第1話 枯れゆく花ども ③


「おかしな話ですよね」


彼女は星を見つめたまま、目を細めて笑った。

その横顔は、なんだかとても寂しく見えた。


「いや......別にそんなことはないと思う」


見ず知らずの彼女のことに、少しばかり同情した。

このときばかりは、俺は彼女を死にたい者同士だと勝手に思い込んでいた。


「そろそろ、帰ります」

「送って行こうか?」

「いいえ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」


彼女はそう言って、ゆっくり立ち上がった。

白いワンピースには、長い間座っていたせいか、少し汚れていた。

俺の前で一礼して、そのまま去ろうとした彼女に、俺は立ち上がって言った。


「えっと、今度、お礼したいから。だから、暇な時、教えて欲しい」


新手のナンパか、と自分で思ってしまったが、彼女はくるりと振り返り、驚いたような顔をしたかと思うと、すぐにくすりと笑った。


「明日で、お願いします」


学校のことが気になったが、俺はとりあえず頷いた。


「明日の1時に、駅前のカフェでいいかな?」

「はい、わかりました」


彼女はそう言うと、また一礼して闇の中へ消えていった。


俺はしばらくその場を動けなかった。

死のうと思ったあの瞬間が、結局失敗に終わり、今、名前も知らない少女と明日会う約束をした。

こうして、死ぬはずだった俺は、明日までなんとなく生きることになった。


今までもなんとなく生きてはいたが、小さな約束があるだけで、ほんの少しだけ生きていてもいいような気がした自分は、愚かなのかもしれない。


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