第二章:UMA探偵と魔草の絶叫-1

 葉の動き方だけ見ていると、歩いているというよりは、跳ねているといった方がしっくりくる。しかし下の方は手前に生えている別の植物の陰になってしまって見えないため、実際のところ、どうやって移動しているのか分からない。


 これが歩き回る植物、マンドラゴラなのだろうか。


 伝説通り、根っこ部分が人の形をしていて、その根っこで歩き回っているのか? 

 いや、早まるな。今見えているのは、上の方で葉が動いているところだけだ。もしかすると、下には動物がいて、そいつが茎を口にくわえて運んでいるだけかもしれない。そういえば昔、蟻が切り取った葉を持ち上げて運ぶのをテレビで見たことがあるし。


 見ていると、撮影範囲の右端に来たあたりで、葉は移動を止めた。その後、少しだけ下へと下がり、そして完全に動かなくなった。

 動くものが無くなったため、やがてカメラがオフになり、画像は暗転する。


「何かありました?」

 私が話に加わらずに画面を凝視していることに気がついた矢部が、声をかけてきた。

「……もしかして、マンドラゴラ、見つけたかもしれない」


 まあ、本当にマンドラゴラかと言われるとまだ確証は無いわけだが、イトウと麻倉が物騒なことをやらかす前に注意をこっちに引いた方が良いだろう。自分が生き延びるためなら人を見殺しても罪悪感一つ覚えない私だが、見殺しても自分に何の得も無い時にまで進んで見殺したがるほどの鬼畜というわけではないのだ。


 私の言葉を受けて、わらわらと再度タブレット端末の周囲に集まった面々に、私は先程の映像を再生して見せた。

「葉っぱが歩いてるぞ! 間違いねぇ、これはマンドラゴラだ! 早く取りに行かねーと!」

「いやちょっと待ってください。見つけたのは良いお知らせッスけど、牽引用ドローンは師匠が持って行っちゃってるッスよ? 僕らだけで取りに行ってもマンドラゴラを引き抜けないッスよ」

「じゃあさっさと有馬を呼び戻せよ!」


 イトウが有馬に連絡を取っている間に、麻倉は立ち上がってさっき来た道を引き返し始めた。

「ちょっとちょっと、班長、一人でどこに行くんですか」

「引き抜くのは有馬が来てからやるにしても、さっきの連中に先を越されないように、とりあえずあの場所を確保だけはしとかないとな! お前らもぼーっとしてないでさっさと来い!」

 それだけ言うと、こちらの返事も待たずにさっさと行ってしまう。その後を、矢部が慌てて追った。


 やれやれ、仕方無い。私も行くか。


 立ち上がろうとしたところで、これまでただ一人動かなかったカクコが、漸く立ち上がってこちらに寄って来た。しかし未だに息が荒い。どれだけ体力が無いんだ。

「私にも……見せてくれ……」

 息も絶え絶えになりながらそう頼んでくるので、さっきの映像をもう一度再生して見せる。

「やはり……こいつか……もしかしたらとは、思っていたが……」

 なんと、心当たりがあるらしい。

「こいつには……近づくな……。引き抜こうとするのは、もちろんダメだが……触るのも……できれば2メートル以内に近づくのも避けた方が……さもないと……」

「さもないと?」


「……死ぬぞ」

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