夢階段

@higurashi40

第1話




不思議な夢を見たので、ここに書き留めておく。







気づくと、自分は、長い長い階段を上っていた。


階段は白くて、丸くて、長かった。


自分は、なんの考えもなしに、下を向いて歩いていた。




どのくらい歩いたろうか。一つ目の踊り場に出た。


そこには、2人の男女がいた。


2人の男女は笑いながら、何かを言っていた。


男女が何を言っていたのかは分からなかったが、とにかく、自分が死んだということを、何故か察した。


ーーそうか、死んだのか。


わけもなく悲しい気持ちになって、自分は少しだけ泣いた。


自分が泣いている間も、男女は何かを喋っていた。


自分は、何も言わずに、その踊り場を出た。




しばらく、階段を上って行く。


……………………………


気づくと、周りに3人の子供がいた。


男の子が1人、女の子が1人、後は……覚えていない。


その子たちはしきりに笑いながら、自分の周りをグルグルと回り、騒いでいる。


ーー何をそんなに騒いでいるんだい?


自分は、聞いて見た。


しかし、子供たちは無視して、自分の周りを回っていた。


聞こえなかったのか、ともう一度聞き直してみる。


しかし、ずっと騒いでいる。


何度も、何度も、聞いて見たが、結果は同じだった。


自分はもう諦めて、下を向いた。


すると、子供たちはもう消えていた。




しばらくして、2つ目の踊り場が見えて来た。


そこには、1人の少女がいた。


三つ編みのよく似合う、綺麗で上品げな少女だった。

なんとなく懐かしい気になった。


しかし、少女も自分も、何も話さないでいた。


少女は少しだけ嬉しそうだった。


自分はそのまま次の階段へ向かった。




しばらく階段を上って、しばらくすると、下に何か黒い塊があるのが見えた。


それが何かは分からなかった。


ただ、その黒い塊は、集まって、集まって、集まって、1つの大きな人影になっていった。


気持ちが悪くなって、自分は走って逃げた。




とても長い距離を走った気がした。

3つ目の踊り場が見えた。


そこには、高校生くらいの少女がいた。


ーーさっきの少女だな


なんとなく分かった。


しかし、少女はさっきとは異なって、しきりに口をパクパクさせながら、話しかけていた。


聞こえなかったので、自分はすぐに諦めることにした。


あまり、聞こうとも思わなかった。


ーー……って……ーー


踊り場を出ようとしたその瞬間、声が聞こえた。


自分は、無視して行った。




しばらく歩いていると、ふと後ろに気配を感じたので振り返った。


すると、後ろから老婆が自分に続いて来ていた。


なんとなく、さっきの少女だな、と分かった。


そう分かった途端、なんだか気味が悪くなって、走った。


しばらく走っても、老婆との距離は一向に縮まらなかった。


自分はますます気味が悪くなって、振り返りながら、「来るな来るな…」といいながら、逃げた。


ーー来るな来るな、来るな来るな


そう言って振り返ってみると、もう老婆はいなくなっていた。




次に自分は4つ目の踊り場に出た。


誰もいなかった。


誰かいるような気がしたが、やはり誰もいなかった。


自分は、階段に向かった。




しばらく階段を上っていた。


しかし、気づくとそこは階段ではなく、霧がかった野原だった。


疑問には思わなかった。


そして、ふと周りを見ると、たくさんの軍人がいた。


疑問には思わなかった。


なんとなく、この人たちは幽霊だな、と分かった。


しかし、頼もしかった。


怖くなかった。


しばらくそのまま歩いた。


気づくと、全員血を流して倒れていた。


今度は怖くなって、声もあげずに走った。


野原は階段に戻っていた。




五つ目の踊り場に来た。


今度も誰もいなかった。


ただ、そこにはたくさんの墓標があった。


踊り場は、霧がかっていて、広かった。


寂しくてたまらなくなった。


だから、次の階段に進んだ。




階段は短かった。




すぐに六つ目の踊り場が見えた。


そこには、1人の男が佇んでいた。


人がいたのが嬉しかったが、その後急に腹が立って来て、男を殴った。


殴ると、怒りは収まって、男も満足したように、階段を降りていった。


自分も下ってみようか、と思ったが、なんだか怖くて、やめておいた。


次に進んだ。




階段を上っていると、後ろから能面を被った少女が上って来た。


さっきの少女だな、と思った。


なんとなく分かった。


仕方がないので、しばらく一緒に階段を上っていた。


すると、いつのまにか少女はいなくなっていた。


自分は止まらずに進んだ。




7つ目の踊り場に出た。


幼い男の子がいた。


2歳くらいかな、と思った。


すると、男の子は2歳とは思えないほどハッキリと大人びた声で「何してるの?」と言われた。


その後に、おじいちゃん、という言葉が続いているような気がして、自分の腕を見た。


見ていると、自分の腕はみるみるうちにシワだらけになっていった。


ーーなるほど、おじいちゃんだな。


そう思った。


自分は、何も言わずに、男の子の頭を撫でると、そのまま、行った。




今度の階段は、とても長かった。


今まで上ってきたより、ずっとずっと長い段数を上った。


自分は一度も止まらずに、上った。



どのくらい上ったろう、後ろから人が来た。


けれども、自分は振り返らずに、黙々と上った。


すると、後ろから、あの能面の少女が、自分を走って追い越して行った。


そして、自分より十段ほど上に上ったところで、その少女は走るのを止めた。


しばらくして、その少女は、あの老婆に戻っていた。


自分は、あの老婆が、自分を待ち伏せしているのではないか、と身構えた。


しかし、老婆にそんな様子はなく、ただひたすらブツブツと呟きながら、歩いていた。


老婆が、待ち伏せしていないと分かると、急に親近感が湧いた。


ーーあなたはだれ?


ーーいっしょにいかないかい?


そんな言葉をかけても、老婆は足を止めることはなかった。


ただひたすらブツブツと何かを呟いていた。


ーー来るな来るな……


そう言っているような気がした。


そう言っているような気がすると、老婆はそう言っていた。


自分は恥ずかしくなって、足を止めた。


すると、最後の踊り場が見えて来た。




最後の踊り場には、扉があった。


老婆は、その扉を開けて、外に出て行ってしまった。


普通の扉だった。


自分は、しばらく扉を開けられないでいた。


しかしやはり気になって、自分は扉を開けた。


自分は外に出た。





ーーそこは学校の屋上だった。


目の前には1人の少女がいた。


セーラー服と三つ編みのよく似合う、綺麗な少女だった。


少女は嬉しそうだった。


さっきの老婆だな、となんとなく分かった。


気づくと、自分の体も、元に戻っていた。


その時、


ーーああ、自分は子供たちと会った時は子供で、

中学生と会った時は中学生で、

軍人と会った時は軍人で、

男と会った時は大人で、

今は高校生なのだ、と初めて分かった。


そう分かった途端、堪らなくなって、自分は目の前にいる少女に向かって


「好きだ」


と言った。



しばらくして、少女は綺麗な顔で笑った。


ーー私も……






ここで目が覚めた。




しばらく僕は、物思いに耽っていたが、すぐにこの夢を忘れてしまっていた。


この日が、僕が2歳の時に死んだ、おじいちゃんの命日だと分かったのは、ずっと後であった。




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