第8.5話_戦闘

 すごい。それがわたし――ミツキ――の感想のすべてでした。わたしは普通の冒険者の力量をよくは知らないので、なんともはっきりと言うことができないのですが、アカネさんの実力は駆け出しの域を十分に超えているのではないでしょうか。そう思えるほどに、一方的に魔物を倒しているのでした。「倒す」というよりも、アカネさんがいつも言うように「狩る」と表現する方がしっくりきます。戦闘にすらならなってないのですから。わたしの防御力上昇の支援の魔法、いらないですよね……。

 あ、えっと。わたしたち――わたしとロロとアカネさん――は今、[はじまりの街]の外、[泉の森]の外縁部に来ています。ここにはよく低級の魔物が現れますが、普段は討伐依頼は出されません。ある程度増えてきて実害が出そうになると、ギルドから大規模な討伐依頼が出されます。低級魔物は繁殖力が強いので結果的にはこまめに依頼が出されていることにはなります。討伐をしないと魔物が森に溢れてしまい、泉の精霊に害が及ぶ恐れがあるとして、森の魔物討伐には国からも報酬が出されています。というより、実際には国が冒険者ギルドを通じて依頼を出しているのですが。まあ、それは置いておくとしましょう。今回は依頼ではなく、素材の採集を目的として[森ウサギ]の討伐をしに来ています。

 [森ウサギ]は[砂ヘビ]、[砂トカゲ]と並ぶ国民の食卓に欠かせない一般的な食材です。これらはすべて食用兼素材として常に一定の需要があって――えっ? へびもとかげも食べるのか、ですか? はい、その辺りはこの国の地理的な事情が関係しています。

 この国は何も無い荒野からはじまりました。そんな荒野に精霊の力により泉ができ、人が住むようになりました。しかし、作物の育たない土地を改良するのにも時間が掛かりますし、森が出来るにも年月を要します。つまり、安定して食べられるものがなかったのです。しかしながら、こんな厳しい環境でも生きられる魔物はいました。多くは中級から上級魔物でしたが、いくらか低級魔物もいました。その低級魔物をなんとか食材として利用できないかと工夫した結果、今でも食卓に残る[砂ヘビ]と[砂トカゲ]です。道具の素材としても利用できるというのもひとつの理由ですね。[森ウサギ]は木々が育つようになってから持ち込まれたものです。もちろん、食材兼素材としてです。

 そんな経緯を持つ食材……もとい魔物たちですが、やはり魔物は魔物です。凶暴性があります。駆け出しの冒険者が狩れる程度とはいえやはり常に死の危険があります。ある程度、戦い方が身に付いていないと「狩る」なんていうほどあっさりとはいかない、というのが一般の認識なのですが、アカネさんは見事に「狩って」いますね。わたしの出番がことごとく潰されます。だって、怪我とかしないんですから。緊張感がどこかに行ってしまいそうです。


――三時方向に森ウサギが二体います


索敵をしているロロがわたしたちに警戒するように伝えてきました。ロロの声でどうにか緊張感を引き留めることができました。

 ロロは[プルマ・サビア]という魔物で、「森の賢者」の二つ名を持つ知性が特に高いレア種です。魔法を使うことに長けていて、ロロも将来的にはかなり強力な魔術師としての活躍が期待できます。生息域は南にそびえる山脈の向こう側にある[鎮守の森]で、そこは[天空都市]に続く階段の入り口に相当する深い森です。さて、なぜわたしがそんなロロと契約に成功しているかといえば、卵を商人から買ったのでした。その方は魔物の卵に興味がなかったらしく、また何の卵か知らなかったらしかったことなど、幸運が重なり、その価値に見合わないほど安く譲っていただくことができたのでした! その人も卵が売れたことがうれしかったようで喜んでいただけましたし、良いお取引ができたのではないでしょうか。そんな経緯がありまして、卵の状態で契約を結び、今に至ります。


 ロロの案内で移動していくと、五十メートルほど先、少し開けたその場所に森ウサギが二体いました。茂みに隠れるようにして姿勢を低く保ちさらに移動します。あと二十メートル程という位置まで近づいたとき、アカネさんが止まりました。アカネさんの射程に入ったようでした。アカネさんの職業は[武闘家]。超がつくほどの近接型なんですけど、ばっちり射程内です。少し遠い気がしますが、あとは機をうかがうだけです。既に何度も見たアカネさんの狩り。[森ウサギ]の注意が遠くに向いた――その瞬間、アカネさんは飛び出しました。わたしが目で追えたのはアカネさんが茂みを飛び出すところまで。次の瞬間には二十メートル先にいたはずの一匹の[森ウサギ]がさらに向こうにある木に叩きつけられていて、もう一匹が地に伏すところでした。……本当になにをしたのでしょうか。

 そんなこんなで、暗くなる前に帰路につくわたしたち。今日の成果は四十一匹。ひとり当たり四千百プラタの稼ぎとなりました。そして案の定、冒険者ギルドでは換金するところを多くの冒険者に驚愕の眼差しで見られたのでした。

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