第2話 金曜日

 授業が終わった後、あかり先輩からオタ研メンバーに招集がかかっていた。部室のひとつであるオタ研倉庫の整理をするためらしい。なんでもオタ研を卒業した一部の人たちが、4月になると毎年、オタ研新入生に贈り物を進呈するのが恒例になっているそうだ。その品々は新入生が使うモノ以外は、オタ研倉庫で保管することになる。


「今年も先輩方から、ありがたい品々が届きました。新入生は使いたいものがあれば、ひとつ選んでね」


 あかり先輩が僕達に語りかけた。といっても、目の前に並んだ品々というのは、オタクが好きそうな品々だ。たとえば、戦隊モノの変身ベルトとか、アニメDVDとかである。カメラまわりのモノはなかった。


「あかり先輩!私、これが欲しいです」


 そういって同級生の木暮が、魔法少女アニメで出てきたステッキを指差した。


「木暮さん、目のつけどころがさすがね」


 あかり先輩の眼が光る。


「これ、私が小学校のころ流行ったんです」


「だよね~。私も目をつけてた。私もコスプレで使いたいから、その時は貸してくれない?」


「いいですよ!」


「じゃ、木暮さんは決まりね。来栖君と、佐々木君は何か欲しいものあった?」


「特には……」


 と僕が言うと、オタク度の低い佐々木も


「よくわかんないっす!」


 と返した。


「まあ、倉庫にあるものから選んでもいいし、今選ばないといけないものじゃないから、安心して。じゃあ、手分けして倉庫に運びましょうか?」


 オタ研の今年度の新入生は、僕と佐々木、そして木暮麻紀那だ。木暮は僕と高校が同じで、僕は写真部、木暮は美術部だった。文化系部活どうし、それなりに交流があった。木暮は高校時代から、部活でマンガを描いていたので、漫研に入るのかと思いきや、オタ研をえらんだ。僕としては、オタ研に顔見知りがいるのは、それなりに助かることだった。


 あかり先輩の指示にしたがって、20個ほどの品々を手提げ袋に入れて運ぶ僕らと先輩たちは、大学部室棟の地下倉庫へとつづく薄暗い階段を下りた。そこはうすく緑色をおびた蛍光灯に照らされた、各部の倉庫が並ぶ廊下。廊下の幅は、4人が並んで歩けるくらいの幅。コンクリートにベージュと白のペンキがツートンカラーで塗られていて、突きあたりまでは50メートルくらいだろうか。灰色のペンキで塗られた古そうな扉が並んでいる。


「なんか、ワクワクしてきた!ゾンビ出てきそう!」


 佐々木が、ちょっと興奮気味に言った。


「やめてよ、怖いじゃない」


 木暮が、うんざり気味に返した。


「そうだな、なんか雰囲気がある。地下にこんな場所があったなんて……。」


 手提げ袋の重さが手に喰い込んでくるが、僕もちょっとドキドキしてきた。


「ここだよ」


 あかり先輩はそういって、観音開きの扉の前で立ち止まり、鍵を取りだした。


 (ガチャ。キィ。)


 あかり先輩が扉が開いた。先輩が倉庫の照明の蛍光灯スイッチを入れて、ピンピンと音をたてて蛍光灯が明滅しながら点灯し、倉庫の全貌が見えた。倉庫の中は、20メートル四方くらいの広さ。灰色のスチールラックが整然と並んでいて、棚には段ボールや、木箱が収まっていた。


「じゃあ、各自運んでくれたものを、番号がふってある箱に入れていってくれるかな?」


 あかり先輩の言葉に、各自返事をし、番号を探して棚の間へと入っていった。


 僕が戦隊モノ変身ベルトを入れる箱の番号を探しているときだった。


「おい、来栖。これって古いカメラ?」


 佐々木が、長辺15センチくらいの木箱を手に持って、僕に聞きに来た。確かにその木箱には、中央にレンズらしき鏡筒がついていて、カメラのようにも見えた。


「古いカメラって、けっこう大きいんだけどなぁ」


 僕は、箱を探す手をとめて、そう言った。


「お宝なのか?ちょっと見てくれよ」


 そういうと、佐々木はその木箱を僕に差し出した。そんなに重くないその木箱は、背面に銀色の金属が見えていて、上面に押せない金属製のシャッターボタンらしきものがあった。ファインダーはない。


「ダゲレオタイプかなぁ……。」


「なにそれ?シャッターボタンはあるけど、覗くところはないよな」


「本当に古いカメラは長時間露光しないとダメだから、普通シャッターボタンはないんだ。ファインダーを覗きたいときは、たぶんこうやって背面の板を外すんだよ」


 そういって、背面の板を外してみた。中は空になっていて、背面に出ていた銀色の金属が内部につながっている。それは不思議な模様の入ったおさら状になっていた。


「うーん?ダゲレオタイプなら銀板を入れるホルダーがあると思うけど、これには無いね」


「使えないカメラってことか」


「うーん、先輩に聞いてみようか」


 そういって、背面の板を閉じ、僕はカメラらしきもので、目の前の段ボールを撮る格好をしてみた。おでこのあたりに、金属がふれてひんやりした。


「ちゃんと仕事してる?あ、欲しいものを見つけたのかな?」


 その声がした方に、カメラらしきものを構えたまま振り向く瞬間に、僕はシャッターボタンらしきものに触れた。


「先輩、これ何です?」


 佐々木が、あかり先輩に尋ねた。


「なんだろうね。カメラじゃないの?」


「どうもカメラに似てるけど、よく分からないんです」


 僕があかり先輩に返事した。


「私も倉庫にあるもの全部を把握してるわけじゃないから、後で調べてみようか。来栖君はそれが欲しいの?」


「いえ、欲しい訳ではないので」


「そうか(笑)、じゃあさっさと片付けをすませましょう」


「「はい」」


 僕と佐々木で返事した。


「お宝だったら、後で俺がもらう!」


 佐々木が手を出してきたので、僕はカメラらしきものを返し、また戦隊モノ変身ベルトを仕舞う箱を探し始めた。

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