第3話 土曜日

(あー、なんかよく寝たな。あれ?自分の部屋じゃない?)


 目の前には、コスプレをしたあかり先輩が、ポーズを取っていた。かわいらしい扉や、窓に小物が置いてある部屋だ。そして明るい。


(撮影スタジオみたいだな?行ったことないけど……)


「じゃあ、お願いしまーす!」


 佐々木の声が聞こえてきた。カシャ!っという音とともに、僕の中に目の前のあかり先輩が刻み込まれてきた。


(どういうこと?そういえば、声が出ない。でも、あかり先輩きれいだ……)


「あ、目線はちょっと右にはずしてもらえますか?」


「あっ!いい!」


 佐々木がそう言って、また僕の中にイメージが入ってきた。


(佐々木が写真を撮ってるのか。しかし、あかり先輩を撮るなら、こういう表情の方がきれいだぞ)


 僕がそう思った時に、イメージが切り取られた。


「あれ?」


 佐々木がちょっと焦り気味に言った。


「どうかしたの?」


 あかり先輩が尋ねる。


「いや、カメラが勝手に反応して、写真が撮れちゃいました」


「故障?」


「いや、そんな感じじゃないですね。ほら、いい感じの写真が撮れてますし」


 そういって、佐々木はあかり先輩に、僕の後ろを見せたようだった。


「ほんとだー!これいいよ!もっと撮って」


「まあ、俺くらいになると、いい写真は無意識に撮っちゃうんですよねー」


 佐々木が調子に乗った感じで、あかり先輩に言った。そして、また僕の前には、あかり先輩が立っていた。


(あれ?僕は、カメラになってるのか?)


 そのあとも、カシャっという音とともに、あかり先輩の姿が焼きついた。でもそんなに、いいイメージになっていない。僕のタイミングでイメージした方が、いいイメージだ。


(あぁ、こっちの方が光の当たり方も良くて、あかり先輩、きれいだ……)


「そろそろ時間でーす」


 どこからか声が聞こえてきた。


「ありがとうございました!」


 佐々木の声がして、あかり先輩が歩み寄ってきた。


「ありがとうね、佐々木君。どんなのが撮れたか見せてよ」


「いいっすよ!俺の腕を見て下さい」


 自信満々の佐々木の声がしたあと、さっき見たイメージが走馬灯のように、パラパラとめぐっていく。それが止まったとき、あかり先輩が言った。


「これ、いいね。佐々木君がこんなに写真うまいとは知らなかったよ。もっと早く撮ってもらうんだった」


「えっ?ええ、僕はうまいですよ。」


(おい佐々木、このイメージは僕のタイミングだぞ!)


「光の当たり方がいいね」


「そ、そうでしょ?そうだ!明日、個別撮影しませんか?」


「えっ?明日?」


「ちょっとだけの時間でも!」


「うーん、じゃあちょっとだけ撮ってもらおうかな」


 あかり先輩の声が小さくなった。


「おまかせください」


 佐々木も声が小さくなった。


(えっ?なんだなんだ?どうなるの?)


 僕は動揺してきたが、声はでない。


「あかり先輩は、世界一です!」


 佐々木の声を聞いた次の瞬間、目の前が真っ暗になり、僕は意識を失った。

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