第18話_それぞれの場所で3


「いらっしゃい! ……そこのお兄さんたち! ここで食べていかない? うちの串焼きおいしいよ!」

わたしは前を過ぎる冒険者の人たちに声を掛ける。

 ここは冒険者の国[フエンテ王国]の王都、通称[はじまりの街]。街の名前にあやかってここを起点として冒険をするという人もいるとかいないとか。そんな街の中心部を通る東西に延びる街道にわたしはいた。何をしているかと言えば、父親が出している串焼き屋の屋台のお手伝いをしているのだった。この串焼きは「渡り人」の人が教えてくれたレシピを基に作っている。もとは焼き鳥というものを作りたかったのだそうだ。けれど、なかなかいい食材がみつからず、あちこち旅して見つけたのが[砂とかげ]だったのだそう。この[砂とかげ]の串焼きはこの街の人にも受け入れられ、街の新しい料理として好評を博していた。父はそんな串焼きの味を伝えるべく毎日ここで焼いていた。レシピをくれた「渡り人」のその人は人魔戦争の中で帰らぬ人となってしまったけれど。

 冒険者の集団はそのまま通り過ぎていってしまう。だが、今の時間はどの店にとっても書き入れ時。次々と帰ってくる冒険者たちに狙いをつけて誘引していく。そして、ひとりの男性冒険者の姿が目に入った。

「やっほーい」

わたしは大きく手を振った。向こうも気づいて手を振り返してくれる。

「よう、リリア。今日も変わらず元気なもんだな」

彼は近くまで来るとそう言った。

「まあね。いっぱいお客さん来てくれると嬉しいからね。さて、いつもの人はいつものでいいのかな?」

わたしはそう言って注文を確認しつつ、彼の特等席とでもいうべきいつもの席に案内する。

「はいどうぞ」

わたしはエールを彼の前に置いた。

「おお、ありがとな」

彼はそう言ってグラスをあおった。

「ふふ。さて、今日は何を狩ってきたのかな」

わたしはいつも通りに尋ねた。

「今日か? 全然ダメだ。不景気だよ、不景気。こないだのあれのせいだな。まったく狩れねえ。周りに聞いてみてもどこもだいたい同じらしい」

彼はそう言って苦笑する。

「ふうん、そうなんだ。冒険者さんも大変ね」

わたしは相槌を打つ。

「そういえば、こないだのあれって、討伐されたのよね。それにしては、誰が討伐したとかいう話、聞かないわね」

わたしは思ったことを口にする。

「……国が公表していないし、まだ、ギルドも報奨金を出していないしな。冒険者の中ではいくつか憶測が飛び交っているよ」

彼は少し気まずそうな顔をして言った。なにかあるのだろうか。気になるけれど、わたしはあまり踏み込まないことにした。

「へえ、そうなの。……あ、少し向こう手伝ってくるね。もう少しで焼けると思うから、またすぐ持ってくるね」

ちょうどお客さんがきたのでそちらへ向かう。呼び込み? うちは人気店なのだ。誘引行為は基本必要ない。勝手に席が埋まる。どこかにお店を持ってもいいと思うのだけど、屋台はお客さんとの近さや手軽さがいいのだそう。そういうものなのかな。

 お手伝いをしつつ、他の冒険者たちも交ってお話しをしながらも夜は更けていく。いつもと変わらない平穏な日々。こんな日がずっと続けばいいな、なんてことを思う。……柄じゃないわね。ついこの間にトラブルがあったせいかな。少し感傷に浸ってしまった。お客さんが帰るようだ。わたしは会計をする。

「……そんじゃ。またな、リリア」

彼はそう言って席を立った。そんな彼にわたしは声を掛ける。

「またきてね、ケルビン」

笑顔で交わすいつも通りのやりとり。あと何回できるのかな。わたしはそんなことを思った。小さくなる彼の背を見送り、いつも通りの一日が過ぎていった。

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平穏にトラブルはいらないの! 天下原なばら @nabara

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