第2話 咲くべき花たち ③


「あと、三日」


俺は彼女の言葉を繰り返した。

あと三日で、目の前にいる天野さんはあっけなく死ぬ。

そんなことは想像できない。彼女はどこからどう見ても元気だし、今にも死ぬような感じはない。

しかし、どうしてもその言葉が嘘だとは思えないほど、彼女の目は真剣だった。


「この話、実は誰にも話したことが無いんです」


天野さんは苦笑いした。


「私が死んだところで、誰も悲しまないですし。野咲さん、どうかこの話は忘れて下さい」


忘れて下さいと言われても。

俺は、ある意味では浮かれていたのかもしれない。

また、ある意味では同情していたのかもしれない。

だから、こんなことを言うなんて想像も出来なかった。


「俺は、悲しい、と思う。天野さんが死んだら、俺は悲しむと思う」


初めてだった。

まともに会話してくれる人。こうして、俺に話をしてくれる人。俺にとって、とっくに天野さんは忘れられない人になってしまったようだった。


「だから、そんな悲しいことは言わないでくれ。俺が偉そうに言えることじゃないんだけど。何にも君のことを知らない俺だけど」


天野さんのことを何も知らない。

知らないはずなのに、俺はこの何とも言えない胸の高鳴りの正体に気付いてしまった。

どうやら、俺は彼女に恋をしたようだ。


「君の死ぬべき時を、見届けてもいいですか?」


まるでプロポーズのような言葉だった。

その言葉を聞いて、天野さんは瞳から大粒の涙をこぼした。

嬉しくて泣いているのか、それとも悲しくて泣いているのか、はたまた気持ち悪くて泣いているのかは分からない。

分からなかったが、彼女はゆっくりと頷いた。


「ありがとうございます、野咲さん」


天野さんはにっこりと笑った。目も、鼻も赤く染まっていたけれど、彼女の笑顔は花のように可愛く、そして儚いものだった。


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