第6話_はじまりの街
わたしたちは再び街へと繰り出していた。相場を知りたいというのもあったけれど、それ以上に現実になった今、なにかと入用なのだった。ざっと見た感じ欲しいものはだいたい手に入りそうだ。売られている日用雑貨は、素材がゲーム的で判断しにくいけど、質はそんなに悪くないと思う。けど、ちょっとした小物でも革が使われているというのは驚いた。おそらくこの世界は動物素材が生活の基盤にあるのだろう。それが顕著に出ているのが食材だ。このあたりでは一般的に野菜の方が肉よりも値段が高い。もちろん例外はあるけれど、その傾向が強く見られた。よくみるのはうさぎ肉、とかげ肉、へび肉。量も多く低めの価格設定だ……って、とかげとへびって……。それは食材でいいの? ミツキに尋ねると、建国当初から伝わる伝統料理にも使われる由緒正しい食材、なのだとか。うーん。常識を改めなければ……。ちなみに、海産物は並んでいない。この街は内陸にあって海が近くにないからだ。お昼に食べた海鮮は「賢者」によって拓かれた独自の流通ルートがあってそこから仕入れているらしい。……ほんとになんなの。
「あの……」
大通りに面したお店の軒先を見て回っていると、ミツキが珍しく控えめに話しかけてきた。視界に街の景色が入りこみ、時刻が夕方に差し掛かっていることがわかった。通りをちらほらと武装した人たちが歩いている。たぶんこの人たちが冒険者なのだろう。昼頃には見かけなかったので狩りに出かけた帰りだろうことが推測できた。人から視線を移せば今度は屋台が目に入る。昼のときは人がまばらでこんなので採算が合うのかと疑問に思っていたが、なるほど。帰ってくる冒険者を狙ったものだったのか、ということがこれからの街の景色を想像してわかる。
「どうしたの?」
わたしは先を促す。
「あの、わたし、この後教会に行かないといけないので、今日はここでお別れでいいでしょうか」
おどおどと上目遣いで見てくる。身長差のせいだと思うのだけど、こういうふとしたときに女の子らしい可愛らしさを見てどきっとする。まあ、だからといって何かある訳ではないのだけど。
「いいわよ。今日はいろいろ案内してくれてありがとね」
わたしは素直にお礼を言った。迷子もしたけれど、まあ、悪くはなかったかもしれない。
「……! はいっ! こちらこそ、アカネさんと一緒に回れて楽しかったです。……あの、また、お誘いしても?」
「いいわよ。また機会があればね」
なにがそんなに良かったかはわからないが、たまにはこういうのも悪くない。ダンジョンに潜ることしかやってこなかった身としては今日のような街歩きは新鮮だった。それにわずか数時間前に来たばかりでこの世界の常識には疎い。ミツキと話していても教わることが多くあった。人づきあいが苦手なだけに、わたしの中でミツキは情報源として貴重な存在にランクアップしていた。
わたしは[精霊の集い]で夕食を食べた後、部屋にいた。部屋は思ったより広く快適だった。食事もかなりおいしかったので、他所に移らなくて済むようにがんばろう、という思いが既に芽生えていた。そう思えるくらいにはいいところだった。
そういえば、ここに泊まる際に問題になったこの世界の暦なのだけど、一週は七日だった。そして、四週で一月、十三ヶ月で一年。一週の曜日は赤、緑、青、黄、白、黒の六色の後に色無しが来て一巡りとなる。これは六つの属性魔法と無属性魔法のイメージに由来する。だからといって魔法に何かしらの影響があるわけではない。精々が魔導具などのセールに使われるくらい。時間の方はメニューコマンドを開きっぱなしにして見ているしかないと思っていたのだけど、思わぬところに発見があった。アラーム機能が使えたのだ。これをいじっていると、最大でも二十三時五十九分。つまり、少なくともメニューコマンド上では二十四時間で機能していることになる。あとは世界とズレがあるかどうかということになるが、そのうちわかるだろうと気長に構えることにした。
街に出て調べたこの世界とゲームの世界の通貨価値の差なのだけど、ゲームではシルバーという単位で、物価はこちらの世界の方が高かった。つまり、通貨価値はプラタの方が安いということになる。もう少し言えば、一桁くらい違う。そのため、三万シルバー改め、三万プラタでは貯蓄があるとはとても言えなくなった。もっとも今日だけでかなり散財したけれど。まあ、出費項目もゲームとリアルでは大分違ってくるしね。あたりまえではあるけれど、リアルの方が出費は増える。ゲームでは食事とかは必要がなかったし、だからこそ、ダンジョンに平気で
――お金か
そういえば、ゲームのときにコインを手に取ったという記憶がない。あることは確かなのだけど、どんなデザインだったか。……たしか、剣と杖と、なにかの植物が描かれているらしいことを耳にしたことがある。それでもデザインが全く思い出せない。今にして思うと、もう少しゲームの背景設定とか調べてもよかったかな、なんて気にもなったりする。本当に今更だけど。
わたしはなんとはなしにプラタ硬貨を手に取ってみる。「1」と表示された銀色の円い硬貨。星の運行を基にデザインされたというそれは意外としっかりとしていて、そして思いの外、重みがあった。
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