第2話 咲くべき花たち ①
その日は、もしかしたら人生で一番自分の身なりを気にした日かもしれない。
俺はタンスから、唯一あるお洒落で落ちつている服を選んだ。紺のジーパンに、Tシャツの上に白のシャツ。一度くらいしか腕を通していない服ばかりなのか、まるでこの日のために揃えたように真新しいものばかりな気がした。
髪の毛は、手で直すだけで素直にいうことをきいた。髭も剃り、鏡に映る自分は、いつしか夢に夢見ていたあの頃の自分のように見えた。
駅前のカフェにつくと、例の少女が店の前で立っていた。
この日も彼女は白のワンピースを着ていたが、違ったところといえば昨日は黄色だったカーディガンが、今日は桜色のカーディガンだったというところだ。
彼女は俺に気付くと、昨日と同じように一礼した。
「昨日とはまるで別人ですね」
そんなことを言って、彼女はくすりと笑った。
「いきいきしていますね」
「まぁ、生きているからな」
「そうですね、死に損ないましたからね」
それから俺達は一緒にカフェに入った。
こじんまりしたこの場所は、俺にとってお気に入りの場所だった。
人が賑わうこの街で、ひっそりと、だが決して廃れた訳では無い独特の雰囲気が好きだった。
俺と彼女は、店の一番奥のテーブル席に座った。
「今日は俺が奢るから、何でも好きなものを頼んでくれ」
言ったものの、財布の中は今月を乗り切る分の金しかなかった。
「大丈夫ですよ。私、お金はたくさんありますから」
彼女は俺の心を読んだかのように言った。
結局カプチーノと、コーヒだけ頼むことになった。
それからというと、俺は何も言わず、彼女も何も言わなかった。
何を話すべきなのか、何を話せば良いのか分からない。
暫くして、彼女が口を開いた。
「そういえば名前、聞いていませんでした」
「あ、そうだな」
俺はこほんと咳払いして、背筋を伸ばした。
「野咲晴です。晴れって書いて、てる」
「いい名前ですね」
「そんなことは無いけどな。読みにくいし。それで、君は?」
「天野日和です」
そう言って彼女ははにかんだ。
「野咲さんは、何をされているんですか?」
彼女の質問に、俺は答えるのに躊躇した。
プライドなんてものはとっくに無いはずなのに。
「えっと……大学生。でも、ほとんど行ってないから、不登校みたいなもん」
「そうなんですか。私と同じですね」
「え、君も大学生?」
「そうですよ、大学生1年」
てっきり中学生かと思ってしまった。
大学生1年と言うと、俺とそこまで離れていない。
天野さんはくるくるとカプチーノをかき混ぜて、ゆっくりと飲んだ。
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