第四章:UMA探偵と巨影の襲来-4

 兵士達は去り、見張りは東雲一人となったが、ルルさんから檻の鍵を奪った兵士もいなくなってしまったため、隙を見て逃げ出せる確率が上がったわけではない。

 そして東雲自身は銃を手にしてはいないが、荷台には兵士が持ち込んだと思しき銃が置いてあるため、その気になれば格子越しにこちらを一方的に銃殺することもできる。

 要するに、こちらの立場は非常に悪いままだ。


「有馬さん、喉は大丈夫なんですか?」

 ついさっき、銃の先端で突かれた有馬さんにそう尋ねると、手を振りながら平気平気と返してきた。手錠がかけられているせいで、ちょっとおかしなジェスチャーになっているが。

「UMA探偵たるもの、喉も常に鍛えているからね」

 喉というのは、打撃に対して強くなるよう鍛えられるものなんだろうか。


「そういえばさ」

 ルルさんが、つんつんとこちらの肩を指でつつきながら、小声で話しかけてきた。

「あいつらがさっき言ってたASEAって、もしかしてあのASEAのことかな?」

「あの?」

 どのASEAだろう?

 それほど時間をかけて記憶を掘り起こしていたつもりは無いのだが、こちらが何かに思い当たるよりも先に、ルルさんはじれったそうに言葉を重ねた。

「ほら、前に取材に行ったじゃん」

 前に取材に行った……?

 それで漸く思い出した。

 アマテラス宇宙開発機構Amaterasu Space Exploration Agency

 あれの略称も、確かにASEAだ。

「いや、あれとはまた別じゃないですか?結局、あそこはいくら調べても怪しいところは何も見つからなかったですし、こんな物騒な話とは関係無いと思いますよ」

「そうは言うけどさー、ガチでヤバイところだったら、うちみたいな三流番組で調べたくらいでボロを出すわけないじゃん?」

 それは確かにそうなのかもしれないけど、また随分と身も蓋もないこと言い方をするなぁ……。


「なんだい、彼らだけでなく君達もそのASEAとかいうのを知っているのかい?もしかして有名なものなのかい?」

 有馬さんが話に混ざってきた。

 小声で話していたつもりだったのだが、聞こえていたようだ。やはり普段から野生動物を相手にしている分、耳が良いのかもしれない。

 まあ、別に聞かれて困る話でもないのだが。

「フツーの人達の間ではそんなに有名じゃないんじゃない?まあでも、陰謀論とか都市伝説とかのマニアの間では、フリーメイソンとイルミナティと薔薇十字団の次くらいに有名かもね。だから私らのところでも取り上げたわけだし」

「言っておきますが、別に秘密結社とかそういう怪しいものじゃないですよ」

 ルルさんのこの返答では却って誤解を招きそうな気がしたので、急いで補足する。

「正式名称はアマテラス宇宙開発機構と言います。設立目的はスペースコロニーや大型宇宙船の建造、それにテラフォーミングのための技術開発促進だとか。アマテラス財団が設立した民間団体ですが、その高い技術力からNASAやJAXAを含め、世界各国の政府機関とも提携しているまっとうな団体です」

 我知らずASEAを弁護するような説明になっていた。別にそんなことをする義理も無いのだが。


「ま、その技術力の高さが陰謀論の元凶になってるんだけどね」

「というと?」

「さっき矢部っちがあちこちの国の政府機関と提携してるって言ってたけど、どっちかっていうと、どこの国もそうせざるを得ないって感じなの。ASEAとの連携無しでやっていこうとすると、自分達のとこだけが世界の宇宙開発から取り残されるからね。まあ、それだけあそこの技術レベルがぶっちぎりなわけだけど。そんなわけで、今や世界の宇宙開発はASEAが牛耳ってるとか言われてるわけよ。……でも、一番不審がられてるのは、設立から、そんなNASAもぶっちぎるレベルの技術を開発するまでの期間が短すぎるってこと。で、こんな噂が流れるようになった。『ASEAは宇宙人と裏取引をして技術を提供してもらっている、あるいは、ASEA自体が宇宙人によって作られた機関だ』」

「UFOで有名な米軍の管理区域のエリア51っていうのがあるんですが、あそこも米国政府との提携というかたちを取りつつ、実質的にはASEAの設備になっているという話で、そういうのも、その噂に拍車をかけてるみたいです。あと、ナチスのV2ロケットを開発したフォン・ブラウンが戦後はNASAで活躍したみたいに、宇宙開発と軍事技術は密接に関わってるところもあるんで、宇宙開発は建前で本当は強力な兵器を開発して世界制服をするつもりなんじゃないか、みたいなことを言ってる人もいますね。もっとも、俺達が調べた限りでは、公表している設立目的通りの活動に全力を注いでいて、兵器開発とかには特に興味無さそうな感じでしたけど」


「ふーむ」

 一通り説明を受けた有馬さんは、しかし解せぬと言わんばかりに首をかしげた。

「まあだいたいのところは分かったが、それがUMA探偵といったい何の関係があるというんだい?」

「私は知りませんよ。あなたが知っているんですよ、有馬さん」

 何故かルルさんの返答がいつもと違う喋り方になっている。何かの台詞の真似とかだろうか。

 しかし喋り方はともかく、言ってる内容については基本的に俺も同感だ。ASEAとUMA探偵の関係なんて、有馬さんが知ってるかどうかはともかく、少なくとも俺達が知るはずもない。

 というか、そもそも本当に関係あるのだろうか。さっきの男は、手先とか何とか言っていたようだったけど。

「まあでもほら、UMAもUFOも似たようなもんだし」

「いやいや、UがUnidentifiedのUであることくらいしか共通項はないと思うんだけどね?」


「お前、本当に何も知らないのか?すっとぼけているとかではなく?」

 また新たな人物が話に割って入った。

 東雲だ。

 有馬さんが話に加わってから、気がつかないうちに声が大きくなっていたようで、東雲にまで聞かれてしまっていたらしい。

「じゃあ何か?我々が押さえる前は、ここがASEAの基地だったことも知らないと言うつもりか?」

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