第2話_遭遇
わたしは目の前の不可思議な現象に固まっていた。中空に現れた、[ステータス]、[アイテム]、[クエスト]などの文字。さらには[フレンド]の文字の横に「1」と表示があった。
――これって、もしかしなくても、メニューコマンドだよね
事の発端は、時間を確認しようと思っていつもの癖でメニューコマンドを開こうとして、開いてしまったことによる。わたしが見ようとしていた時計もきちんと表示されていた。ちなみに現在時刻は十一時三十三分。この世界の時間経過がどうなっているのかは知らないので、これがどういう意味を持つのかは定かではない。が、少なくとも目の前の半透明のウィンドウが、わたしの良く知っているものと類似しているというのは確かだった。
わたしは[ステータス]を開いた。重なるようにして手前に表示されたウィンドウには、わたしの名前である[アカネ]と今は空欄になっている職業とレベル。黒髪黒目の少女のアバターと各種ステータスだった。表示されているアバターが着ているものはTシャツにジーンズというラフな格好をしていた。そしてそれは、街で装備の補修を依頼するために着替えたときの格好そのままだったりする。
各種ステータスの数値は見覚えのある数字が並んでいた。HP、MP、STR、VIT、AGI、DEX、INT。……? 二つほど足りない? INTがあってMNDがない。LUKはリアルラックになったとして、魔法防御力は……。物理防御力のVITが兼ねる、ということだろうか。
わたしはあまり深く考えないことにして[アイテム]を開いた。そしてそれらを眺めて――頭痛がした。素材はすべて売ったので素材はない。あるのは装備とポーション類、一部のアイテムだけ。だけなのだが、逆にロストしたのも、クエスト進行のキーアイテムといった極端に用途が限定されたアイテムだけで、ロストはほぼなかった。本来なら喜ぶところなんだろうけど、嫌な予感がするのはなぜだろう……。
そして、次に[フレンド]を開こうとして――暗くなった。視線を上げると前に女の子が立っていた。
「……なに?」
わたしは声を掛けた。訳の分からない出来事に絶賛混乱中で心に余裕がなかったために投げ遣りな感じになった……わけでもないかな。平常でも特に対応は変わらないような気もするので、特に問題はないと思う。
「え? あ、あの……。お身体の具合が悪そうでしたから、その……、治癒が必要、かと思いまして……」
女の子はしどろもどろになりながらも言った。
「身体?」
突拍子もないことを言われて思わず聞き返した。身体の調子は悪くない。何を言っているのだろうか。わたしは目の前の女の子を半目で見てしまう。
「はい。なんというか、なにもないところを指でつついていたり、宙を泳いでいたりしていると思えば、急に頭を抱えだしたり、額を押さえて天を仰いだり……」
「も、もういいから!」
わたしは慌てて制止を求め、手で顔を押さえて
「あの、やっぱり具合が……」
「うんっ! 大丈夫だから!」
このやさしさが逆にダメージを与えているとは思っていないのだろう。見ると両手の平をこちらに向けていた。おそらくスキルか魔法を使おうとしているのだろう。でも、使っても無駄だと思うんだよね。心の傷はきっと癒せない。わたしは座っていたベンチから立ってちゃんと向き合う。
「あ、あの。本当に大丈夫ですか? 念のためにでも治癒の魔法掛けておきましょうか?」
逆光ではっきりとしていなかった女の子の髪の色は薄い栗色で瞳も同じ色。背はあまり高くなく、わたしの胸のあたりに顔があった。白を基調とした修道服のようなものを着ているので、[聖術師]だろうか。あるいは本当にシスターかもしれないが。
「大丈夫だから。それで、せっかくだから少し訊きたいんだけど、冒険者ギルドの建物はどこにあるのか教えてもらえる?」
わたしは誤魔化すように質問した。
「はい? いいですよ。案内しますね」
そう言って少女は
「そこまでしてくれなくてもいいわよ。大体の場所を教えてくれれば自分で行くから」
言ってからなんとなく返ってくる答えが予想できた。
「途中で何かあると大変ですから」
なにもないと思うけどね。口には出さないが心の中で返しておく。案内してくれる分にはこちらは困らないので、頼むことにした。
「はい。行きましょう、……えーと?」
少女が困ったように見てきた。そういえばまだ互いに名乗っていなかったことに今更ながら気づいた。
「アカネよ」
わたしが名乗ると少女はぱーっと笑顔を咲かせた。
「わたしはミツキです。よろしくお願いしますね、アカネさん」
ミツキの自己紹介によろしくと答え、わたしたちはようやく歩き出した。
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