第六章:矢部桐人と焼却への道-6
そういえばこいつ、さっきランタンを探した時に、スピアガンのケースを偶然見つけていた。
「待て待て、まさかそれでそこの偽官憲を撃つつもりじゃないだろうね?!」
有馬は焦って問いかける。
「私さぁ……嫌いなんだよね」
いったい何の話だ。会話が噛み合っていない。
混乱する有馬をよそに、ルルは相変わらず気怠げな様子で話す。
「ラノベとかでさぁ、平和にのほほんと生きてきた主人公が突然戦いとかに巻き込まれて、殺されそうになって、それでまあそこへ高い戦闘力を持つ謎の美少女とかが駆けつけて主人公を助けて、で、敵にトドメを刺そうとするじゃん? そこで平和にのほほんと生きてきた平和にのほほんと生きてきたアホな主人公が人を殺しちゃいけない! とか言って止めるやつ。嫌いなんだよね、ああいうの。イライラして、イライラして見てられない。生かしておいたらまたこっちを殺しに来るわけで、そうなった時に自分はろくに役に立ちもしないくせにさ、何寝惚けたこと言ってんの? あんたの目は節穴なの? って感じ」
「今のこの状況の場合、どっちかと言うと戦いの日々をおくってきた高い戦闘力を持つ人間に当たるのが私の方なんだから、こっちの意見を尊重してくれないかな。とにかくスピアガンはよすんだ。今、君がセットしているスピアは爆薬カートリッジのやつだぞ。そんなもので撃ったらどんなことになるか分からないのかい? もしかしてまた狂乱状態になってるんじゃないだろうね?!」
「この前の一件で、私はスキル『部分狂化』を手に入れた。これにより、理性を保ったまま冷血無情にして冷酷無慈悲な行いができる。故に、スプラッタ上等!」
ゲームじゃあるまいし、そんなスキルあってたまるか。
というか、ここで爆殺をやった場合、スプラッタがどうとかだけの問題ではなく、幌に穴が開いてバッタが入ってきてしまう。そんなことも予想できていないのだから、本当に理性を保ったままなのかもはなはだ怪しい。会話ができているだけ、この前よりはマシだが。
しかしこの前と違って、化けの皮、もとい化粧が剥がされたわけでもないのにどうしてこうなった。
「だいたい、こいつの仲間が生き残ってたせいで矢部が撃たれたんじゃねーか。だったら私の方もこいつを撃って何がいけない?」
もしかして引き金になったのはそれか? いや、矢部が撃たれたのを聞いた直後はまだ平静を保っていたように思う。おかしくなったのはその後、東雲に襲われかけてからだ。
とはいえ、それだけが原因とも考え難い。今まで東雲やその仲間には散々敵意や殺意を向けられてきているのだから、今になってそれだけが原因でこうなるということも……
――今まで散々?
もしかして何か特定のトリガーがあるのではなく、蓄積していった精神的負荷が一定ラインを超えるとこういう状態になるのか。
この前出会ったばかりの有馬と違って、ルルと矢部は仲間としてそれなりの時間を共にしてきたはずだ。その矢部が撃たれて負荷が大きくかかったところへ、自分自身が狙われたことで一線を超えたと見るのが妥当か。
もしそうだとするなら、冷血無情にして冷酷無慈悲とか言いつつも、仲間の危機に心を乱すくらいの人間性は残っているらしい。
……もっとも、そのせいで今、余計に厄介な状況に陥っているわけだが。
さて、どうするべきか。遠距離攻撃可能な武器を手にしているとはいえ、こちらに向けられているわけではないから、普段の有馬ならばルルから武器を取り上げることは容易い。しかしながら、今の有馬は手錠をかけられている状態だ。
単にルルを倒すというだけなら蹴り技で昏倒させることも可能だが、爆薬カートリッジを付けたスピアガンの暴発が怖い。それに有馬の力で思い切り蹴ってしまうと、ルルの方も無事では済まない。しかし下手に手加減して一発で気絶させられず、スピアガンで撃たれてしまったら一巻の終わりだ。
有馬がああでもないこうでもないと思考を巡らせている間に、ルルはスピアガンを東雲に向けて構えてしまった。
「
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