第三章:UMA探偵と蠢く者ども-6
もう一つ、という表現をしたが、東雲達の組織名は分からないのだから、唯一名前が上がっている組織、と言った方が良いかもしれない。
ASEAと東雲達は一応敵対関係にあるようだが、ややこしいのは、どうも東雲達にとっての主たる敵はまた別におり、ASEAはあくまでも第三勢力的な立ち位置らしいという点だ。
『どちら側にもつかずに傍観するようなことを言っておきながら、やはり結局はこちらの邪魔をするというわけか』
あの時に、件の隊長がこちらに向かって言い放ったこの言葉からは、少なくともそう推察するのが最も妥当だろう。
“こちらに向かって”……そう、この点も重要だ。
あの男は、UMA探偵協会がASEAの一部だと考えているようだった。
実を言えば、有馬はあれから、UMA探偵協会における直属の上司であり、この地区の前任者でもある人物に連絡を取ってその点を問い質している。相手は拍子抜けするほどあっさりと、UMA探偵協会がASEAと同じくアマテラス財団によって設立されたことを認めた。
『何で宇宙開発を推進しているアマテラス財団が、宇宙と無関係なUMA探索なんかに手を出すのかって? 分かってないな、有馬勇真! ロマンだよ、ロマン! 宇宙もロマン! UMAもロマンだ!』
胡散臭すぎて怪しいのか逆に怪しくないのか――本気で誤魔化すつもりがあるならもうちょっとマシな返答を用意しておくだろう――よく分からないそんな答えを返されたが、有馬は前任者が協会内でどの様な立ち位置にいるのかもよく知らない。
彼が全てを把握しているとは限らないのだ。
だが、仮にASEAがUMA探偵協会上層部と繋がっているのだとすれば、彼らにはこんな強引なやり方で有馬を確保する必要は無いということになる。UMA探偵協会を介して普通に呼び出せば良いだけだ。
加えて、ここ一連の件でASEA、あるいはUMA探偵協会は、あまり積極的に事態を動かそうとしていないように見える。有馬と東雲が一戦交えたがために、あの隊長はASEAが敵に回ったと考えたようだが、そもそもそうなったのは初対面の時点で東雲の方が喧嘩腰だったからだ。
東雲としては、あのタコの存在を他の人間に知られてはならないと焦ってこちらを追い払おうとしていたのだろうが、有馬の方はべつに東雲達の邪魔をしろという命令を受けていたわけではない。
向こうの対応次第では、ひょっとすると協力するような事態になっていたかもしれないのだ。
そう考えると、ASEAが『どちら側にもつかず傍観する』と言っていたというのも、ある意味では頷ける。
組織としてはどちら側にもつかずに傍観する、しかしながら、個々のUMA探偵が各個人の判断でどちらかの敵、あるいは味方に回るようなことがあっても、それもまた傍観する、とそういうことなのだろう。
そのあたりを含めて考えると、今、有馬を捕らえているこの男達がASEAの人間だという可能性はほぼ無いと見た方が良いだろう。
そうなると残るは、東雲のグループにとっての本来の敵だ。
これについては、ほとんど何も分からないと言って良い。東雲達は、世界を滅亡させようとしている存在だというようなこと言っていた。しかしそんな物騒な連中にしては、やはりやり方が穏当すぎるように思える。
そもそも、世界の征服ならまだしも、世界の滅亡を目指すなどというのは、いったいどういう勢力なのだ。
果たして本当に、そんなことを企むような人間がいるのだろうか。
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