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間違いなく目の前にいるのは晃なんだけど、まさか晃がモニター室のガラスを割ってここまで飛び降りてくるとは思わなかった。
新汰、ごめんね。怒られるのはお前だ。
「えーーーーー!!アッキー何やってんの?!」
名嘉が言ってた通り、智はルールを知ってから、ちょっと破るとオロオロする。いやいや、第一お前もうしうさちゃんつけてた時点で駄目なんだから、もう諦めなよ、と私は思う。
「だって、名嘉と縦山だけじゃ力不足でしょうよ」
晃はそう言って眠たそうな目を擦る。そりゃあ、あんな所でずっと暇してたなら眠たくもなる。私だって、人型を追いかけてなけりゃ多分寝てたし。
って待って。
「力不足ってさ、それ、私が上から攻撃したら手っ取り早くない?足元崩すよりも力いらないし」
そうそう私!私だよ!ドラゴンの一番でかいクライムは脳内にあるって言うし、上から攻めた方が絶対いいって!
ドラゴンのクライムは一個とは限らない。でも、一番でかいクライムを砕けば一発。それも、脳内にあるというのは確実なのだ。
これは空中戦を得意とする私の出番じゃないの?!
「いや、多分、この試験の本題はそこじゃないよ」
奨が口を開く。皆の視線が奨に集中して、晃以外の六人の頭上に「?」が浮かび上がる。
「ドラゴン見たらわかると思う」
それを合図に私達はドラゴンのいるであろう方向に走った。
「そういうことかぁ………」
零のやる気が一気に下がる。ついでに私も下がった。
ドラゴンの足元から頭上へ「1」「2」「3」と番号がふられてある。部屋の壁には「1〜3の順番でクライムを砕き、浄化すること。1、2より先に最後のクライムを砕いた瞬間、失格となる」と書かれていた。
「え〜面倒くさ」
縦山が若干キレているのは、短気な性格だからだろう。さっさと終わらせて、さっさと受かりたいんだろうな。
「じゃあこうしようか」
斜木がちょいちょいっと手を動かし、皆を集める。と、内緒話のようにコソコソ話し出した。
「ほーーーなるほどーーーーー」
「それなら早く済むだろうね」
「晃、いらなかったんじゃない?」
「いちいちうるさいなぁ、横井は……」
智、奨、私、晃はそう話し、登内と縦山は早く終わらせたいばかりに武器を手に取った。
「じゃあ行きますか〜……って行くのは最初、智だけなんだけどな(笑)」
「おうよー!!」
晃が言うと、智はバルディッシュをクルクル回す。うしうさちゃんがついてないから、ジャラジャラって音は鳴ってない。
「皆、死ぬなよ……!」
名残惜しそうな顔を作り、智は手を振って私らの元から離れていく。
「いや、お前がな」
冷静にツッコミを入れたのは登内だった。
ドラゴンの前に智が立つ。智はニヤニヤしながらドラゴンに向かってこう叫ぶ。
「お前の母ちゃん、でーべーそーーーー!!」
お前はドラゴンの母ちゃんさえ見たことないだろ!!!!!!!!
叫んだ言葉に対してはもういい。その叫び声に気付き、ドラゴンは智を狙って火を噴く。智はチョロチョロ動き回って、ドラゴンの攻撃を避けていく。それにイライラしたのか、ドラゴンはどんどん智に目を取られる。
「今だよ、皆ーーーー!!」
智の合図と共に私達は一気にドラゴンに飛びかかる。私と登内と斜木は頭上、晃と奨は腹部、縦山と名嘉は足元。それぞれ同時に部位を突き刺す。
鉄の臭いに交じる、血の鉄臭。飛び散る色は深く黒く、赤かった。もう見慣れてしまったこの臭いと色はこれからも嗅ぎ、見続けるだろう。
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