第五章:UMA探偵と三つの理由-10
俺はルルさんに近づいて、小声で注意する。
「こんな時なんだから、余計な喧嘩を売るのはやめてくださいよ」
しかし、逆にぎろりと睨まれてしまった。
「こんな時って言うけど、そもそも今がどういう時か分かってそれ言ってる? こいつらの仲間がまたやって来る可能性が高くて、そうなったら私らは拷問されたり殺されたりするだろうからさっさとバッタを何とかしてここから逃げ出さないといけないって時じゃん? そうでなきゃ朝になってバッタがどっか行くまでここで籠城してれば良いわけで、あんたがそんな無茶しないといけないのもこいつらのせいなんだから、あんたの方こそもっとこいつらを憎んだり怒ったりするべきだと思うんだけど」
なるほど、考えてみたこともなかったが、確かにそっちの方が人間として自然なのかもしれない。しかし今言われて考えてみたところで、やはりそんな気持ちは湧き上がってきそうになかった。
「むしろ、『檻ごとそいつを外に捨てて生きたままバッタに喰わせろ! それが、俺が外に出る役を引き受ける条件だ!』くらい言い出す方が人間として自然だと思う」
「……俺は自分がまともな人間だと言うつもりはないですが、ルルさんの人間観もそれはそれでどうかしてると思いますよ」
俺達が話している間、奥でごそごそと何かやっていた有馬さんがトランシーバーのような物を手にしてこちらへやって来た。
「無線機だ。持って行くと良い」
器用にも、手錠をかけられたままの状態で取り出してきたらしい。
「あの偽官憲がここは外部と通信しようとしても妨害が入ってうまくいかないとか言っていたが、さっきちょっと試した感じだとこれは普通に通じそうだ。外部とではなく施設内同士での通信ならOKなのか、UMA探偵協会の無線機が優秀だからなのかは分からないけどね。もっとも、悪くするとこの無線機でもちょっと距離が離れると途端に通じなくなるということも有り得るから、そういう可能性も考慮しておいて欲しい。それから、音でバッタの注意を引いてしまうとまずいからこちらからは基本的に連絡はしない。音を立てても安全な状況になったらそっちから連絡を入れてくれ」
「分かりました」
俺は無線機を受け取った。なんとなく、もっとずっしりとしているのではないかと予想していたのだが、意外とそれは軽かった。
その後、有馬さんは無線機の使い方、そして、バッタの注意をできるだけ引かずに運転席までたどり着くための作戦について説明した。
そして、俺は人喰いバッタが飛び交う外へと、ついに踏み出した。
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