第14話_鋼竜2

 やはりアカネさんはすごい人でした。「渡り人」の方々は[勇者]や[賢者]を始めとした特別な職業に適性があって、その能力ゆえに名をせていくというのが一般的といわれていました。けれど、アカネさんは[武闘家]という、珍しいといえばそうですが、[勇者]などと比べれば珍しさはない普通の職業でした。ここ一週間一緒にいて駆け出しの域を優に超えた実力を持っていることには気づいてはいましたが、鋼竜を相手に対等に立ち回れるとは思いもしませんでした。それこそ、広く名の知れた勇者であっても二の足を踏んでしまうでしょう相手にです。

 だからこそ疑問に思います。どうしてわたしなんかを助けに来てくれたのでしょう。わたしが勝手にパーティを名乗って、振り回して、巻き込んで、そして――放り出した。アカネさんにメリットなんてなかったはずなのに。むしろ、わたしがいない方がアカネさんにとって楽で、メリットが大きいはずなのに。「おいしい獲物だから」なんて絶対嘘に決まっています。それなら山に行くでしょうし、なによりリスクに見合っていません。わたしの知るアカネさんだけでは合理的な理由が見つかりません。だとすると――


――優しい人だから


わたしがつけこんだアカネさんが持っていた大きなスキ。わたしが夢を叶えようと思って利用していたはずの甘い人。でも、こんなに苦しくなるのならやっぱり夢なんか見るんじゃありませんでした。

「グアァァァァ!!!」

[鋼竜]がひときわ苦しそうな声を上げました。その瞳はすでに何も映しておらず、手当り次第に破壊を繰り返しています。アカネさんは大きく距離をとり機をうかがっていますが、あの状態では近づくことすら危険です。わたしは……。わたしができることは……。


――治癒? 


アカネさんは怪我なんてしていません。


――防御力上昇の支援?


わたしの魔法では弱すぎて、あの攻撃には耐えられません。他には? 他にできることは?


――何もない?


こんなときでもアカネさんの役に立てないのですか? アカネさんはパーティだって言ってくれたのに。

「……ミツキ様」

ロロ? ……そうか。わたしは[召喚術師]なんでしたね。わたしはひとりじゃないんですよね。

「ロロ。アカネさんのサポートをお願いしていいかな」

わたしはロロに訊いてみます。

「……もちろんです。見事、お役に立ってみせましょう」

ロロはそういうとアカネさんのいる戦場の方へ飛んで行きました。

「ふふっ。頼もしい相棒ね。……お願いね、ロロ、アカネさん」

そう呟いて、わたしは手元へ視線を戻しました。そこには息も絶え絶えといった水の精霊が横たわっています。せめてアカネさんが[鋼竜]を倒してくれるまでは魔力が保ってほしいですが。

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