第8話_うさぎ狩り

 わたしはミツキとミツキの使役魔物のふくろう、ロロと共に森へ来ていた。周囲を見渡しても人の姿は見当たらない。草木のせいで視界が悪いというのもあるけど、森に来てもあまり稼げないというのが一番の理由になる。定期的に出される規模の大きい討伐依頼とかでもないと稼げない。森へ来るのは本当に駆け出しか、あるいは怪我や引退などでブランクのある人たちがくるくらいか。魔物退治というより、動物狩りの扱いのように思う。そのため、体をこの世界に慣らさせるにはちょうどいいウォーミングアップになるだろう、などと考えていた。しかしながら、正直に言って、物足りない。まあ、死んだら終わりだし、焦って一足飛びに行って危ない目に遭うよりはまし、と言い聞かせる。

 そんなことを考えつつも順調にうさぎを狩っていた。だいたい十分に一匹くらいのペース。数がそこまで多くないのか、探すのに時間が掛かってしまう。本当にロロの索敵がなかったら、一匹も狩れないなんてこともありえたかもしれない。それくらい稼ぎにくいのがこの森だった。ちなみに、うさぎを狩ってもお金は落ちないし、アイテムも落ちない。もらえるのは経験値と素材だけ。うーん。なんかいろいろとちぐはぐな感じがするのがこの世界に対するわたしの印象。

 ふと、メニューコマンドを開き時間を確認する。そろそろ狩りを始めてから二時間半、十二時になるといった頃だった。なんで、九時半とか遅い開始にしたのかって? 偏にミツキのせい。まず、ミツキに会った時が、七時。そのあと、何のクエストを受けようか相談しようとして、ギルドの混雑に飲まれた。避難のために離れて待つこと一時間余り。再びギルドに行ったその時が八時半過ぎ。森の狩場に移動してようやく本格的に狩り始めたのが九時半頃だったということ。予定なら荒野の砂地で魔物狩りして、それなりの稼ぎになっていたはずなのに……。

 実をいうと、ここまで狩ってきた白いうさぎたちはだいたいが一匹でいたため、掛けている時間に対していまいち数が伸びていなかった。また、最初は慣れない狩りで逃げられたり、連携がうまく取れなかったなどしていたということもある。しかし、後から聞いた話、これでも十分な成果なのだとか。一匹を倒すのに掛ける労力があまりに少ないことと、ロロという優秀な索敵があって十分で一匹というむしろかなり効率のいい狩りができていたらしい。……納得がいかない。


 閑話休題。


 狩ったうさぎが八を数え、そろそろお昼休憩にしようか、なんてことを思いはじめた頃、ミツキが――正確にはロロが――それを見つけた。


――あっちに森ウサギがいるって


 ミツキの言葉で視線をそちらに向ける。五十メートルほど先に大きく開けた場所があり、そこに白いうさぎが複数いるのが見えた。……絶対にすべて狩らなくては。


***


 うさぎたちあいつらは逃げるので慎重に近づかなくてはいけない。茂みに隠れるようにしてゆっくりと進む。開けた空間の端に来た。うさぎまでの距離は十メートルというところか。回り込めばまだ近くまで寄れそうだったが、間に何もないなら十分にわたしの射程内だった。機を窺い待つこと少し、うさぎが何かに気を取られて明後日の方を向いた――瞬間、わたしは飛び出した。スキル[縮地]を使う。十メートル余りの距離を一瞬で詰め、そのままの勢いで手前のうさぎの首を手刀で叩き折る。と同時にスキル[威圧]で他のうさぎの動きを封じた。これは相手を恐慌状態に陥れるスキルだ。一言で説明するなら対象に行動阻害のデバフを掛けるということになる。ゲームの時はレベル差が大きいほど成功確率が上がるものだった。つまり、レベル「1」のわたしではスキルは成功しないことになる。しかし、リアルになったこの世界ではレベルの他にもパラメータが存在するようで、レベル「1」のわたしでもうさぎを恐慌状態に陥れることができた。動けなくなった四匹のうさぎの首をさくさくとへし折っていく。このうさぎも魔物だ。仕留めてしまえば素材扱いになる。なので、アイテムボックスに放り込めた。十匹余りのうさぎを持ち歩くことを思えばアイテムボックスの恩恵は計り知れない。そんなことを考えていると、ピコン、と音が聞こえた。視線をあげると、視界の端にウィンドウが出ていることに気付いた。表示はレベルアップのお知らせ。レベルは「2」になった。

 狩ったついでに、そこでお昼にすることにした。その休憩の間にメニューコマンドでパーティメンバーの状態を確認するとミツキのレベルは「1」のままだった。経験値の配分のせいだと考えてレベルアップのことは黙っておくことにした。

 ちなみに、その日は十六時まで狩りをして三十八匹を納入して大層驚かれた。「普通は一日かけて五匹狩るのがやっとで、十匹狩れたらアストレラ様のご計らい」という話もこの時に聞かされたのだった。

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