第7話_パーティ

 わたしは窓から差し込むの光で目を覚ました。カーテンは厚手なのだがすこし隙間が出来ていたようでそこから光が差し込んできていた。目覚めは悪くなかった。適当に身支度を整えて部屋を出る。荷物はすべてアイテムボックスの中だが、忘れ物が無いかは一応確認した。一階に降り、他の利用客に交じって朝食を摂った。ギルドで何の依頼を受けようか、魔物討伐がいいかな、なんてことを考えつつ宿を出ると、そこに知った顔があった。この世界で知った顔なんてそういるわけがない。そう、ミツキがいた。

「アカネさん。一緒に依頼を受けましょう」

開口一番そう言った後、まばゆい笑顔で言葉を継いだ。


――パーティ結成です!


***


 ミツキのパーティ宣言の後、わたしたちは話し合いをした。その結果、難易度の低いうさぎ狩りをすることに決めた。うさぎこと[森ウサギ]は討伐に対する報酬はないけれど、素材としての価値があるのでひとりあたり五匹狩れれば宿代一泊分になる計算だ。ただ、討伐自体は難しくはないけれど、探すのが大変な上、逃げ足が速いので多くは狩れないという情報をもらった。まあ、今回は稼ぐというよりもお互いの実力を知り、連携を図るのが目的なので依頼失敗のリスクのないものを選んだに過ぎない。

「さて、あんたはなにができるの」

わたしは街の西側に位置する森に向かう道中そう訊いた。見た目からして、単純な物理的な攻撃力は期待できないだろうと判断した。ミツキはもちろん、ロロも。魔法攻撃力があればいいのだけど、そもそも主人のミツキが戦闘向きではないため、大した戦闘力はないだろうと思っていた。

「治癒が得意です」

うん。知ってた。ていうか、初めて会ったときから言ってたよね。

「そう。助かるわ。ロロは?」

わたしは軽く流し、再び問う。再びミツキが答える。

「索敵が得意です」

予想通り戦闘向きではなかった。けれど、索敵ができるというのは正直なところありがたい。奇襲に備えて警戒しなくてよいぶん、戦闘に集中できるのだから。そしてもうひとつ気になっていたことを尋ねた。

「あんた治癒ができるって言ってたから[聖術師]だと思ってたんだけど、違うじゃない。魔法の適性か何か?」

そう。ミツキは再三、治癒ができると言っていた。普通、何かができると聞いて真っ先に思い浮かべるのは職業だ。そして、治癒ができる職業といえば[聖術師]。この職業は基本的に回復と戦闘補助を行う魔法職で、怪我が付き物の冒険者業では引っ張りだこな職業だ。特に強敵と戦うときや長距離の移動など、怪我が想定される場合などにはとても重宝される。復活ができるゲームではそこまででもないだろうけど、リアルに生命を懸けているのだから必ずと言っていいほど連れていきたいと思うのが人のさがだろう。戦闘に不慣れな駆け出しが多いこの街でも[聖術師]の需要は大きい。また、[聖術師]の戦闘補助の恩恵も大きい。[聖術師]のスキルには防御力上昇や被ダメージ軽減などがあり、長期戦になればなるほどこの恩恵は大きく感じられるだろう。回復用のポーションで代用できるとはいえ、駆け出しの冒険者からみてもその魅力は大きいと思う。

 職業が[聖術師]でないミツキがフリーなのは半分くらいは納得できる。職業のレベルが上がればその補正も大きくなり将来的に見れば魔法で代替するよりは職業によるスキルで治癒する方が効果が大きくなりやすい、という判断ができるからだ。今の付き合いがそのままずっと続くと考えると、ここでの仲間選びは重要といえる。しかし、だからと言ってただでさえ不足しがちな回復役をそんな理由で放置するだろうか。

 まだ何か理由がある。わたしはそう結論を出した。とはいえ、特に訊き出す必要はないとも思っていた。なにか不都合があればそこでソロに戻ればいい、そんなふうに軽く考えていたからだ。

「はい。そうですよ。わたしは光魔法の適性があって、[メディック]っていう治癒魔法が使えるんです」

ミツキの言葉で思考から引き戻される。光魔法か。また珍しいものを、と思うが人口に対して五パーセントは常にいるのだ。この街の人口が何人かは知らないが一万人いると仮定すれば五百人はいる計算だ。そのうちの一人がミツキだったにすぎない。とはいえ、冒険者に限ればやはり珍しいことに変わりはないが。

 魔法適性はすべての人にある。職業適性とは全くの別物だ。基本の四属性、火、風、水、土の属性の適性を合わせると九十パーセントにもなる。かくいうわたしも火属性の適性だ。……心当たりならあるから、やっぱりくらいにしか思わなかったけど。残りの十パーセントはといえば、これが光と闇の適性になる。また、二つ以上の属性に対して適性があることもある。二つの場合「ダブル」と呼ばれ、千人に一人の確率と言われる。三つなら「トリプル」で百万人に一人、四つなら「カルテット」で十億人に一人らしい。

 あと、これらとは別に、無属性と呼ばれる魔法が存在する。六属性に属さない魔法の総称であり、転移や精神干渉などがこれに該当する。後天的に取得できることもあるらしく、先天的には一パーセントほどの人がもっていると言われている。

「光魔法なら攻撃もできるでしょう。[聖術師]なら仕方ないけど。回復と支援と攻撃。自由度が魔法の強みなんだから、活かさない手はないでしょう」

わたしはただの回復役ヒーラーに経験値をくれてやるつもりはなかった。ソロで活動していた期間が長いため、回避には自信があった。一回一回の戦闘でダメージをもらっていてはレベリングにならないのだ。極力、攻撃を受けず、回避する。これを念頭に置いて戦闘を組立てていた。しかし、今回はそれではミツキが戦闘に参加できない。わたしも初戦闘で無傷で済むなんて虫がいい考えは持っていないが、治癒が必要な程ボロボロになってやるつもりもなかった。ただでくれてやる経験値はないという考えだ。

「あの、まだ、習得には至っていなくて……」

ミツキは申し訳ないといった具合に答える。

「別にいいわよ、今は。習得したときには参加してもらうから」

そんな気はしていたからなんとも思ってはいないが、光魔法の攻撃手段の習得って意外と大変なんだな、なんてことを思っていた。

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