できもの
ツヨシ
本編
ずいぶんと長い旅をしてきた。
で、ここはいったいどこだろう?
今、何所にいるのかわからない。
とにかく寂しいところだ。
驚くほど細い道が一本見えるだけである。
曲がりくねった田舎の道。
そのまわりは山と畑のようだ。
冬が近いのだろうか。
ちょっと寒い。
誰もいない。
おや、向こうから誰かが歩いてくるぞ。
かなり小さい。
まだ幼い子供なのだろう。
私に気がついたようだ。
歩みを止めた。
薄暗くてよくはわからないが、じっと私を見ているように見える。
そのまま動かない。
それにしても、なんということだ。
頭の上に大きなできものができているではないか。
あれは、確か……そうそう近所の医者が言っていたやつだな。
なんとかと言う……病気の名前は思い出せない。
いや、名前なんてどうでもいいことだ。
とにかく取ってあげよう。
素人の私でも取っても問題はない、とあの医者は言っていたはずだ。
私はできものを鷲掴みにすると、ぐりっとひねり、引きちぎった。
子供はその場に、ばたりと倒れた。
医者が言っていたな。
このできものを一気に取ると、ショックで気を失うことがある、と。
でもほおっておけば、そのうちに気がつくとも。
倒れている子供をそのままに、私は再び歩きはじめた。
それにしても、ここはいったい何所なんだ?
あたりは暗くてはっきりとはしないが、最初に感じた以上の田舎にいるようだ。
けっこう歩いたのだが、あれから誰にも会わない。
と、思っていると、前に誰かいるのを見つけた。
背中を向け、私と同じ方向へ歩いている。
小さい。
また子供だ。
なんでこんな遅い時間に、まだ二人目とはいえ、子供ばかりと出会うのだろうか?
しかしそんなことは、どうでもいい。
この子供にも、大きなできものがあるのだ。
取ってあげるか。
一言のあいさつもなしで、後ろからいきなりそのできものを掴むと、さっきと同じようにひねり、同じように引きちぎる。
その子供もその場に倒れた。
私にはそれは、子供が地面にキスしにいくように見えたものだ。
そのまま歩き続けたが、誰にも会わない。
引き返すか。
ここには特におもしろいものは、なにもないようだ。
私は今来た道を戻り、車を停めてあるところに向かった。
もうすぐ車のところだ。
おやっ、前から声が聞こえるぞ。
それも複数だ。
一言もわからない外国語だが、声の調子から判断するに、楽しく会話がはずんでいるようである。
追いついた。
また子供だ。
五人いる。
しかもなんと五人ともに、頭の上に大きなできものがあるではないか。
できもの率が、やけに高い。
ここに来てから今のところ、百パーセントだ。
珍しい病気と聞いていたのに。
それとも場所によってその率が違う、ということなのだろうか。
とにかく取ってあげよう。
一番後ろにいた子供のできものを、引きちぎった。
残りの四人が気付き、振り返って私を見た。
お礼はいらないよ。
……なんだあれは?
あれは……悲鳴か?
見れば四人がいっせいに叫び声をあげ、三人が走り出した。
一人はその場に座りこんでいる。
なんて失礼な子供たちだ。
人の親切を無にするとは。
でも私は自他共に認める人格者だ。
その程度のことでは怒らない。
座り込んで、なぜかがたがた震えている女の子?
――さっきからそうなのだが、ここの住人は、なぜか顔がはっきりと見えない服装をしているがために、男か女かの区別がつきにくいのだ――と思える子供のできものをとった。
そうこうしているうちに、三人はずいぶんと遠くまで逃げてしまっていた。
途中で一人転んだが、すぐさま起き上がり、また走り出した。
追いかけようか。
あの速さなら、私の足ならすぐに追いつく。
いや、やめておこう。
どうも私を嫌がっているようだし。それにあのできものは、大人だったら誰にでもとることができるたぐいのものなのだから。
だったらあのできものを、なぜみんな取らないのだろうか?
なぜ後生大事につけたままなのだろうか?
親とか近所の人とか学校の先生とか、まわりに大人はいくらでもいるはずなのに。
そんなことを考えていると、車に着いた。
私は車に乗り込むと、目標座標をさっきのようにいいかげんではなく、きちんとセットした。
エンジンスタート。
車は光速で、次の星に向けて旅立った。
次の日、その朝のニュースは、まともに聞いたらとても信じがたいものであった。
東北の村で、四人の人間が殺された。
それも、頭を引きちぎられて。
犯人を見た三人の証言は、完全に一致していた。
犯人は、基本的には人間と似た姿かたちではあるが、その身長がゆうに三メートルを超え、しかも首から上がなく、上半身裸の胸のところに、大きな目と鼻と口があったと言う。
終
できもの ツヨシ @kunkunkonkon
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