第四章:UMA探偵と巨影の襲来-5
東雲が有馬さんを見る目はかなり疑わしげで、彼の言い分を信用していないだろうことは容易に察することができた。
しかし疑われている当の有馬さんは涼しげな顔だ。
「知らないさ。私はただ、UMA探偵協会の方で傍受した救援要請の発信源がここだと聞いて調査にきただけだからね」
そう言って、肩をちょっと動かす。いつものようなオーバーリアクションで肩をすくめてみせようとして、手錠がかけられていたせいでできなかったのかもしれない。
東雲は舌打ちした。
「その救援要請は、ここを管理していた同志達が我々に向けて送ったものだ。しかし秘匿通信のはずだというのに、傍受された上に暗号解読までされていたとは、うちの情報セキュリティはどうなっているんだ」
「ま、そういうわけだから、私はそのアマランサスに夢中でライナスが奇行なんていうのとは何の関係も無いよ」
「……何だそれは?」
どう考えてもわざととしか思えない間違え方をしているが、原型を留めなさすぎてそもそも何と間違えているのかすら東雲には伝わらなかったようだ。
そんな東雲の反応を見て、有馬さんは実に残念そうな顔をした。
「君には、人として大切なものが欠けている。それはツッコミの才能だ」
俺の主観で判断するなら、今日一日で一番残念そうな顔ではないだろうか。俺達が檻に閉じ込められたり、有馬さん自身が捕まったり、そういう顔をするべきタイミングはもっと他にいくらでもあったはずの今日という日で、今が一番残念そうというのはいったいどういうことだ。
そして、本日一番の残念顔の次には、東雲ににっこりと微笑みかける有馬さんというレアなものを見ることになった。
「だけど、君には絶望しないで欲しいんだ。大丈夫、まだ間に合う。ツッコミの才能の欠如は、たゆまぬ努力で補えるんだよ。ここは一つ、その至高のツッコミ力からUMA探偵界におけるツッコミ七大天使の一角を占め、町を歩けば道行くモブ達から『ツッコミミカエル!』『嗚呼、ツッコミミカエル!』と歓声が投げかけられる有馬勇真が君にツッコミの指導をしてあげようじゃあないか。しかしさしものツッコミミカエルといえども、檻に入れられたままでは適切な指導は難しい。そういうわけで、ちょっとここから出してくれないだろうか」
「……今のがつっこむところか?」
「君の言っていることは実に意味不明だね。ツッコミミカエルはその名の通りツッコミ担当であってボケ担当ではないのだから、私の言うことにツッコミどころがあるわけがないだろう?もうちょっとまともな人間にも通じるように会話をしてくれないと困るよ、本当に」
あれ、でもそもそもこんな話が始まったのは、有馬さんの間違いに東雲がつっこめなかったからじゃなかったっけ??
それなのに、有馬さんはツッコミの方の担当だからツッコミどころのある発言はしないって……どういうことだろう?
「うわー、なんかもう『なんでやねん!お前はどう見てもボケ担当やろ!』ってバールでつっこみたくなってくる。矢部っちもそう思うよね?」
ルルさんに耳打ちされて、
どうも、有馬さんの妙に自信満々な態度に引っ張られて発言内容を真に受けすぎ、そのせいで混乱していたようだ。
「そうですね」
半ば反射的に
「いや、バールでつっこみたくはなりませんからね?!」
せめてハリセンだろう。バールでつっこむところとか、想像したらただの撲殺現行犯だ。
「やはりお前は怪しすぎる。さりげなく檻から逃げ出そうと画策するし」
そんなにさりげなくもなかったような……。
「おかしいな。これまでの私の発言のいったいどこに怪しむべき点があったというのだろう?」
「その分だと、すっとぼけているだけでやはりここの襲撃はお前の仕業だったりするんじゃないか?UMA探偵というからには、これまでに捕獲したUMAを大量に隠し持っていたりするんだろう。昨夜は、それを使ってここを襲撃させた。そして今日、お前はそれが成功したかを確認しに来た、というのはどうだ?」
「随分と想像力豊かな工作員だね。工作より創作に向いているんじゃあないかな。しかしUMA探偵はUMAをそんなことに使ったりはしないさ。だいたい、もしそんな後ろ暗いことをしたのなら、一人でこっそり来るか、もしくは戦闘能力のあるUMA探偵仲間とチームを組んでくるかのどっちかだよ。こんな風に一般人を連れてやって来たりはしないさ」
後半の方は、言われてみれば確かに、と納得してしまうだけの筋は通った反論だった。さっきまでツッコミミカエルとかわけの分からない言っていたのと同一人物とは思えない。
どうもこの人は、論理的な時とそうでない時の落差が激しすぎて、どこまでが素で、どこからわざとやっているのかがよく分からないな。
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