第13話_鋼竜1
生い茂る木々の中から現れたのは高さ三メートルほどの銀色の「わに」っぽいもの。ダマスカス鋼の木目模様というのは暗いということもあって確認できないが、おそらくこれが鋼竜だろう。大きさからして明らかに森に棲んでいそうにないし。ちなみに、
脱線した思考を切り換えて、相手のステータスを見る。名前は[鋼竜]。レベルは30。体力は数値不明でゲージは満タン。って騎士団は一体なにをやってたの。もうちょっと削っておいてくれてもよかったんじゃない。……って、あれ、こいつ。
「なんで?」
ミツキが呆然と呟いた。顔だけそちらに向けると、周りの騎士の人たちも同様にこの世の終わりとばかりの顔をしていた。今ならわたしもなんとなく理解できる。
「なんでって、あいつ使役魔物みたいだからね。使役者の指示で真っ直ぐこっちに来たんじゃない?」
わたしはミツキの疑問に想像で答えた。ステータス画面にロロと同じ[使役]の表示があったのだ。
「え? 使役、魔物、なの……? そんな……。そんなこと……」
……あるわけない、か。そりゃそうだ。わたしだって見たときは目を疑った。[召喚術師]にとって使役魔物は使役者自身の一部と言っても過言ではない、らしい。わたしは[召喚術師]じゃないからよく理解できているわけではないけれど、ミツキとロロを見ていればその関係は特別なのだとわかる。そして、ミツキは現役の[召喚術師]だ。彼女からすればとても目の前の光景は受け入れられるものではないだろう。
「さて」
わたしは前へ出た。
「え? ダ、ダメ! アカネさんだけでも――」
「――こんなおいしい獲物を前にして
ミツキの言葉を遮って言った。まだミツキが何か言っている気がするが、わたしは目の前のドラゴンに集中する。聞いた限りでは相手はレイド相当だ。それをソロで狩れるのかという懸念もあった。だって世界が違うのだから。数値から言って、今のわたしのステータスはゲームの時の十分の一程度だろう。スキルだって多くを失った。
今まではずっとソロでやってきた。幾度となくパーティだったら、と思わされたこともあった。それでも、ソロだった。なんとかなったし、なんとかしてきた。もちろん、できないことも多かった。でも、できるようになったことも多かった。できるようになったことの多くはまた失った。でも、幾つかは残っていた。
――今度こそ失くさない
今あるものを守るため。残ったものだけじゃなくて、ここで手に入れたものだって、手に入りそうなものだってあるのだから。
拳を握る手に力が入るのを感じた。
「スキル[威圧]」
もちろん失敗。でも、一瞬こちらに意識が向いた。
「スキル[縮地]」
[鋼竜]の側面に移動して、回し蹴りをいれる。
「スキル[透撃]」
返ってくる手応えは金属塊の固い感触と、ダメージが通ったときのスキル特有のエフェクト。
「グギャアアアアア!!!」
一拍遅れて響く[鋼竜]の絶叫。確かな手応えに二発、三発と拳をいれ、一旦大きく距離をとった――と同時、[鋼竜]の長い尾がさっきまでいた場所に叩きつけられ、地面が大きく抉れた。
「五パーセント、か。……ていうか、エグいわね」
今のでゲージの五パーセントを削ることができた。スキル[透撃]は敵単体に対する通常攻撃を防御無視の貫通攻撃にするというもの。完全に自身のSTR値に依存することになるので、通常であれば別のスキルを使った方がダメージは大きくなる。こういうVIT値の大きい、いわゆる「硬い」相手の場合にのみこのスキルが活きてくる。これは[武闘家]にのみ許された
レイド相当、ということから手強いと思ってはいたけれど、防御特化に多い「体力総数は少ない」タイプではないかと予想していた。そしてこいつもおよそそのタイプのようだ。しかしながら、レベルかレイドランクか、相手の攻撃がえげつない。今のわたしでは食らえばひとたまりもないだろう。……もとからダメージをもらってやる気は微塵もなかったが。
「スキル[縮地]」
今度は相手の背中の上。殴ったら即離脱。相手の動きを見ながら再び巨体の死角に潜り込む。潰されそうになる前に避難する。何度も何度も近づいては離れを繰り返す。いわゆるヒット・アンド・ラン戦術。一撃で即死するかもしれないことを思えばこれが一番危険がないだろう。少しずつ、でも順調にHPゲージを削っていく。そして、四分の一を過ぎたあたりで、多少の行動の変化に気付いた。攻撃に対象がないのだ。ああ、えっと、わたしが
長引かせて得するのはあちらだけ。早めに経験値に換えてあげたいところだけど、ほんとどうしたものか。
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