第一章:UMA探偵とUMAの山-2

「で、その情報の信憑性は高そうなのか?」

 麻倉はイトウ達のおかしな会話には興味を示さず、有馬からマンドラゴラの情報を引き出そうとしている。

「正直言って現時点では何とも言えないね。ただ、この近辺は最近、UMAの頻出地帯でね。これまでに十匹くらい捕獲している」

「十匹⁉ UMAってそんなほいほい出るもんなの? しかもこんな所に?」

 私は思わず有馬と麻倉の会話に割り込んだ。


 今私達がいるここは山の中とはいえ、そんな秘境というわけではない。来ようと思えば近くの町からすぐ来れる。そんなところに未知の生物が次々と現れるなんてことがあるのだろうか。

 有馬は肩を竦めた。

「まあ、大半は一般人が見てもUMAと気づかないようなものだったけどね。しかしそれでもこんな人里に近い山にこれほど、それもこんな短期間のうちに出るのは異常さ。もっとも、原因にはだいたい検討がついているけどね。気がついているかい? ここはこの前のバッタの時の山に近い。そして、UMAの出没が急増したのも実はあの時以来だ。恐らく、バッタがあそこの施設を壊滅させた時に、飼育されていたUMAの一部が逃げ出したのだろうさ」


 そういえば、私自身は見ていないが、有馬はあそこに巨大UMAの死体があったと言っていた。バッタに食われたその巨大UMA以外にもあそこで飼育されていたUMAがいて、その中から逃亡に成功したものが出たということか。

「じゃあやっぱりマンドラゴラはいるんだな⁉」

 麻倉が身を乗り出す。有馬は少しうんざりした様子で一歩下がった。

「だから、それを今から調べに行くんじゃないか」


「ちょっと待った。調べに行くって言うけど、もしそれでマンドラゴラが見つかったとして、見つけた後はどうするのさ? 引き抜いた時にあげる叫び声を聞いたら死ぬんでしょ?」

 さっき矢部は犬に引き抜かせるという話をしていたが、有馬達は犬なんて連れて来ていない。

「犬に引き抜かせて代わりに犠牲になってもらうという話もあるらしいけどね、愛と平和のUMA探偵・有馬勇真としては無闇と動物を犠牲にしたくはない。というわけで、こんなものを持ってきた」


 そう言って有馬が手首に装着した腕時計のようなものに触ると、落ち葉をガサガサと掻き分けて何かが突進してきた。楕円形ののっぺりとしたボディの側面から、五対の歩脚が突き出している。その全身はつや消しブラックで塗られていた。

 私が知る中で一番近い形状のものを挙げると、ゲジだ。ゲジの足の数を減らせば、こんな感じなのではなかろうか。しかし長さは大型犬と同じくらいある。

 それが五対の脚でシャカシャカと歩いてくるのだから、正直言って、わりと怖い。


「紹介しよう、百十二個あるUMA探偵七つ道具の一つ、牽引用ドローンだ。本来は車が入れないような場所を移動する時、荷物や捕えたUMAを引っ張って運ぶための物なんだが、今回は見つけたマンドラゴラを引き抜く役をやってもらう。まあ、せっかくだから荷物持ちの方も担当してもらうけどね」

「あんたって、本当に色々と変な物持ってるよね……」

「なにしろこの有馬勇真は、実は二十二世紀から来たUMA探偵型ロボットだからね!」

「な、なんだってー! 師匠、そこのところもうちょっと詳しく!」

「いや、何さUMA探偵型ロボットって。せめてヒト型ロボットでしょ」

「んなこたぁどっちでも良いんだよ。それよりもさっさとマンドラゴラを捕まえにいくぞ」

 しかし、麻倉の意気込みとは裏腹に、マンドラゴラ探しは簡単には進まなかった。

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