第4話_ロロ

 お昼の支払いは三百プラタだった。わたしは引き継ぎで三万プラタ程を初めから持っているので特に問題なく支払いができた。この世界の通貨はプラタ硬貨の一種類。なので「何プラタ」というのは「プラタ硬貨何枚」という意味になる。ちなみに支払いの金額が大きくなってきたら大変になるというのはすぐに考え着くだろうけど、なんというか、ゲームだなあ、と思ってしまうシステムがあった。プラタ硬貨はギルドカードにしまうことができ、支払いはその表示される数字が動くだけで済むのだった。プリペイド型の電子マネーみたいなもの、と表現すればいいだろうか。詳細は知らないけれど、硬貨には魔法が付与されていて、しまうことができれば本物として扱われる、とかなんとか。……まあ、いちいち手で三百枚も数えてはいられないだろうからいいけどね。

 そんな支払いを済まし、わたしたちは[賢者の隠れ家]を後にした。向かうは最初の広場。広場は東西に延びる大通りと、南北に延びる大通りの交差するあたりにあるので、どこへ行くにしても都合がいいのだ。ちなみに、冒険者ギルドもそのあたりにあるので、先程の迷子はおかしいのだが、それに気づいたのは事が済んだ後なのでなんともいえない。

「アカネさん。おすすめの宿があるんです」

道中、ミツキはそう切り出してきた。ミツキのオススメか……。脳裏に先の迷子がよぎる。

「……うん。ありがとう。名前だけ教えてくれたら、あとは自分で探すよ」

さらっと言ってのける。でも、正直その方が早いと思っている。徒歩三分、どころか真っ直ぐ行ければ一分でも着けるのではないかと思うような距離で一時間以上も歩かされたのだ。お陰で裏通りも大分歩き慣れた。でも感謝はしない。

「あう! ……あの、先程はごめんなさい。でも今度は大丈夫です! 頼りになるガイドを用意しますから」

なにが大丈夫なのだろうと思ったが、なるほど、他者を使うのガイドね。信用していいものか、と思うけれど、まあ、幸いというべきか、時間ならある。気に入らなければ他所よそを当たればいい。そう思い、再び案内を頼むこととした。

 歩くことしばらく。わたしたちは噴水のある広場に辿り着いた。

「それで。案内を頼むって言ってたけど、どうするの?」

わたしはミツキに尋ねた。ミツキは待ってましたとばかりに得意げな笑みを浮かべた。

「ふふ。こうします!」

そう言ってミツキは右手を突き出した。

「スキル[召喚門ゲート]」

ミツキの前に白い光で複雑な円形の幾何学模様が出現した。眩い光が溢れ、それが収束するとそこには一羽の鳥がいた。その鳥にミツキが話しかける。

「ロロ。[精霊の集い]まで案内して」

体長五十センチほどのフクロウのような鳥はロロというらしい。というか……、

「あんた、[召喚術師]だったの?」

わたしはミツキの意外な職業に驚く。治癒ができるっていうから[聖術師]あたりだと思っていたのだけど……。でも、まあ、[召喚術師]も「術師」だし。「そのあたり」に含まれる……のかな。

 術師というのは魔法を扱う職業の総称だ。そして、[召喚術師]というのは魔物などと契約し、その力を借りて戦う「使役系」の職業のこと。「召喚」と名に付くのは普段は別のところにいる「使役魔物」を必要な時だけ呼び出すためだ。大型の魔物や精霊などを引き連れて街中を歩き回るわけにはいかないので当然の措置といえるだろう。逆に小型の魔物なんかは普段から連れ回していたりしていて、その姿から「魔物使いテイマー」などと呼ばれることもある。しかしながら、契約を結ぶ難度の高さから不遇だと言われていたりもする。それでも、使役魔物を連れて歩く姿に夢を見て志す人が後を絶えないのもまたひとつの事実。

「はい! そうなんですよ。この子はロロちゃんです。わたしの自慢のパートナーです」

ミツキは誇らしげに胸を張って答えた。わたしの心中など露知らずといった様子。

「え、ああ……。……よろしくね、ロロ。わたしはアカネよ」

反応に困ったので、逃げるようにロロに向かった。

「……ミツキ様の使役魔物のロロです。こちらこそよろしくお願いします、アカネ様」

「――!? ……ロロ、しゃべれるんだ」

ロロが答えてくれた。わたしの感覚で言えば、しゃべる魔物は珍しい。この世界の常識には疎いのでなんとも言えないけど、ゲームではイベントがらみでなければ出会ったことはない。だからロロがしゃべるのは完全に予想外だった。ミツキを見ると、……とても楽しそう。わたしの反応を面白がっているようだ。思わずジト目で見てしまう。

「……驚かれるのも無理はありません。ヒトの言葉を話す魔物は珍しいというのは心得ております」

「……ああ、やっぱり珍しいんだ」

――この世界でも――という言葉は飲み込んだ。ミツキがどうやってロロと契約したのかというのが気になる。けれど、出会って間もない他人だ。別にパーティでもなんでもない。あまり詮索するようなことははばかられた。情報は何より価値を持つ。なんせ、情報が生命に直結するような世界なのだから。

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