へ向ける事だけだった。
「デブでオタクとか――」
小さく溢された言葉は、意識を逸らそうとする僕の耳に、確かに届いた。女の子にしては低くて、でも明るい印象のある筈の声。なのに溢された言葉は棘しかなくて。
外を見詰めた筈なのに、二階から見える校外の樹林は全く目に留まらなくて。意識はひたすらに彼女の言葉を拒絶するのに、何故か耳聡くなってしまって。
「無能すぎでしょ」
冷淡な深月さんの声が、鋭いナイフのように感じた。そしてそのナイフは間違いなく僕の目に見えない、教科書に載っていない臓器へ向けて放たれて、深々と突き刺さった。
僕は本当に普段、誰に気持ち悪いと思われたって構いやしない。むしろ自分で自分を気持ち悪い人間だと思っている。亜弥に気持ち悪いと言われたって気にする事は無いし、何があってもオタクを辞めようだなんて思わない。
それどころか僕からオタクを取ったら何が残るのかさえ分からない。だから自分の
なのに。
なのに……。
何で彼女の言葉を受けた途端、こんなにも胸が痛むのか。何で彼女に気持ち悪いと思われたと恐怖し、身体が震えるのか。何で頭の中が焦燥感で埋め尽くされているのか。
今すぐに再度彼女へ向き直って弁明の言葉を並べたい。誤解では無いけど、釈明する機会が欲しい。嫌われたくない。
そう、思った。
だけどそんな事を出来る筈も無くて、焦燥感は増していく。嫌われても良い筈なのに、誰にどう思われようと構わないのに、僕の心はそんな言葉こそ構わない様子で焦るばかりで――そして、そこで漸く気が付いた。
黒板の方へ向き直る小さな背を視界の端で見詰めながら、ドクンドクンと高鳴る鼓動を確かに胸の内から聞く。まるでその音が教えてくれるようだった。
深月さんにだから、嫌われたくないんだ。
好かれたいと思ってるから、怖いんだ。
――これが恋なんだ。
確かめる事なんて何もない。昨日の妄想で『気持ち悪い』と言われた時点で気が付くべきだった。あれは自慰行為の背徳感が見せる、僕の一番怖いものだったんだって。
好かれたいと思うかなんて、僕は自問自答して分かる筈がないんだ。
自分の思った通りに動く二次元の嫁なら、絶対に僕の事を嫌いにならない。嫌ったように見えても、必ず好かれるルートってものがある。今までそのルートを幾つ辿ってきた? 僕は仮初めの二次元が見せる好意に慣れ過ぎて、三次元のそれを見て来なかったじゃないか。
だから嫌われても良いだなんて、誰にどう思われようと構わないだなんて、思えて来たんじゃないか……。
でも、僕は決してギャルゲの主人公なんかじゃない。世界を救って感謝されるような
僕に好かれるルートなんて、明確な選択肢で示されている筈がないんだ。
当然だ。
だってここは
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