第三章:UMA探偵と蠢く者ども-4
やがてヘリはどこかに着陸したが、どうやらそこが目的地というわけではないらしく、有馬は目隠しをされた状態のまま車に乗せられた。扉の開閉時の音や振動などから判断するに、恐らくはスライドドアのバンか何かだろう。
走行中に周囲の音から位置に関する情報を少しでも入手するつもりでいたのだが、そんな有馬の考えを読んだのか、耳まで塞がれてしまった。感触だけではよく分からないが、恐らくはあの二人組が持っていた遮音用のイヤーマフだろう。随分と念の入ったことだ。
一時間ほど走っただろうか。
車が停まると、目隠しはそのままにイヤーマフだけが外され、声をかけられた。
「到着だ。車から降りろ」
背中に硬い何かを――銃口か?――突きつけられ、命じられるままに進む。途中から、階段を下ることになった。ということは、行き先は地下なのだろうか? いや、そう考えるのは早計だ。停車した場所が、立体駐車場のような高さがある場所という可能性もある。
有馬の側としては、そちらの方がまだ有り難いところだった。地下では、万が一の時に窓から逃げるという選択肢が完全に無くなってしまう。もっとも、こういう時には最悪の場合を想定しておくのがセオリーとは言えるが。
三階分ほどの階段を降りただろうか。
前方で、軋みをあげながら扉が開かれたのが分かった。
「入れ」
その言葉とともに、背後から銃口らしきもので小突かれる。言われた通りにすると、有馬に続いてパーカーの男も入ってきた後、再び音をたてて扉が閉じられた。どうやら、鍵もかけられたらしい。
漸く、目隠しが外される。
あまり広くはない部屋だった。窓は一つもなく、やはり地下のようだ。部屋の中央には机があり、こちら側と向こう側の両方に一脚ずつ椅子が置かれている。そして、向こう側の椅子には一人の女が腰掛けていた。
年齢は四十代後半から五十代前半といったところか。東雲と同じくらいありそうな長身だが、いろいろな意味で健康的な体つきの東雲とは違い、枯れ木の様に痩せていて血色も悪い。髪も総白髪だ。だが、ぎょろりとした目にはぎらぎらした生気が漲っていた。
女の口角が持ち上がる。笑ったのだ、と気づくのにワンテンポの遅れが生じた。
「よく来たね、UMA探偵・アリマユーマ?」
女は、有馬の側の椅子を手で指し示した。
「座ると良い」
阿吽の呼吸で、パーカーの男が椅子を引く。彼の方は座らないようで、すぐに身を引いて有馬の背後で立ち続けた。有馬に対する、見張りと牽制を兼ねているのだろう。
ここで逆らっても良いことは無さそうだったので、言われるがままに座る。安っぽいパイプ椅子で、体重をかけた時にギィッ、と音をたてて軋んだ。正面の女が使っている椅子も同じ物であるところを見ると、あえて粗雑な扱いをしてみせることによる挑発、あるいは威圧といった心理的効果を狙ってこんな椅子を使っている、というわけではなさそうだ。
机も、運動会などで用いられるような簡易的なスチール机なので、持ち運びのしやすさを優先しているのかもしれない。
そう考えてみると、この部屋自体が継続的に拠点として使用しているものというにはボロすぎるように感じられた。恐らく、一時的に借りているだけで、この尋問が終わったらすぐに撤去するつもりなのだろう。あれだけ目隠しやら何やらした状態で連れてきたというのに、また随分と用心深いことだ。
「お前――」
お前達は何者だ? 有馬がその言葉を全て発するよりも先に、女が机の上に十一枚の写真を並べた。
「こいつらを知っているな、アリマユーマ?」
写真に目を走らせる。全て異なる人物が写っている写真のようだった。知っているな、と言われたが、そのうち見覚えがあるのは二人だけだ。
一人は東雲。そしてもう一人は、バッタの時に出会った、隊長と呼ばれていた男だ。
だが有馬の目は、そのどちらとも違うもう一人の人物に引き寄せられた。
見覚えがある人間というわけではない。つまりは、見覚えがなくとも注目せざるを得ないほどに、人目を引きつける容貌だということである。
透き通るような滑らかで白い肌、銀に近い金髪。緑の瞳。それでいて、顔の造型はアジア系の血が混ざっていることを思わせる。
そういった全ての要素が調和した美貌、まるで神話の世界の登場人物であるかのように思えた。
年齢は……二十代の半ばから後半といったところか。
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