第6話
「で、結局どうなったのさ」
モリコウの病室ついたのは七時過ぎで、いつもよりもずっと早い時間だった。倉沢との試合の後、すぐに帰るように二継に言われたためだ。ベッドの上で退屈そうに雑誌を読むモリコウは、早藤に挨拶をするとすぐに本題を切り出した。
「俺の負けだよ。倉沢は強かった」
あの後、倉沢は五本すべてのスパイクを決めて、早藤に勝利した。完敗といっていい内容だ。
「だっせ。あんだけ息巻いて一本も止められなかったのかよ」
「うるせえ」
悪態を返すが、早藤の内心はどこかすっきりとしていた。負けた悔しさもあるが、それよりも目指す目標が出来たためだと思う。
「それで、お前大会には出ないのかよ」
「二継さんが言うには、『役に立ちそうなら、迷わず出すよ』だってさ。倉沢はなんにも言ってなかった」
大会出場を掛けた試合のはずだったが、倉沢にとってはどうでもよかったようだ。二継は倉沢のシンプルさを強さの秘訣の様に言っていたが、コートの外でも倉沢のシンプルさは変わらないらしい。
「それじゃあ、万が一お前が勝ってても、クラさんレギュラー外れないってこと? なんだよそれ、ただの茶番じゃん」
「それは、どうだったのかな」
あの試合のようなものに掛ける二継の気合は相当だった。スパイクが決まらずに悪態をつく様など、あの時まで早藤は見たことがなかった。 そして倉沢の気合も、二継のそれに比肩し得るものだ。まっすぐボールを付け狙う視線は、日々の練習のものとは質が違う。
「二継さんも倉沢も、相当気合入ってた」
「はあ。そりゃあなんかあったのかもね。あの二人、仲良いようで仲悪いから」
モリコウはしたり顔でそう言った。早藤には二継と倉沢の仲が悪いとは思えない。あの二人は常にコンビでいるからか、一心同体とさえ思える雰囲気があるのだ
「お前が知ってるからは分からないけどね、二継さんは元々ライトだったんだよ。それがクラさんがライトやるようになってから、ポジションを変えざるを得なくなったんだ。それでセッターをやるってのはぶっ飛んだな発想だと思う。けど、内心面白くない気持ちはあるだろうな」
「いや、それはないと思う」
モリコウの推理を、早藤はすぐさま否定した。
「そんな地点は、もうとっくに通り過ぎてるよ。あの二人」
話し終えると、モリコウの不満を買うような言い方をしたことに気がついた。だが、呆けたように早藤を見るモリコウに、そんな感情は見受けられなかった。
「なんかお前、変わった?」
「かもな」
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