IRON PIT
登場人物
オースティン……アドラスティア第十八柱。口数が少なくよくからかわれる。
ボウエル……第十五柱。中性的で家庭的な一面を持つ。
コデック……第十六柱。攻めっ気が強い。
ブライ……第十七柱。ひょうきん者だが実力は折り紙付き。
ホームズ……第一柱。意外と面倒見がいい。
湿潤な南の大地はしかし人の心までは潤さないらしい。南半球に夏を呼び込むこの風も、喜びまでもたらすことはない。ここサウスランド連邦はその成立以後、絶え間ない内戦の中にある。政府が弱いのか、連邦制自体がこの地域に合わないのか。いずれにしても、ここでさらなる破壊を命ぜられた僕には関係のないことだ。
――こちらコデック、第七市区は完了。
「承知した。ボウエルとブライはどうだ」
――こっちは問題ないぜ。ただ……。
「まさか、ブライがまた」
市街地での戦闘は、アドラスティアの兵にとってはショッピングのように日常的な行為だ。自然、熟達もしている。巨人による作戦が開始されるまで、ここで油を売っているといった感覚を共有していた。はずなのだが、どうも不安要素があるらしい。
――こちら無頼志三郎。第四管区の基地に単騎で突入。
四半刻にて制圧を完了せり。ばちんと何かを叩いてそう口にした彼の器を、僕はまだ測りかねていた。
「それならいいが。派手好きは結構だが、あまり無茶をするなよ。ここでの戦いは、我々にとって意味を持たないからな」
――合点承知の助心得た。ところで隊長。
「なんだ」
――この道中は、いつまで続くんでい?
僕はため息をつく。柱としては異例のことだが、僕ら四人は小隊編成を取っている。そしてブライが最年長なのだが、そのために一時期だけ隊長に任命されたことがある。その時は散々だった。彼は積極的に敵の前に立つ。そのせいで苦境に立たされたことも一度や二度ではないのだ。コデックは乗り気だが、僕にしてみればたまったものではない。なし崩し的に僕が任されることとなったが、その方が三人の負担が小さくていいだろう。僕の時間も持てる。
「命が下るまで、だ。どんな戦場でも、僕たちのすべきことは変わらない。とは言え、今日はここまでだな。全員帰還せよ」
――オーケー。
――
――承知仕った。
その声を聞いたのち、通信を切る。屯所に戻れば、三人の顔を見ることになるだろう。僕はその前に、すべきことがあった。
武器を捨て、ふらりと街をめぐる。ごろつきに絡まれても殺すことはない。ただその蒙昧を、後悔してもらうだけ。それにしても、思っていたより治安がいい。殺人はめったになく、強盗も管区全体で週に一度あれば多い方だそうだ。無論、それは表の話だろう。既に秘密警察の存在は明らかになっている。もみ消される事件があっても、決して不自然ではない。
僕は転がっているスプレー缶を用いて、壁にサインを描く。作業は順調である。このような原始的なメッセージを残すのも、ジャミングと傍聴の渦巻くサウスランドならではだろう。味方の柱が堂々と交信する方が、不自然なのだ。だが僕には、ひとつだけせねばならぬ通信があった。
周波数は、連邦政府の強力な検閲をすり抜ける特殊なもの。その先にいるのは、僕の本当の主だった。
――あら、ウィンくん。あるいは、オースティンと呼んだ方がよいのかしら。
その冷たく透明な声は、聴くたびに僕の心を揺さぶる。
「いえ、今の僕はあなたのアーヴィンです。そのほかのものではあり得ません」
その回答に満足したように、ふっと笑う声が聞こえた。
――通達したポイントのうち、第四管区までがあなたの領分ね。
「市街地の規模や人の流れは把握しました。作戦に関しては、問題なく遂行できます」
含みを持たせるまでもなく、わが主は問い返す。街路で見たその名を、伝える必要があった。
――なにか不確定要素があるのね。
「はい。運び手とは、いかなる者でしょう」
運び手。繰り返した主の声は、わずかに動揺を含んでいた。
――ついに動き出したのね。組織の形態を取らない兵士の集団で、種蒔く人の系譜のひとつよ。構成人数は少ないけど、その実力は計り知れない。
「手に余るようなら、排除します」
――頼んだわ。今までも散発的な行動はしてきたけど、今回は違う。ここが私たちにとっての始まり。ティシポネがその吐息で世界を凍らせる、その足掛かりなのよ。
「承知しております。同志がどこまでも高みに上るため、僕はこの命を捧げます」
――ありがとう。あと、ネメシスには十分に気をつけて。連中は巨人では我々にも匹敵する力を持っているわ。でも生身での戦闘をこなせる兵はいない。戦う場所さえ選べば、ティシポネは負けないわ。
「
――それじゃあ、任せたわ。そして、あのことについてもよろしくね。
「はい、仰せのままに」
僕の内側に燃える炎は、どこかで延焼する、爆発する機会をうかがっている。それを最も鮮烈に提供してくれるのが、彼女なのだ。であれば、僕には彼女とともにあること以外に道はない。
それを狂気とは、わかっている。だが僕自身の在り方として、それは必然だった。
報告を終え、路地を離れる。視線には、あえて気づかぬふりをした。こうして動き回っている僕も、すでに大蛇の口の中にいるのだろうか。殺気だった街の雰囲気の中にうっすらと感じた気配は、深い闇を想起させた。とはいえ火遊びで時間を浪費することも憚られるため、今日のところはここまでにしておくことにした。
屯所は街の一角にある。かつては探偵事務所があったそうだが、さすがにこの町では生きづらいか。
「ただいま帰還し――」
「オースティン、避けて!」
視界が遮られる。顔一面に広がる粘着質な甘さは、まぎれもなくホイップクリームだった。
僕は当てられた生地を剥がし、三人の方を向く。思えば敵がいることも想定済みだったわけで、警戒を怠った自分に乾いた笑みを浮かべる。
「どういうことだ」
「い、いや、これは、その……」
「ほら、はっきり言いなさいよ。あんたがパイ投げの店見つけて買い込んで来たって」
頬にクリームをつけたコデックが、真っ白のボウエルをつつく。ブライはと言うと、なぜかパイをかぶって奥で伸びていた。僕はどうしていいのかわからず、ただため息をついて苦言の代わりとした。
「あの、なんか、ごめんな。パイ、食べるか?」
「ああ、頂くとするよ。その前に」
緩慢な動作ののち、それとなくブライの方を向く。それに応じて、ふたりも視線を動かした。
「ブライのやつ、パイを運んでたらいきなりずっこけて――」
こちらを向き直す直前、パイを持った左手を一気に振り抜く。速度をつけるのにはコツがいるが、それも先程の軌道である程度は掴めた。そして目論見通り、コデックの顔を彩るべくパイは飛翔した。
止まった空気の中で、コデックは笑い始めた。白いクリームが裂けて、透き通った黒い目と光沢を放つ歯が見える。
「やったな。ボウエル、次弾装填」
「アイ、マム」
僕はテーブルにあるパイを手に取ると、構えたコデックと対峙する。その奇妙に張り詰めた空気の中で、僕は全身から力が抜けていくのを感じた。立ち尽くしたまま、気が付くと僕は声をあげて笑っていた。
「オースが壊れた」
「変なこと言わない。でも、やっと笑ってくれた。作戦成功だ」
「だな」
そう言って笑う真っ白の二人に対し、僕は何も言えなかった。あるいはこれが、彼らの強さなのかもしれない。
演習を重ねる中で、彼らの確かな実力に驚かされた。コデックは、圧倒的な攻めを持ち味としている。どんな体勢からでも攻撃の引き出しを持っており、守勢に回ることがない。どれほど攻め込まれても、苦し紛れでない応手があるのだ。攻めで隙をカバーする技術は一級品と言える。一方のボウエルは、端的に表現するならペテン師だった。隙を偽装し、形勢を見誤らせる。天性の感覚で行っているようだが、高い技量と合わせて彼を恐ろしい難敵にしていた。まだ起きないブライはというと、完全な正統派だった。真っ向勝負をよしとする彼はどちらかと言えば受けに重きを置き、その一手の重さで圧をかけていく。実際のところ、キルヒと正面から渡り合ったと言い切れるのは彼だけだろう。実力は折り紙付きだ。
「ほらブライ、起きて。本命のミートパイの時間よ」
「兄貴、もう食べられませんぜ……」
「誰が兄貴よ」
「そいつはもうだめだ。コデック、顔拭いてあげな」
「お断り。起きたら自分でやるでしょ」
それが、これなのだ。これまで僕は、冷たくなければ強くあることはできないと思っていた。それが、こんな強さもあるのだ。彼らは友ではない。仮に敵対し、殺さねばならないのなら、ためらわずにその引き金を引くだろう。それでも、今は共に笑うのだ。
その在り方は、必要かもしれない。僕は苦笑を浮かべながら、クリームまみれの部屋を片付けることにした。
「ごめんな、巻き込んでしまって」
「ああ、問題ないよ。しかし」
派手にやったものだ。それは喉元で留めておくはずだった言葉だった。
「あ、いや、そういうわけでは」
「いい奴なんだな」
コデックがくすりと笑う。僕はどうしていいかわからず、ただ笑みを返すことにした。
作業を終え、ふたりは顔を洗った。ブライも起きて洗面台へ向かったが、そのまま寝てしまったらしい。
「あ、定時報告」
「そうだった。また定時まで時間があるが、まとめておこうか」
定時報告データはいつも僕とコデックで作る。ときどきボウエルもいるが、ブライは参加しない。重要な時を除いて、彼はそういったことに無関心だ。
「今日我々はこことここを制圧した。敵はどうだった?」
「技量は正規軍としては中の上と言ったところか。統率は取れていたから、分断するのに時間がかかった」
「オースは慎重派だな。ボウエルみたいだ。私は正面切ってぶち壊した」
「難知如陰という言葉がある。人は見えない敵を最も恐れる」
「あら、そうか? 私はその後の、動如雷霆の方が好きだな。インパクトはでかい方がうまくいくものよ」
こう考え方が異なっては、作戦立案などできるはずもない。だが、それで問題なかった。一騎当千ゆえの柱。もとより群れる必要などない。
「でも、それには登場までの隠れる時間が必要だな。よし、明日は折衷案にしよう」
僕は拍子抜けした。コデックが何を言っているのか、わからなかったのだ。僕の意思を汲んでいるのだろう。であれば僕は、応えねばならなかった。
「ああ、乗った。共同作戦といこうじゃないか」
「私より目立つ気? それは無理な話さ」
「それはどうかな」
自然と笑みがこぼれる。すると、洗い物を終えたボウエルが戻ってきた。
「何やら楽しそうじゃん。どうした?」
ふふん。コデックは顎をしゃくり、わざとらしく鼻を鳴らした。
「明日は私たちがペアだから、残りで相談しておいて」
「冗談じゃないよ、またブライと組むのか。あいつは確かに強いけど、でも単純すぎだ。風林火山を地で行く正統派は、搦手の俺には合わないよ」
「意外とピッタリなんじゃない? 明日はオースが陰で、私が雷。ブライが風林火山なら、あんたは何になる?」
饒舌になるコデックは、この四人に何を見ているのだろうか。あるいは彼女の求めているものは、別にあるのかもしれなかった。
「なら俺は、霧だな。偽ることは、より強い敵を倒す技だ」
「なるほど、君らしい」
「お墨付きとは嬉しいじゃないか。俺もオースと組みたかった。いい駒になるのに」
「そう言われると複雑だが、しかし四人での作戦は君に任せるほかないからね」
思えば、ボウエルと面と向かって話したことはほとんどなかった。これも彼女が取り持ってくれたのだろうか。
「おやおや、君たちいつの間に仲良くなったんだ? お姉さんは嬉しいぞ」
隠しておけないところが、また彼女らしかった。
それでさ。ボウエルはテーブルに肘をつき、身を乗り出す。
「巨人はいつ届くんだ?」
「総督代理が言うには、三日後だと。全く、ネメシスが悠々と空を飛べるというのにうちは陰気臭い潜水艦ときた」
「仕方ないよ。大義はあちらにある」
そう言うほかない。アドラスティアが壊そうとし、ネメシスがそれを防ぐ。財団の見本市という側面はあくまで表向きのもの。テンペルの目的が利益であると見せかけるために、互いに刃を向ける。
「思えば、俺たちがデビルズに行っていたかもしれないんだよな」
「ああ。そして私たちには自信があった。ネメシスもろとも、何もかもを破壊し尽くす自信が」
しかし。コデックは自嘲気味に続ける。
「私たちがまるで歯が立たなかった柱は、もう誰もいない」
「それだけ敵が強かったんだ。そして、ネメシスはさらなる力を得た」
ブランペイン。まだ幼さを残した柱は、何を見ていたのだろうか。
「なあボウエル、ブランと戦ったことはあるか?」
僕の問いに、ボウエルは表情を曇らせる。
「あの子は、鬼だ。俺の隙を、隠しても無駄だというように的確に突いてくる。攻めに転じようとしても、根元で封じられた」
「確かに、あんたの手には余るな。天使のように可愛いくせに、悪魔のように老獪で嫌らしい。私もあの時は、太刀打ちできなかった」
あの時は、と強調した言葉には、彼女の自信が窺い知れた。
柱が折れてから、兵は各々に過酷な修練を課してきた。アドラスティアに帰属意識までは持たぬものの、力を手にすることの意味を考えさせられたのだ。
「コデック、今僕とふたりでツィナーとグリグに勝てると思うか」
「ああ、もちろんよ。あのふたりのような心のつながりがなくとも、最善手を選び続けられる自信がある」
「頼もしいな。それでこそ柱だ」
通信が来る。僕は端末を取ると、音声をスピーカーに変えた。
――四柱、進捗はどうだ。
「問題ありません。送信したデータの通り、駐屯地や各要所についての調査は終わりました」
――それなら問題はない。貴様らを派遣したガリエス共和国は連邦の軍事の要と言っていい。ここを破壊すれば、サウスランドは崩壊へ近づくだろう。引き続き、破壊と情報収集を。
承知。四人を代表し、僕がそれを口にした。
「それじゃ、明日も早いし寝よっか」
「今更なんだが、僕が相部屋でもいいのか?」
コデックはあごに手を当て、思案顔を作る。
「気にしないよ。むしろ、気にするのか?」
「いや、それなら問題ない」
「君が絶世の美女であれば、衝動を抑えきれないこともあろうが」
ああ、そういうことか。それならば、実質的に彼女は男として扱える。そして彼女も、それを望んでいるかもしれなかった。
目を覚ましたのは夜が明ける前だった。それは僕にとって非常に都合がいい。作戦前に昨日感じた違和感を確かめねばならなかったからだ。僕はこっそりベッドを出て、用意もそこそこに街に出た。猶予は、二時間ほどだろうか。ボウエルなどは早起きであるほか、僕の細かい機微から隠し事を暴く可能性があるため危険であった。
とまれ僕は気配のした方へ向かう。裏路地に足を踏み入れ、異様な静寂の中を進んだ。その声は、背後から響いた。それは想定していたよりもよほど軽々しかった。
「よく来たな」
「お前は何者だ」
「
フードを目深にかぶった男は、腕を組んだまま壁にもたれかかっている。僕は銃を構え、その動向をうかがった。
「災禍よ、ガリエスを手にかけるか」
僕は視線を動かさず、その問いを黙殺する。相手はお構いなしといった様子で続けた。
「少年。お前は破壊によって何を見出す。ただその力に満足するか、あるいは自らを調停者とし傲慢な使命を果たすか」
繰り返される問いは、恐ろしいほど正確に僕の本質を穿っていた。
「知ったような口を」
振り払うように、照準を合わせる。男が動いたのは、その瞬間だった。姿勢を低くした瞬間に一発撃ったときには、既にもう一丁を僕に向けて構えていた。
「知っているのだ、その目を。俺が殺してきた奴らと同じだ。災禍よ、お前はこの世界に何を見る」
「定義され過ぎて行詰っている。人の意志が自由でない。そしてそれは、破壊により解消される」
男は笑った。その声は嘲るようでもあったが、どこかに肯定の成分を含んでいた。
「なるほど、ならば壊せ。その先にあるものをお前が目にする日まで」
もはや身動きすら取れぬ状態で、その言葉を聞いていた。運び手、とは何であろう。僕はそう言った疑念の前に、男の声色にどこか惹かれている自分にひとり閉口した。
男はくるりと向きを変え、深い路地に去っていく。その背中は、吸い込まれそうなほどに暗かった。
僕は我に返ると、その銃を下ろした。きっとあの男は、僕よりもはるかに強大な存在なのだろう。だが今は戻らねばならない。あまり走っても余計なトラブルを招くだけであり、警戒を強めて拠点へと向かった。
部屋に戻ると、コデックが寝ていた。その表情はうなされているようでもあった。彼女にも、心を染めるだけの過去があるのだろう。僕は作戦の開始まで少し仮眠をとることにした。
「おい」
目覚めると、頬をつつかれている。目の前に、コデックの顔があった。
「な、何だ」
「朝、外に出ていたろう。何をしていた?」
「早く起きすぎてね。近くを散歩していたのさ」
「ふうん。次から私も呼びな」
その目は乾いている。僕の目論見を、見抜いているのだろうか。
「総督から通信が入った。運び手に気をつけろ、だと。何でも、私たちでも単独では分が悪いそうだ」
「そういうことよ。コデック嬢、オースは起きたか」
入ってくるブライに対し、彼女は壁を蹴って飛びかかった。そのまま踵が頬にめり込み、通路を吹き飛んでいった。
「レディの部屋に勝手に入るなんて、見かけによらず野暮なんだな」
「レディはドロップキックとかしないの。オースには隣を許す癖に」
上階の惨状に、エプロン姿のボウエルがぼやく。コデックはその頭を両腕で抱えた。
「なんだボウ、妬いているのか?」
「な、何を」
「君にその気があれば、いつでも襲ってやるぞ」
「はいはい。ほら、朝食できてるから服着て部屋に集合」
「
ここに来て驚いたのは、ボウエルの家事スキルだった。聞けば男ばかりの傭兵団で、新兵だった彼はずっと家事を任されていたそうだ。しかしその小柄と美形である。不用意に扇情して困っただろう。海上拠点には烹炊員や清掃員の兵士もいるが、基本は誰がしてもいい。もっとも、家庭的な人間が柱になることなどないのだが。
「うわ、よくできてる。ジェラール式は懐かしいな」
「ああ、今日のは自信あるよ。召し上がれ」
その合図と同時に、僕は魚料理を口に含む。味覚は鈍いためよいものかはわからないが、ブライの表情を見るに美味なのだろう。
「こいつぁ天下一品ですぜ、旦那」
「どうも。それで、オース。今朝、接敵したね」
ばれているのか。僕は自身の危機管理の甘さに閉口しながら、首を縦に振った。
「二度寝する前にちゃんと報告してよね」
「寝てたじゃないか。僕に起こせというのか」
「コデック嬢、ソースを取ってくりゃんせ」
「はいよ。まあいいわ。で、誰と当たったの」
運び手。低く口にした僕の言葉は、三人のフォークを静止させた。
「もう、か」
「ティシポネの計画も迫り、それを追ってネメシスまで来るというのに、厄介なことね」
「しかし、考えようによればネメシスは利用できる。柱に求められるのは、アドラスティアの破壊の体現だ。ネメシスがほかの脅威を防いでくれるならば、それでもよい。もうすこし生身での工作が長引きそうだな」
四人は一様に頷く。そうして食器を空にすると、散開する。朝食後は全員で作業するのが決まりになっていた。僕は寝具の片づけだが、ついでに荷物をまとめておいてやるとブライが物を失くさずに済む。
そして、僕とコデックは屋上にのぼった。よそのビルから出ることで、多少なりとも探知を防ぐねらいがあるのだ。もっとも、つけられたところで柱が四人もいるのだ。心配はないだろう。
コデックが手を差し出す。僕はそれを握る。その目に隠しきれない攻撃性を見た僕は、苦笑を隠すことができなかった。
「コディ、今日は何して遊ぶ?」
「そうね、私ジェットコースターに乗りたい」
こうもわかりやすい意志表示があるだろうか。僕は頷くほかない。
「わかった、第十一管区にいい場所がある」
「じゃ、今すぐ行きましょ」
ペイロードの小さな薄着に限界まで武装したふたりは、その頬に期待を張り付ける。柱である以上、もはや衝動を抑えることはないのだろう。
動くこと雷霆の如し。僕は荒涼たる街路に、テーマパークの楽しみを求めた。
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