第三章:UMA探偵と蠢く者ども-5
「知っているのは、この二人だけだ」
有馬は正直にそう答えて、東雲と例の隊長の写真を指し示した。
手錠をかけられたままなので、両手を持ち上げなければならないのが面倒だ。
「ふーん」
女は、口元に笑みを浮かべながら、有馬の顔をじっくりと見つめる。
じっくりと、というよりは、じっとりと、という表現を使った方が良いような、舐めるような見つめ方だ。見つめているというよりは、もういっそ観察していると言った方が良いかもしれない。
口元とは違い、目元はまったく笑っていない。
「本当かねぇ? そのわりには、この女の写真にえらく注目してたみたいだけどねぃ?」
言いながら、件の美女の写真を摘み上げて、有馬の目の前でひらひらとふってみせる。
「そりゃあまあ、それだけの美人の写真ともなれば、注意も引かれようというものさ。エルフか天使か、なんかそういうものなんじゃないかとすら思ったよ」
女は、ふん、と鼻を鳴らして笑った。
「UMA探偵ともあろう者が、また随分と陳腐な表現を使うねぇ。陳腐な上にチープだ」
「じゃあ君達ならいったいどんな表現を使うというのかな? 是非とも御教授願いたいところだね」
女は、その質問には答えなかった。
「本当に、こいつには見覚えが無いのかい?」
「そりゃあね、いくらUMA探偵・有馬勇真とはいっても、生まれてから出会った全ての人間を記憶しているというわけじゃあないさ。しかしいくら何でもそんなに特徴的な人物であれば、一度出会ったら忘れないとだろうね」
「なるほどねぇ」
女は、金髪美女の写真を机に戻した。代わりに、もう一枚の別の写真を取り上げる。
「じゃあ、こっちの男は?」
そこに写っている人物は、前の写真ほど特徴的ではなかった。ぱっと見での印象は、陽気なアメリカ人の壮年男性といったところである。
もちろん、実際の国籍がどこかは分からない。マッチョなハリウッド俳優のような外見から、そんな印象を抱いただけだ。退役した元伝説の米兵であるダディが娘を守るために再び銃をとる――みたいな筋書きの映画に、ダディ役で出ていそうである。
ラーメン店の店主のように腕組みし、顔には爽やかな笑みを浮かべていた。
単体で見ればそこそこ見栄えの良い容貌なのだろうが、なにしろ一つ前の写真の人物が鮮烈すぎたせいで、相対的に凡庸な外観に思えてしまう。
有馬は、首を左右に振った。
「その人も知らないね。まあ、そっちは忘れてるだけの可能性もあるけれど。映画俳優か何かかい?」
「ふーん」
女は、ハリウッド俳優じみた男の写真も机に戻した。
「で、知ってるのはこの二人、と」
そう言って、東雲と隊長の写真をそれぞれ、右手と左手で摘み上げる。親指と人差し指だけで摘む持ち方がなんとなく潔癖症を思わせるが、最初に写真を取り出した時は気にせず触れていたので、単なる持ち方の癖なのだろう。
「ああ」
「じゃあこいつらについて、知っていることを話してもらおうか?」
――やはり、そうか。
今の言葉は、決定打だった。
こいつらは、東雲の仲間じゃない。
実のところ有馬は、最初からそうなのではないかと予想していた。彼らにしては、こちらへの応対が穏当過ぎる。そんな気がしていたのだ。
いや、もちろん、人質を取って脅迫し、半ば無理矢理連行するというやり方は既に十分乱暴であり、穏当ではない。しかしながら、バッタの時に接触したあの部隊、平然とこちらを拷問した後で殺すと宣言した彼らであったなら、有馬の確保にわざわざネットランチャーの様な非殺傷武器を選んだりはしないだろう。
もっとも、同じ組織に属してはいても、東雲あたりはあの隊長と比較するとやり方が手ぬるいところがあった。だからそれだけでは、まだ確証は持てなかったのだ。
しかしここに来て目の前の女は、東雲達を「こいつら」と呼び、更には彼女達について知っていることを話せとまで言ってきた。となれば、さすがに同じ組織の人間ということはないだろう。
では、東雲達とは別勢力だとして、それはいったい何なのか。思い起こしてみると、ここ一連の件で、もう一つ名前が上がっている組織があった。
ASEA――アマテラス宇宙開発機構――だ。
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