第四章:UMA探偵と巨影の襲来-11
ジープから飛び降りた一人の兵士。彼が構えている筒から、火炎が吹き上がった。炎を浴びせられたバッタ達が、燃えながら次々と落ちていく。銃弾のように直線上のバッタだけを仕留めていくのではない。三次元の空間単位で攻撃ができている。
これはいけるか?
そう思えたのも束の間のことだった。炎を吹き上げる兵士に向かって、何故か先刻までとは比べ物にならない勢いで多数のバッタが殺到する。いくら火炎放射器が銃より広い範囲を攻撃できるからといっても、全方位に同時対処するのは不可能だ。たちまちその兵士も真っ黒になるまでバッタに覆い尽くされ、倒れた。
火炎放射器の兵士が乗っていたジープは、仲間の末路を目の当たりにするとそのまま発進しようとした。恐らく、バッタと戦うのを諦めて撤退するつもりだったのだろう。しかしその時には既に、窓ガラスやヘッドライト一面にバッタがへばりついていた。
視界をバッタで覆い尽くされた運転手はパニックになったのだろうか。あるいは、スピードを上げればバッタを剥がせるとでも思ったのかもしれない。ジープは急加速した。
しかし、周りが見えない状態でそんなことをするのは命取りだ。ジープは建物の一つに激突し、炎上した。焼ける肉の臭いでもかぎつけたのか、そこへ更にバッタが殺到する。
「なんということだ……」
東雲が呆然と呟くのが聞こえてきた。
しかし彼女もまたプロなのだろう。いつまでもただ突っ立ってはいなかった。トランシーバーらしきものを取り出し、どこかへ連絡を入れている。恐らく、応援要請をしているのだろう。しかし相手は、あれだけ強力な銃火器を備えていた兵士達をたちまち喰い尽くしてしまったバッタの大群だ。新たに兵力を投入したところで二の舞いになってしまうだけなのではないだろうか。
幸いにして、俺達が今いる荷台には、バッタは入ってきてはいない。そういえば有馬さんは、この荷台の幌は防弾チョッキと同様の素材でできていると言っていた。そうそうバッタに食い破れるようなものではないのだろう。
しかし一歩幌の外に出れば、たちまちバッタの餌食になること請け合いだ。そして、このトラックは運転席と荷台がきっちり仕切られている構造だから、運転席へ移るにはいったん外へで出なくてはならない。つまり、荷台にいて外に出ることができない俺達には、このトラックを動かすことはできない。どこにも逃げ出すことができず、ここに閉じ込められたも同然だ。
いや、閉じ込められているという話をするなら、どのみち東雲達によって檻に閉じ込められているか。
それに、仮に運転できたとしても、さっきのジープみたいにバッタにへばりつかれて前が見えず、事故を起こすのが関の山だろう。
どう転んでも、状況は絶望的だ。
しかしそのことに、心のどこかでホッとしている自分がいることも否めなかった。
死ぬべき時に、自分の意志で死を選択する強さすら無かった俺も、ようやくここで否応無く消え去ることができる。バッタに喰い尽くされて死ぬのは正直、ゾッとせずにはいられない死に様ではあるが、それもまた自分のような人間には相応しいのではないかとも思えた。
一つ残念なのは、ルルさんを巻き込んでしまったことだ。ここへ来ることを命じたのは班長なので、俺が巻き込んだわけじゃないという言い訳もできないではない。しかし、もしも俺が存在しなければ、有馬さんが受けた連絡の話は班長には伝わらず、したがってルルさんがここに来ることもなかった。
やれやれ、俺という人間は最後の最後までこうだったか。俺がいたせいで、またもや死なずに済んだはずの人間が死に、悲しまずに済んだはずの人間が悲しむことになる。だがまあ、それも今回で最後だ。
そんなことを考えていると、横からくいくいと袖が引かれた。見ると、いつの間にかルルさんがすぐ傍まで寄ってきていた。
「ね、矢部っち、ちょっと良いかな?」
耳元でそうささやかれた時、嫌な感覚が這い上がってきた。
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